米Skydioは2023年9月21日に、エンタープライズ向けの新型ドローン「Skydio X10」を発表した。日本におけるSkydioのディストリビューターのひとつであるNTTコミュニケーションズは、2023年10月12日と13日の2日間、東京都港区で開催された「docomo business Forum'23」の会場でSkydio X10を展示。同機が日本において一般に公開される初めての機会となった。

画像処理による自機位置推定と衝突回避能力を10倍向上

 Skydio X10はSkydioのエンタープライズ向けモデル「Skydio X2」の後継機(Skydio Dock用X2は継続)ともいえるドローン。ズームレンズ付きカメラと熱赤外線カメラに加えて、望遠レンズもしくは広角レンズを装備した2つのカメラを選択できるジンバルカメラを搭載し、点検や監視、警備、捜索といった用途での利用を想定している。

 Skydioの発表によると、機体は用途に応じて各部を組み合わせるモジュラー型とした設計となっており、4つのペイロードベイ(貨物収納スペース)と、交換可能なジンバルセンサーのセットを備えている。また、機体とコントローラー間で通信するポイント・ツー・ポイント接続に加えて、複数の異なる周波数帯域を使用するマルチバンド接続、5Gや4G LTEといったモバイル接続という複数の接続方法に対応した「Skydio Connect」を搭載している。

 SkydioのドローンはSkydio 2(以下S2)以降、6つのカメラで捉えた周囲の映像からリアルタイムに地図を作成。その地図をもとに自機位置を推定し、自律的に障害物を回避して飛行することができるのが最大の特徴となっている。SkydioによるとSkydio X10ではこの処理能力を10倍向上させ、より厳しい条件下でも障害物に接近し、回避することができるとしている。

 この機能はカメラの映像をもとにしているため、ある程度の明るさを必要としたが、Skydio X10では新たに「Night Sense」機能を付加することで、照明がない環境でも自律飛行が可能となっている。また、Skydio 3D ScanやOnboard Modeling機能と組み合わせ、リアルタイムマッピングとモデリングを可能にするAIエンジン「Skydio X10 Spatial」も新たに搭載されている。

Skydio X2に比べて二回り大きくなったSkydio X10

 Skydio X2(以下X2)と比べて二回りほど大きくなった印象を受けるSkydio X10。4本のローターアームは格納式で、折りたたんだ際のサイズは約35✕16.5✕12cmとなり、こちらもX2に比べて一回りほど大きくなっている。バッテリーを含む機体の重量は2.11kgで、やはりSkydio X2の1.325kgと比べると3割ほど重い。

 樹脂の成型部品で構成される機体は、Skydio2+(以下2+)にも通じるような上下面と側面の角を落としたフォルムで、カーボンパーツによるフレーム然としたX2に比べるとスマートなデザインとなっている。機体はおもに前側のローターアームと上面が黒、後ろ側のアームと下面が限りなく白に近いグレーとなっていて、飛行中に機体の向きが判別しやすいと思われる。

Skydio X10のプロペラを除いたサイズは約79✕65✕14.5cm。モーターはすべてアーム上面に取り付けられている。
ローターアームを折り畳んだ時のサイズは約35✕16.5✕12cm。アームはそれぞれ前後方向に格納する。
Skydio X10はX2同様、3ブレードのローターを採用。

可視光カメラ+サーマルカメラに加えて、望遠と広角カメラが選べる

 Skydioのドローンに共通したVisual SLAMの映像を撮影する6つのカメラは、機体上面後部に3つ、機体下面前部に3つを装備。2+やX2では機体の胴体とローターアーム先端に搭載していた。Skydio X10のローターアームには、それぞれコントローラーと通信するためのアンテナがスキッド(着陸脚)を兼ねる形で装備されている。

 機体下面後部に搭載されるバッテリーは8419mAhの156.17Whで、重量は約700g。2+のバッテリーを含む機体重量が800gであることと比較しても、かなり大きなバッテリーだといえる。そのためSkydio X10の飛行時間は最大40分を実現している。

