海洋の科学技術をテーマにした国際コンベンション「テクノオーシャン2023」(Techno-Ocean 2023)が10月5日から3日間、神戸国際展示場で開催された。展示会には100近いブースが出展し、海洋分野の最新テクノロジーやビジネスが紹介された。レポートの後編はパネルセッションでも取り上げられていた、海洋ロボティクスと自律運航船関連の出展を中心に紹介する。

陸上と同じくインフラ点検での活用が期待されるAUV

 海という人間にとって厳しい環境において、海洋ロボティクスの活用は不可欠になりつつある。インフラの点検や海底探査では、これまでは操作性や電力の問題で有線のROV(Remotely Operated Vehicle)が主流だったが、自動運転車やドローンの技術開発が進んだ影響もあり、無線でより広域での運用ができるAUV(Autonomous Underwater Vehicle)の開発が進んでいる。

 AUVにはクルーズ型、ホバリング型、グライダー型の3つがある。中でもホバリング型は目標物に接近して、水中構造物の検査や海底に近いところを調査するのに適している。国内では東京大学生産技術研究所が中心となってAUV「TUNA-SAND」シリーズを開発し、研究用として活用している。

 いであではそのTUNA-SANDクラスAUVを「YOUZAN(ようざん)」という名前で民間で初めて商用化する。比較的小型だが最大潜航深度は2000mで8時間連続運用できる。ブースでは実証実験の様子を映した非公開の動画が特別に紹介されており、関係者が次々に訪れ、興味深そうに見ていた。

いであのホバリング型AUV「YOUZAN(ようざん)」

 AUVの開発には海底でも使用できる、高性能で多機能かつコンパクトなセンサー類が必要だ。Nortekジャパンは、小型水中ロボットの水中ナビゲーションとビークル制御に必要なセンサー類を全て搭載した直径90mmの小型センサーパッケージ「Nucleus(ニュークリアス)1000」をリリースしている。精度が高く、GNSSが届かない場所でも正確に位置を把握でき、対象と一定の距離を保つことができることから、自動衝突回避機能に優れたSkydioのようなAUVの開発に使用できそうだ。

Nortekジャパンの小型センサーパッケージ「Nucleus(ニュークリアス)1000」

 もう一つAUVに不可欠な技術といえる通信だが、海洋では有線や音響が先行している中で、島津製作所では可視光半導体レーザによる通信技術の開発に着手している。昨年12月には長崎県でプロトタイプの実海域実験を実施しており、ブースで紹介されていた。

 陸上のインフラ点検ではドローンの活用が増えているが、同様に海中のインフラ点検でもAUVを使用した無人作業に対応しようとしている。川崎重工では海底パイプライン検査用ロボットアームを搭載した自律型無人潜水機「SPICE」を開発。水中でも老朽化が進むインフラ点検で高い機能を発揮するAUVとして実用化が期待されている。ブースに展示されていたモックアップではアームの構造がどのようになっているかがわかるようになっていた。機体は複数台で運用可能で、海中に設置されたステーションにドッキングして充電ができ、24時間365日検査可能になるという。(関連記事:川崎重工とトタルエナジーズ、自律型無人潜水機を用いた共同研究海上試験に成功

川崎重工のインフラ点検用AUV「SPICE」

宇宙のようなフロンティアが広がる深海探査に挑む

 世界中で競争が激化する海底資源探査で活躍するAUVは、開発を手がけるメーカーが増えている印象だ。

 IHIは実海域での試験運用に使用している研究用AUVを展示。直径508mm、全長5500mmの機体は最大で5ノット以上の出力があり、3000mもの深海を24時間以上航行できる。ロケット製造をはじめとする宇宙開発事業にも携わる高い技術力が海の分野で活かされており、衝突回避、複数運用、海上の船とリンクする高速音響通信によるリアルタイムデータ伝送といった機能が搭載され、深海の広域調査での活用を目指している。

IHIの研究用AUV

 AUVはメーカーによってはUUV(Unmanned Underwater Vehicle)と分類しており、数千メートルの深海を複数台で探査するタイプも開発されている。

