10月に北海道札幌市内で開催された「第3回ドローンサミット」では、全国新スマート物流推進協議会が特別プログラムを開催した。テーマは、「ドローン物流を組み込んだ新たな社会インフラの現在地と今後の展開」。
最初に同協議会の会長で北海道上士幌町長の竹中貢氏が登壇し、「陸送と空送(ドローン)のベストミックスによって、物流の課題を解決でき、安心して住める環境を整えられる。そんな確信をいま抱いている」と挨拶した。
10月1日から上士幌町では、郵便局の集配車の助手席に農村地域のお年寄りを乗せる、貨客混載の実証実験を開始した。竹中氏は、「あらゆるモビリティを組み合わせることで、いまの社会課題は必ず解決できる。その一翼をこの協議会が担っている」と説明した。
シンポジウムでは、3つのセッションが行われた。最初のオープニング講演には、国土交通省 物流・自動車局長の鶴田浩久氏が登壇し、最新の政策動向などを説明した。続くパネルディスカッションの1つ目では、「フェーズフリー」を主題として、大分県と山梨県のキーマンが対談し、NEXT DELIVERYがモデレーターを務めた。2つ目では、国交省、佐川急便、日本郵便、セイノーの4者が一堂に会して、「地域物流における集約化、自動化」をテーマに議論を交わした。
閉会時には、同協議会常任理事で山梨県小菅村長の舩木直美氏が、「ドローンは平時からやっていかなければ、災害のときだけ使うということは難しい」と述べて、改めてドローンの活用を呼びかけた。
「陸送とドローンの組み合わせ」に期待
鶴田氏は、「前年の本シンポジウムでも講演させていただいた」と前置きしつつ、昨年からのアップデートを含め、最近の物流政策を紹介した。物流法案を提出後、2024年5月に改正物流法公布。現在は、その施行に向けた準備と、2月に策定・公表された「2030年度に向けた政府の中長期計画」に基づき、「物流革新に向けた政策パッケージ」来年度予算の要求に向けた議論を進めているという。
陸送における施策は、高速道路の大型車両対応や、ドライバーの日帰り就業が可能になるような中継輸送拠点の整備、成田空港における3本目の滑走路の新設、船や鉄道へのシフト、インフラ整備など、多岐にわたる。幅広いモビリティの自動化、省力化を推進することで、物流を効率化しつつ、トラックドライバーの賃上げを図ることが重要だという。
ドローンについても、レベル4飛行や1対多運航の必要性に言及したほか、ドローンポートや配送ロボットなど、新たなモビリティとの連携が重要だと話した。また、能登半島地震でのドローン活用にも触れて、「平時から体制を確立して連携しておくことが大事だ」と話し、ガイドラインの整備状況も説明した。
「陸送とドローンの組み合わせというのが、この協議会のすごく素晴らしいところだ。陸送側は、担い手の確保や、過疎地での採算性が課題。ドローン側は、既存物流にどう自分たちを組み込んでいくべきか模索している。お互いに悩んでいる人たちが集まっているからこそ、協力の第一歩になる。また、経済性を曖昧にしていては成立しない。いい協力関係を築いてもらえるよう、行政も役立っていかなければと思っている」(鶴田氏)
「フェーズフリー」のフロントランナー、大分県と山梨県の事例
1つ目のパネルディスカッションでは、大分県商工観光労働部新産業振興室 新産業・技術振興班 主査の山﨑亮太氏、山梨県知事政策局 リニア・次世代交通推進グループ 次世代交通推進 主任の宮川新一氏がパネリストとして登壇。NEXT DELIVERY企画部 部長代理の近藤建斗氏がモデレーターを務めて、「フェーズフリー」を主題に対談した。
最初に、両県がこれまでのドローン産業振興の取り組みについて説明した。大分県では、すでに200社団体に成長した「ドローン協議会」の立ち上げや、ドローン物流の実証実験など、主に4軸で産業振興を図ってきた。特にドローン物流では、2017年度に10kgの重量物を山越えで配送、2018年度に2点間のドローン定期便の実現、2019年度に県内に7つある有人離島のうち1島への医薬品の長距離海上配送、2020年度からは災害時での活用を想定したドローン物流の社会実装プロジェクトや、ドローン協議会との連携も強化してきたという。
山﨑氏は、「こうした取り組みで基盤を築いてきたからこそ、令和5(2023)年の豪雨被害の際には、発災直後のドローンによる救援物資配送を実施できた。調査・物資輸送も、県内事業者だけで行えたため、当日対応が可能だった」と振り返る。2024年度からは「防災力強化」を目的に、民間主導の実装を後押しするという。
