内閣官房が主導する「デジタル田園都市国家構想」は、デジタル技術を活用して地方が抱える課題を解決し、住み心地の良さを向上していく取り組みである。CEATEC 2024では特設パビリオンが設けられ、ドローンについての取り組みを紹介する自治体・事業者が見られた。

 内閣府国家戦略特区では「連携“絆”特区」を定めることとした。地域の産官学にいるプレイヤーが連携し、迅速に規制改革を進め、地域課題解決を目指すものだが、特徴的なのは、同じような課題を持つほかの地域との連携を盛り込んでいる点だ。

新技術実装連携“絆”特区、福島県と長崎県のドローン物流の取り組み

 2024年6月には、福島県と長崎県が「新技術実装連携“絆”特区」に指定されている。福島県はドローンをはじめ、各種ロボットの試験を行う「福島ロボットテストフィールド」を有する。また、山間部が多く物流網の維持に課題があることから、ドローン物資輸送の社会実装へ向けた取り組みに前向きだ。一方、長崎県は離島を多く抱え、離島への物流網維持や緊急時の医療資機材輸送といった課題を持つ。またドローン物流を手掛ける企業である そらいいな が、すでに五島列島で医療品や日用品の配送をスタートさせている。このようにドローンの社会実装に積極的な2つの県が手を結んだ格好だ。

写真:福島県と長崎県の担当者
連携“絆”特区でタッグを組む福島県(左)と長崎県の担当者。会場で取り組みを積極的にアピールした

 特区に指定されたことで「点と点を結ぶ飛行ではなく、定められたエリア内でレベル4飛行が実施可能」(レベル4エリア飛行)という規制緩和が行われた。現状のレベル4飛行では、飛行経路を定め、国土交通省から許可を得て飛行を実施している。また、現在のドローン物資輸送では離陸地点から集配施設の性格を備えた着陸地点を結ぶ点間飛行が一般的となっているが、今後は個別宅配の実現に期待がかかる。点間飛行しかできない場合、個別宅配用の飛行経路ごとに許可を得なくてはならない。だがエリア内でのレベル4飛行が実施できれば、個別の経路を作成し、許可を取得する必要がなくなるのだ。飛行経路を自由に設定できれば、物資のオンデマンド(即時)輸送に対応しやすくなるとも期待されている。

写真:福島県の解説パネル
福島県の連携“絆”特区における取り組みを紹介するパネル
写真:長崎県の解説パネル
長崎県の連携“絆”特区における取り組みを紹介するパネル

 長崎県の担当者は「離島で診断を受け、今すぐ薬が必要という事態に活用できると思いますし、我々も住民からそういった要望を受けています。現在は事業が国の調査を経て採択され、これから動き出すタイミングです」と現地のニーズや現状を説明した。長崎県についてはすでにドローンの物資輸送の実装が進んでいることを踏まえると、すぐにでもレベル4エリア飛行が実現するのではないかと期待が高まる。

 だが、福島県の担当者は「まずは限定したエリアでレベル3飛行、レベル3.5飛行を積み重ねて、レベル4エリア飛行の課題を抽出します」と、現状行われている実証実験と同じ段階を踏むと指摘した。福島県でも長崎県と同様にレベル4エリア飛行に取り組むが、安全対策などを突き詰め、社会実装に向けた「福島モデル」を示したい考えだ。

 連携“絆”特区の取り組みは開始から間もない。成果が見えてくるのは、まだ先になりそうだ。

ドローンの航路作成に必要な情報を提供

写真:展示ブースのモニターに表示されるドローン航路の説明
KDDIスマートドローンのブースで掲出された、ドローン航路に関する考え方の紹介モニター

 ブースでは「ドローン航路」の実証に関する展示も見られた。河川や送電線上といったリスクが低減された飛行空間をドローン航路として整備し、物資輸送や点検・巡視などに活用する。ドローン航路の使用予約システムの整備を担当するKDDIスマートドローンの担当者は「弊社ですでに使用しているドローンの予約システムに新しい機能を搭載して使用します。現在は埼玉県秩父エリアの送電線、静岡県浜松市の河川というようにテーマを絞っています、将来的には全国各地で利用できるように取り組みを進めています」と解説。

 KDDIスマートドローンの隣にブースを構えたトラジェクトリーはドローン航路の整備や管理を担当。航路の状況は日々変化する。その情報を集め適切な状態になるように管理し、航路を使用したい事業者に情報提供したり、必要に応じて国土交通省航空局と調整したりする役回りだ。

写真:トラジェクトリーの紹介パネル
トラジェクトリーでは河川上空の航路について紹介パネルを展示

 例えばドローン物流を手掛ける事業者が一から航路を作ろうとすると、航路の設計や、その経路下や周辺の関係者との調整など手間が多く、コストが掛かる。ドローン航路を使用すればそれらを省き、飛行に専念できるのが強みだ。トラジェクトリーの担当者は「これまでになかった新しいビジネスに取り組んでいると自負しています。『実装』と言っていますので、その年だけやって終わりではなく継続して使われる場所として浜松市が選ばれたので、成功事例にしてほかの地域に展開できるようにしたい」と話す。

 グリッドスカイウェイはドローン航路を活用し、遠隔地からドローンを目視外飛行して、送電線の点検を行う。「あらかじめドローンが飛べる空間を取っておくので安全に飛行できますし、飛行前に行う(周辺状況の確認といった)プロセスも省略できるので、航路の有用性はあると考えています」(担当者)。今後は送電線上の航路と河川上の航路が交わるような場所が出現した場合、どのように相互乗り入れさせるかといった課題も解決したいという。

写真:グリッドスカイウェイの解説パネル
送電線上の航路について紹介するパネルを展示したグリッドスカイウェイ
写真:デジタル田園都市国家構想パビリオンの様子
デジタル田園都市国家構想パビリオン。自治体や事業者が相乗りしてブースを展開した

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