 KONGSBERGでは30年前からUUVを開発しており、「HUGIN」シリーズは現在4つのタイプがある。会場では大型機の5/1スケールモデルが展示され、ブース内のフロアには中型機の「HUGIN EDGE」の実物大写真もあり、実際にどれくらいの大きさなのかを実感することができた。

KONGSBERGは大型UUV「HUGIN」の5/1スケールモデルを展示。
中型AUVの「HUGIN EDGE」は実物大写真をフロアに展示。

 防衛装備庁(ATLA)は大きめのブースで複数のAUVやUUV関連技術を紹介していた。その一つ長期運用型UUV(Unmanned Undersea Vehicle)の研究試作機は、常に最新技術が搭載できるよう機体は複数のモジュールで構成されており、例えばバッテリー部分を用途にあわせた機能にするといったことができる。全長10mで直径は1.8mあり、各モジュールの長さは1.65mから5.6mとなっており、展示されていた以外にも新しいモジュールの開発が進められているという。

防衛装備庁が展示していた長期運用型UUVの研究試作機はシップ・オブ・ザ・イヤー 2022で海洋構造物・海洋機器部門賞を受賞している。
常に最新技術が搭載できるよう、モジュールごとに様々な機能を備えている。

 AUVは様々な場所で活躍しており、その例として自律型水中航走式機雷探知機「OZZ-5」がある。自律的に障害物などを回避しながら水中の情報を収集し、海底下に埋没した機雷を無人で探査することができ、こうした危険な作業では特にAUVの活用が求められているのがわかる。ブースでは風洞試験モデルが展示されていた。

防衛装備庁の自律型水中航走式機雷探知機「OZZ-5」

 ここまで見るとAUVは技術的に専門性が高く、扱いも難しそうに思えるが、NemoSensの多目的マイクロAUVは手に持てるサイズでコストも手頃だ。航行速度は最大8ノットで最長で20時間以上連続して稼働でき、オープンLINUXアーキテクチャで独自ナビゲーションを開発できる。

NemoSensの多目的マイクロAUV

海上の自動運転は応用アイデアが広がる

 陸上からのリモートもしくは事前に入力したルートを無人で航行する自律航行船は、人手不足に悩まされる船舶の運用を少人数かつ安全で効率良くできることから、物流、交通、定点観測といった幅広い用途での活用が期待されている。高いセンシング機能で衝突を自動回避しながら自律航行するレベル4クラスの実用化も進められている。

 海の建設業であるマリンコントラクターことマリコンの中には、自社で自律航行船を開発するところも登場している。東洋建設では洋上風力発電に必要なケーブルを施設する自航式ケーブル敷設船を自社で建造することを計画している。これまでほとんど手作業だった敷設作業が自動化されれば、工期の短縮や大幅なコストダウンにもつながる。

東洋建設は自航式ケーブル敷設船の建造に自社で取り組む

 商船三井は船に搭載して風力エネルギーで航行できる「ウインドチャレンジャー」というオリジナルの帆を開発している。最新のテクノロジーにより生まれた帆船技術で、帆といっても材質は軽量なグラスファイバーが使われ、パネル状の帆をスライドさせることで大きさが変えられるようになっている。船に後付けでき、操作は全自動というのが大きな特長だ。日本財団が推進する無人運航船プロジェクトで開発が進められており、世界初となる商業運航コンテナ船の無人運航実証実験に成功している。帆は一つだけだったが十分に省エネ効果は得られたという。

商船三井の船に後付けできる帆「ウインドチャレンジャー」を開発

 さらに将来的なアイデアとして、ウインドチャレンジャーを複数搭載した船を航行させ、発生する風力エネルギーを使って水素を作る海上の水素製造船の建造を計画している。かなりユニークなアイデアだが、もし実現すればよりクリーンな方法で水素を作れるだけでなく、水素エネルギーで動く船が登場した時に水上の水素スタンドとして役立てられるようになるかもしれない。

クリーンな帆船で水素を作るというユニークなアイデアが将来実現するかもしれない。

 テクノオーシャンでは今後も隔年での開催を予定しており、2年後にどのような最新テクノロジーが登場し、実用化されているのか今から楽しみなところだ。

「探査から掃除まで海をフィールドに活躍するドローンたち【前編】」はこちら