広島県府中市のAileLinXは有線係留型ドローン「HOVER EYE」を開発した。これまでの展示会では試作機の出展にとどまっていたが、ジャパン・ドローン関西では量産機を披露。操作性と長時間飛行を重視した設計で、上空からの継続的な監視や状況把握が求められる消防・防災・インフラ点検など幅広い分野での活用が期待されている。
係留飛行+タブレット操作で“誰でも運用”を実現したHOVER EYE
HOVER EYEは有線ドローンとなっており、ケーブルを介して常時電源を供給することで長時間飛行を実現している。飛行時間に捉われないことから警備監視や消防による災害対応などを視野に開発された。
HOVER EYEは有線であることから係留飛行に該当する。ドローンにおける係留飛行とは地面や専用の装置とドローンをつなぎとめて飛行すること。ドローンで係留飛行する場合、人口集中地区での飛行、夜間飛行、目視外飛行、第三者から30m以内の飛行、物件投下といった航空法上で規制された特定飛行について、許可・承認の申請が不要になる。また補助者を配置せず1人でも運用が可能になるため、操縦に気を取られずに本来の業務に専念できる点もメリットになる。
HOVER EYEで特徴的なのは高度調整の仕組みだ。操縦する際には通常のスティックが付いたプロポ(送信機)ではなく、iPadを使用する。操作画面は非常にシンプルで、中央に機体カメラの映像が映し出され、画面上部には「離陸スタート」「iPad録画」「非常停止」といったボタン類を配置。右下には高度を示すメモリが表示される。このメモリを指で上げ下げすることで、機体の高度を調整する仕組みだ。離陸スタートボタンを押すと5mまで上昇し、その後は、最大30mまで5m間隔で設定可能。通常のドローンのように前後左右への移動は可能だが、風などの影響を受けても機体の位置を保持するためで、自由自在に動かすことは想定していない。あくまで高い場所から観測することに特化した設計だ。
カメラはザクティ製の光学ズームジンバルカメラまたは可視+IRジンバルカメラ(赤外線カメラ)のいずれかを搭載可能。カメラ自体は左右120度まで角度を変更できるが、機体の脚が映り込んでしまうので、機体自体を回転させることで、周囲360度の視界を確保できる。
赤外線カメラを使った火事の火元確認や長時間監視に最適
有線化による最大のメリットは、係留用のケーブルを介して給電できるため、長時間連続飛行が実現できる点だ。通常のバッテリーで飛行するドローンであれば30分程度が限界。自動給電やバッテリー交換を可能にするドローンポートも登場しているが、作業のためどうしても一度着陸させる必要があり、その間の撮影などはできない。その点、HOVER EYEは24時間連続飛行するスペックを有するので、一時も目を離すことなく観測を続けられるのだ。担当者は「約2時間程度行われるという火災現場での消防活動に対応するには十分な性能を持ちます。また、土砂災害の現場など長時間にわたって監視が必要なケースでも24時間連続飛行は効果を発揮すると考えています」とアピールする。消火活動の用途としては火災現場の上空監視が挙げられる。現場を俯瞰し、残り火や発生源を確認することで、消火活動の精度や安全性を向上できるだろう。
ドローンを係留するケーブルにも技術的な工夫が見られる。ケーブルには強いテンションがかけられており、風によるたわみを防止。万が一のエラー発生時には自動巻き取り制御が働いて墜落リスクを下げる対策も実装されている。これらの安全機能(フェールセーフ)は、1人での運用を想定した設計とも相まって、現場導入のハードルを下げる要素だ。
機体は係留装置を組み込んだ専用のボックスに収められている。ボックスに電源を差し込み、機体へ給電する流れ。所要電力はAC100V、15Aの1500Wとなっているので、一般的な発電機や家庭用電源が使用可能。重さは32kgとなり、大人2人がいれば難なく運べるだろう。
販売は2025年春開始。消防関係から興味を集めている。また、近年、銅などの素材価格の高騰を受けて、電線などの盗難事件が発生している。これらが保管されている工場などが防犯対策として使用を検討するといったセキュリティ用途への関心もあるという。価格はカメラ付きで約600万円。1年間で5台程度の販売目標を掲げている。
従来のドローンは操縦という専門技術を身につける必要があったが、HOVER EYEは高い場所から観測する機能だけに特化することで、幅広い人々が使えるように配慮した機体になった。この機体の普及が「高所から俯瞰する」というドローンの有用性を活用できるシーンの増加につながるだろう。
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