大分県はもともと九州地域では福岡県に次ぐ製造品出荷額を誇る県で、工業が地域経済の大きな支えとなっているそうだ。山﨑氏は、「機体メーカーやドローンサービスを提供する方々が大分県内に多数いらっしゃるところが、本県の強みであると改めて実感した」とも話した。
山梨県では、広範な山岳地帯と一部交通不便な地域が県内に点在し、物流インフラの課題が顕在化しているため、フェーズフリーな地域物流インフラの構築を目指して、多様な施策を展開しているという。2021年度から実施した「TRY!YAMANASHI! 実証実験サポート事業」では、39件のプロジェクトを採択し、県内での無人配送実験を推進してきた。
一方で、リニア中央新幹線が開業すれば、品川から25分、名古屋から45分という劇的時間短縮が可能になる。盆地、河川、湖、急峻な山々などの多様なフィールドを持つ山梨県が、大都市圏にある大企業、スタートアップ、研究者らのテストベッドとなる未来も見据えているという。
宮川氏は、実証実験サポート事業の第一期で採択したエアロネクストと小菅村の取り組みについて、「小菅村の村長さんの強力なリーダーシップがあって、村役場さんの方でも協力しながら進めてきたことが、いま新スマート物流が全国に展開している。県としても非常にありがたく思っている」と述べた。これにはモデレーターの近藤氏も、「先日の協定では、山梨から育ったベンチャーがまた山梨に戻ってくれて、とても親孝行だというふうに知事からもおっしゃっていただき、とても印象的だった」と応えていた。
この協定というのは、「フェーズフリーな地域物流インフラの構築」に向けて、NEXT DELIVERY、セイノーラストワンマイル、富岳通運の3社と結んだ連携協定のことで、平常時は「新スマート物流」、災害時は「緊急物流プラットフォーム」により、県内の物流課題の解決を図る取り組みだ。また、県の予算を付けて、法人や個人へのサポートや条例など、山梨県全体の物流基盤の強化を目指しているという。
次に、対談では、「県内の物流事業者が手がけるフェーズフリーインフラの構築」というテーマで、主に基礎自治体との連携が話題に上がった。大分県では、基礎自治体に物流担当部署がないことが多いため、協力できる市町村から先行して、既存の物流網がドローンを取り入れるというアプローチで、フェーズフリーインフラ構築に着手したという。山梨県では、基礎自治体の中でも物流課題に対する意識はさまざまなので、物流事業者への実態調査を行って課題を明らかにしつつ、先行している小菅村への視察などを通じて、市町村との連携を強化しているそうだ。
近藤氏は、新スマート物流を推進する民間の立場から、NEXT DELIVERYと大分県内最大手物流会社である中津急行や、かねてより共同配送で協働してきた山梨県の物流会社である富岳通運とのSkyHub Provider License契約締結について紹介した。
こうした議論の中で、「中津急行が大分県ドローン協議会に加盟することで、地域にある既存のドローンコミュニティと既存の物流が交わる接点が生まれる」「山梨県と富岳通運はもともと防災の協定を締結していた。有事の際に対する課題意識がすでにある物流事業者との連携には大きな意義がある」と、フェーズフリー実現に向けた発展要因が、具体的に浮き彫りにされていた。
ドローンという新しい存在が、既存のやり方を変えるきっかけに
2つ目のパネルディスカッションでは、佐川急便 東京本社 事業開発部 事業開発担当部長の佐藤諒平氏、日本郵便 執行役員の五味儀裕氏、国土交通省の鶴田氏がパネリスト、セイノーホールディングス 執行役員の河合秀治氏がモデレーターを務めた。
最初に河合氏が物流業界全体の課題を整理して共有した。国内のトラック事業者は約6万3000社で増加傾向、中小企業率が99%。年間労働時間は全職業平均より約2割(400~450h)長く、年間賃金は全産業平均より5%~15%(20~60万円)低い。有効求人倍率は全職業平均より約2倍高く、慢性的な人手不足だ。年齢構成は全産業平均より若年層と高齢層の割合が低く、中年層の割合が高い。
このような状況の中で一番の課題は、「トラックの積載率」だという。40%以下の低い水準で推移している。河合氏は「6割が空気を運んでいる」と指摘した。一方で、物流の小口・多頻度化は加速の一途だ。加えて、これまで猶予されていたドライバーの時間外労働規制について、年間960時間(休日労働含まず)の上限が適用された。いわゆる2024年問題だ。