胴体の後部上面に装備されたVisual SLAMのためのカメラ。レンズ面がモノに接触しにくいように脇に突起が出ている。3つのカメラ中央にある格納式のノブ(つまみ)は、ペイロードを取り付けるためのものと思われる。後面には空冷用のダクトがある。
胴体の下面、カメラ直後のスペースに配置されたVisual SLAM用カメラ。やはり中央にはペイロード取り付けのためと思われるノブがあるほか、LEDライトと赤外線センサーと思われる窓が見える。
機体下面の3分の2を占めるバッテリー。その表示から後ろにスライドする形で脱着すると思われる。

 Skydio X10に搭載されるジンバルカメラは2種類。35mm判換算で190mmに相当する焦点距離の望遠カメラを備えた「VT300-Z」と、同20mm相当の広角カメラを備えた「VT300-L」があり、ジンバルカメラにはこれらのカメラのほかに共通する形で、同46mm相当のナローカメラと、同60mm相当の放射測定サーマルカメラを搭載している。また、VT300-Lには最大2800ルーメンの照明が備わっている。

 サーマルカメラはFLIRのBoson+センサーを採用しており、解像度が640✕512ピクセルとなっているほか、ピクセルごとに撮影対象の温度情報を得ることができる。また「S2に比べて可視光画像の解像度が向上しているため、対象物に接近することなく撮影することができる」(説明員)という。

望遠カメラを装備したVT300-Z。向かって左のサーマルカメラと右上のナローカメラはZとLで共通(Lではナローカメラを右下に配置)。右下が4800万画素のセンサーを採用した望遠カメラとなっている。
コントローラーは2+の「2+コントローラー」、X2用の「X2コントローラー」と共通のデザインを受け継ぎながら、機体のグレーと同じカラーリングを採用。4G LTEと5Gのモバイル通信への接続もできる。

消防をはじめとしたファーストレスポンダーに

Skydio X10を手に持つと、2+やX2といった従来のモデルに比べて大きく、そして重い印象を受ける。

 本機を出展していたNTTコミュニケーションズの説明員によると「Skydio X10はS2やX2に比べてカメラの機能、性能が強化されている。サーマルカメラは絶対温度がわかるほか、ワイドカメラは日本からの要望に応える形で、0.1mmのクラックが1mの離隔で見える。そうなると橋梁点検で求められる0.2mmのクラックをSkydio 3D Scanで記録できる」という。また、「RTKオプションが使えるため、測量をはじめより精緻なデータを必要とする用途に使えるのではないか」(説明員)としている。

 また、「4つのアーム先端にアンテナが入っているため、より通信の信頼性が高まっている。また、4G LTEと5Gのモジュールを搭載しており、モバイル通信を使った飛行が可能。S2やX2では近距離での飛行が前提となっていたが、Skydio X10ではモバイル通信を使ったより遠距離の状況把握ができる。さらにX10はIP55規格の防塵防水仕様となっているため、消防をはじめとした災害対応に使えるのではないか」(説明員)という。また、「S2やX2に比べて機体が大きくなったため、どちらかというと屋内よりも屋外での用途が主になるのではないか」(説明員)としている。

 なお、Skydio X10のオプションには、スポットライト、スピーカーとマイク、RTK GPSのほか、非GNSS環境での暗闇でも自律飛行が可能な「Night Sense」や、パラシュートが用意されている。NTTコミュニケーションズではSkydio X10のデリバリーを2024年上期に予定しており、価格はオプションの選択にもよるが “3桁万円の後半” になると見込まれる。

NTTコミュニケーションズのドローンのブースでは、Skydio X10のほかにも、2+の展示とデモ飛行を行っていたほか、水中ドローンによるサンゴの生態調査や医薬品輸送の実証実験といった同社の取り組みを紹介していた。

▼ Skydio X10
https://www.skydio.com/x10