鉄塔や、その間を縫うように張り巡らされた送電線。それらを日常的に点検し、維持管理を行うためには、高所作業が不可欠だ。しかし、近年は鉄塔に登れる専門技術者の減少が進んでいる。そこでドローンを活用した点検手法を取り入れる動きが活発になっている。
中部電力パワーグリッドは東海地方を基盤に送配電事業に携わる。同社においても送電線等の点検は作業員が高所に登り対応してきたが、安全性と効率性を両立できる手段としてドローンを採用し、現在はドローンによる点検が標準的な手段になりつつあるという。
送電線やロープウェイのケーブル点検をドローンで代替え
使用機材に関しては、DJI Matrice 300 RTKなど汎用性の高い産業機を使用。アプリケーションは、運航管理ソフトウェアを手掛けるセンシンロボティクスと共同開発したものを使用する。担当者は「一度、送電線に沿った点検用の航路を設計しておけば繰り返し使えるので、効率的に業務が行えます」と話す。
同社としては点検サービスの外販を視野に入れている。顧客となるのは、鉄塔や送電線を持つ大規模な工場を想定している。また、同社の取り組みとして興味を引かれるのはロープウェイに使用されているケーブルの点検も行っている点だ。ロープウェイは車両を取り付けたケーブルを巻き上げることで、車両が進行する仕組み。ケーブルは直径50mm程度あり頑丈なものであるが、人を乗せた車両を恒常的に吊り下げているという構造上、当然点検が不可欠。そこで中部電力パワーグリッドでは日本平ロープウェイ(静岡県)において、送電線点検で培ったノウハウを用いてケーブルの点検を行っている。
点検分野は今後もドローンビジネスにおいて大きく成長することが見込まれており、競争が激しくなると予想される。他社と差別化できる強みをもつことが肝心だが、中部電力パワーグリッドは「点検データを報告するだけでなく、修理すべきポイントまで提案する」という一貫体制を強調する。ドローンを操縦できる人材は増えているものの、収集データの解析や報告書作成、改善策の立案まで担える会社や人材は限られている。こうした包括的サービスは顧客にとって大きな付加価値となりそうだ。
ドローンを主とした事業を展開する電力会社の取り組み
今回の展示会ではグループ会社である中部精機も出展していた。こちらはドローンスクールの運営や農薬散布など点検以外の領域でドローン事業に関わり、中部電力ブループ全体でドローンビジネスを行っていく姿勢を強調した。
九州電力からスピンアウトした九電ドローンサービスは、様々な機体を使用して屋内外を問わず点検業務に従事しているケースが知られる。また、中国電力グループのエネコムはエネドローンのブランド名でドローン学習用eラーニングコンテンツを提供。このように電力各社の関連会社は、ドローン事業に取り組む姿勢を加速させている。中部電力パワーグリッドとしても各社とは対抗するのではなく、技術を高め合い、お互いに助け合いながら事業を展開できることを望んでいるという。実際、中部電力パワーグリッドは沖縄電力や四国電力に点検サービスを提供しており、そこで蓄積された知見や技術はよりよい点検サービスの提供につながっていくはずだ。
高所作業の人手不足や設備老朽化など、電力インフラが抱える課題は一社単独では解決が難しい。中部電力パワーグリッドの取り組みは、業界横断のパートナーシップとドローン技術を融合することで、新たなインフラメンテナンスのかたちを示唆している。今後、さらなる実用化やビジネス展開が進むにつれ、その成果は地域社会や産業界全般に還元されていくだろう。
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