河合氏は、「2024年には14%、2030年には34%が運べなくなるとの試算もある。物流DX推進のなかでドローン配送による人手不足解消や、共同化や集約化、自動化を進めることが重要。そのために必要不可欠な物流データの標準化・連携の促進について、各事業者の具体的な取り組みや今後どうやっていくべきかなどを議論したい」と話した。
日本郵便の五味氏は、「日本郵便は固有のユニバーサルサービスを行っており、地域の社会を支える存在として機能してきた。しかし郵便物は2001年のピーク時より減少の一途。今後も郵便離れが危惧される。地域では担い手の確保も難しくなってきた。これに対処するには、地域における積載率を上げていくこと、陸上の輸送にとどまらずドローンなどを活用して生産性を上げることがポイントになる。上士幌町では貨客混載を始めたが、小菅村でも共同配送の枠組みに我々も参画して、ゆくゆくは郵便物も含めて配送できるとよりヘルシーかつスマートな形になると思う。ただし、郵便物の共同配送は前例がなく制度整備が課題であるほか、共同配送の標準化や、受け取る側の方々も含めての受容性の形成も、今後の課題になると考えている」と話した。
佐川急便の佐藤氏は、「佐川急便では3つの共同配送を進めている。東京スカイツリーなどの大規模商業施設では、館内配送を集約している。幹線輸送では地域交通などと一部連携して輸送を行っており、日本郵便さんやセイノーさんとも一部で実施している。もう1つがラストワンマイルの共同配送で、複数社との実績もある。物流の集約化には、データの可視化と連携が不可欠だ。リアルタイムで荷物の情報や配送状況を把握しながら、無駄なルートや積載効率の低下を防ぐことが重要だと考えている。また、自治体様が地域の物流効率化に積極的に関わることで、地域経済の活性化や生活インフラの改善に寄与する、地域の特色に合った物流モデルを作り上げることができる、それこそ持続可能な運営の鍵になると考えている。一方でインフラ整備のコストは大きく、法規制や安全性と合わせて課題だ」と話した。
これらの発言を受けて鶴田氏は、「お二人とは、日頃からもいろんな場面でディスカッションしているが、話すたびに気づきを与えていただいている。また以前、上士幌の竹中町長から聞いた、時間の隙間や空間の隙間をうまく重ね合わせて無駄をなくす、という話にも感銘を受けたが、共同化こそ、労働集約的な物流産業の生産性を上げていくキーワードだと思う。チャンスと捉えて進めていこう」と呼びかけた。
続いて、「ドローン活用」や「データ標準化」をテーマに、議論は各論へと深まっていった。ドローン活用については、運べるペイロードや航続距離、バッテリー性能、天候への対応、陸送とのハイブリッド配送の費用対効果といった、すでに明らかにされている課題について改めての確認と、住民への説明や災害対応の重要性が高まっていることから「自治体との連携」が議題に上がっており、その重要度は今年はより一層増していきそうだ。
データ標準化については、ドローンという新たな配送手段、共同化や集約化といった新たな配送方法が追加される上で、避けては通れない。しかし、各社の独自性が強く、「特にお客様が求めている配達状況の追跡を、どうリアルタイムに開示できるか」「セキュリティはどうするか」といった、サービス品質に直結する課題に直面していることが指摘され、鶴田氏は「物流情報標準ガイドライン」の活用も訴えた。
最後は、河合氏が「ぜひ来年もこの場に来ていただきたい。それまでの抱負を」と振って、登壇者が一言ずつコメントした。
「日本郵便は、事業構造そのものを郵便から物流荷物の領域に大きくシフトをしていく、創業150年以来の大きな転換点だ。ドローン活用をはじめ、今日話した新たな取り組みが、この変革の中核になると考えているので、確実に形にしていきたい」(五味氏)
「競争から強調への変化は年々加速していると感じる。効率を上げてドライバーの待遇向上、そして物流価値の向上に向けて、共に取り組んでいきたい」(佐藤氏)
「ドローンのような新しい存在が、今までのやり方を変えるきっかけになってほしいし、していかなきゃいけないと、本日のシンポジウムで改めて思った。いろいろなプロジェクトに国として出資もあるので、ぜひ国もうまく使って協調領域を広げていただきたい」(鶴田氏)
「2024年問題をきっかけに、共同化や集約化の機運が高まっている。今年はどんどん社会実装して、実際の事例をどんどん作っていくことを、我々は頑張っていきたいし、この協議会としてもその隙間にあたるようなところを埋めていく、そんな役割を果たしていきたい」(河合氏)
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