災害発生時、ドローンを活用して被災状況の確認やダメージを受けたインフラの点検、孤立地域への物資輸送を行うことに期待が高まっている。それを受け、CEATEC 2024では「災害時のドローン活用最前線」と題した講演が開催された。

 本講演にはパネラーとして球体ガードを装備した点検ドローン「ELIOS 3」の販売や、ドローンによる送電線点検ソリューション「BEPライン」などを手掛けるブルーイノベーションの熊田貴之社長、元自衛官でドローンのコンソーシアム団体・JUIDA(一般社団法人日本UAS産業振興協議会)の嶋本学参与、ファシリテーターとしてドローンジャーナルの河野大助編集長が登壇。2024年1月の能登半島地震をはじめとした災害時にドローンの運航に携わってきた事業者の生の声が聞けるとあって、会場は満席、立ち見が出るほどとなった。

写真:スクリーンの前に並ぶ3人
登壇した(右から)嶋本参与、熊田社長、河野編集長。

 講演ではまず、嶋本氏がこれまでの経歴とドローンとの関わりについて話した。陸上自衛官として数多くの災害現場対応に関わった嶋本氏は、2019年にJUIDA、国産ドローンメーカーのACSLと陸上自衛隊東部方面隊との協定締結(ドローンによる情報収集)に携わった。嶋本氏が初めて災害対応でドローンを活用したのが同年の浅間山噴火に関わる情報収集だった。このときは赤外線カメラを使って情報収集を行っている。2023年からJUIDAの参与として活躍している。

災害対応の実践で見えてきたドローンの必要性と運用課題

 1月1日に発生した能登半島地震では1月4日に輪島市、1月14日に珠洲市から要請を受け、JUIDAは能登半島地震でのドローンを活用した災害支援に着手。ドローンの利用方法がわからない自治体に対して具体的な方法を提示してニーズを汲み取り、JUIDAの会員企業のなかからニーズにフィットする企業を選抜、現地での活動を要請した。また現地入りしていた陸上自衛隊第10師団とは1月10日に協定を締結し、災害現場でともに活動した。

 嶋本氏は「人命救助のタイムリミットと言われる『72時間の壁』を過ぎてからの活動開始となったのは課題として残りました。しかし、2月7日に災害支援本部を東京に移すまでの1か月間、ドローンによる災害支援活動に100回以上取り組みました。今回は災害対応のため、ドローンを組織的に、そして大量に活用する初めてのケースとなりました」と活動を振り返った。また、ブルーイノベーションの現地での活躍ぶりについても触れ、人手のたりない現地でドローンを飛ばすだけでなく、ほかの支援活動も手伝った姿勢は大切だと称賛した。

写真:話をする嶋本氏
ドローンを組織的に活用し、安全かつ効率的な災害支援の実施を主張した嶋本参与。
写真:能登半島地震時の活動体制(スライド)。輪島市と珠洲市が支援要請を行い、JUIDAが全体統括を担った
能登半島地震における取り組みの活動体制図。JUIDAの統括のもとACSL、SkyDrive、Liberawareといった各メーカーが入る形に。

 熊田氏はブルーイノベーションが行った、「初動支援」「詳細点検」「二次災害の監視」という3つの災害支援活動について紹介。初動支援では道路の崩壊・寸断・陥没などにより孤立してしまった集落の安否確認にドローンを活用した。また仮設住宅の建設候補地の安全性を上空から俯瞰して確かめた。詳細点検は地震の影響を受けた橋梁の点検をドローンで実施した。同社のELIOS 3が橋梁下部のGPS信号を受けられない場所でも安定飛行して、橋梁の撮影、3Dデータの取得などを行った。

 二次災害の監視で活躍したのは、同社が手掛けるドローンポート「BEPポート」だ。地震によって崩落が起き、河川が閉塞され、いつ土砂ダムが決壊するかわからない現場が発生した。そこで現場付近にドローンポートを設置。道路が寸断されて到達困難な現場へ、ドローンは10~20分ほど飛行し、定期的に状況を監視した。災害現場の経験が抱負な嶋本さんはドローンポートを使った取り組みについて「危険なので操縦者を現場付近に常駐させられません。安全に、定期的に情報収集ができるのでドローンポートの設置は効果的です」と評価した。

写真:話をする熊田氏
熊田社長はドローンを用いた初動支援、詳細点検、二次災害の監視について紹介した。
写真:設置されたドローンポートからドローンが離陸する様子
ドローンポート「BEPポート」から離陸するドローン。自律飛行し、監視に向かう。

 続いて、災害時におけるドローンの有用性についてディスカッションが行われた。熊田氏はまずヘリコプターで近づけないような場所へも接近できることをあげた。また、能登半島地震では物資輸送ドローンも活用されたが、ヘリコプターよりもきめ細かい場所へ輸送できることも強調した。また、俯瞰して現場を確認できるので支援戦略も立案しやすいと主張した。嶋本さんはこれらに加えてコストの低減についても指摘。俯瞰しての情報収集は人工衛星の活用が考えられるが、コストは膨大となる。また、ヘリコプターもコスト高なうえ、運用できる機数に限りがある。そこで相対的にコストが低いドローンを多数使い、監視や物資輸送など目的を達成するのが重要だと説明した。

 有効に使えると判明しているドローンだが、運用には課題もある。嶋本氏はドローンの1対多運航を取り上げた。現状、1機のドローンを操縦者に加えて複数の補助者でチームを組み飛行させているが、効率が悪い。また、発災時にはとにかく人手がたりなくなる。そこで、ドローンポートと1対多運航を組み合わせて、1人の操縦者が様々なユースケースごとに飛行させることが重要になると解説した。

 熊田氏はまず、飛行許可の取得について指摘。災害が起きていると災害協定を結んでいるか、自治体からの支援要請を受けるかしなければ飛行させられない。また、電源の確保もあげられた。「充電ができない状況での活動を考慮すると、ドローンの飛行時間が数時間程度ほしいです。そうすれば、もっといろいろな事態に対応できると痛感します。また、ドローンにできることは様々ですが、最終的に何をさせるかジャッジするのは自治体担当者の方たちです。それを踏まえて、ぜひ各自治体の皆さんにはドローンをはじめとした最新テクノロジーの情報をキャッチアップして、運用方法のガイドライン作成などに取り組んでいただけたらと思います」と、熊田氏は現場経験を踏まえて提言した。

 まとめとしてパネラーの2人が、今後のドローン開発や災害時の活用について意見を述べた。熊田氏は「有事を想定したスペックでの機体開発を進めるのが重要だと感じます。とくにドローンは雨に弱いですから、耐候性の向上が重要だと考えます」、嶋本さんは「災害時における一番の課題は即応性です。今回の災害をきっかけにドローン活用の認識が高まったので、JUIDAとしては都道府県単位での防災協定締結を進め、即応性を確保できるようにしようと考えています」と展望を語った。

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