実用的な航続距離とスケーラブルなeVTOL(電動垂直離着陸航空機)を開発するHIEN Aero Technologiesは、Japan Drone 2023で、ガスタービンハイブリッドUAV「HIEN Dr-One(ヒエン・ディ・アール・ワン)」のコンセプト機体を展示した。

 HIEN Aero Technologiesは、2021年12月に創業した、eVTOLの開発を行う大学発のベンチャー企業だ。

 HIEN Aero Technologiesの開発する機体の特長は、ハイブリッドのガスタービン発電機で長距離飛行を可能にするパワーエレクトロニクスと、航空工学に基づいた安全性の高い飛行技術を可能にする機体の設計にある。大型で長距離飛行ができ、実用性のある飛行時間が確保できるeVTOLの開発に取り組んでいる。

 50kmや100kmといった長距離をeVTOLで飛行させる場合、自動操縦で行われるが、完全にオートパイロットにするのか、あるいはシミュレーターなどの前で人間が最後の回避行動を行えるようにするのかという問題がある。同社では、後者を想定しており、担当者は、「今後、オートパイロットの技術や通信技術など不足しているノウハウを持つパートナー企業を見つけることと、開発を進めていく上で資金的な援助を得たいと考えています」と出展の目的を語る。

ガスタービンハイブリッドUAV「HIEN Dr-One」

 ブースでは、Japan Drone 2023に合わせて完成させた「HIEN Dr-One」のコンセプト機体が展示されていた。Dr-Oneは、翼を持ち垂直離着陸が可能なeVTOLで、寸法は、5000×3200×900mm。最大離陸重量が100kg、ペイロード25kg、航続時間は1時間、航続距離は120kmから150km程度になるという。

 この大きさの機体を電動で飛ばす場合、大容量のバッテリーが必要になり、重量が重く負担になってしまうなどの技術的な限界が純電動eVTOLにはある。HIEN Aero Technologiesは、その課題を解決するため、ガスタービン発電機とバッテリーを組み合わせたハイブリッドシステムを採用することで、優れた給電能力により、純電動では不可能な飛行距離と飛行時間、高い稼働率を実現する。Dr-Oneのコンセプト機体はその1号機で、販売価格は5000万程度を想定しているという。

「HIEN Dr-One」のコンセプト機体。航続距離180km以上、最大速度180km/h以上、HIEN Aero Technologies独自の供給電力10kWhのガスタービンハイブリッドユニット「DRAGON」を双発で搭載。安定の航続距離と発電性能を有する。
ガスタービンハイブリッドユニット。

物流、災害対策や給電機能などの多様な用途

 用途としては、インフラが老朽化した交通困難地区や山間部、人命に関わる緊急の物資輸送などが挙げられる。長距離飛行が可能なため、カメラや計測器を搭載し、電波などで情報収集を行う調査活動や、大規模プラントの点検なども想定している。

 また、ガスタービン発電機は、「空飛ぶ発電機」として、災害時対策にも活用できるという。担当者は、「一般的にあまり知られてはいませんが、ガスタービンエンジンは、ガソリンスタンドなどで購入できる灯油で動きます。例えば、台風などの災害で、倒木等による電柱の倒壊や停電、道路が寸断され車両通行ができない地域など、被災地にDr-Oneを派遣することで、復旧のための発電機としても利用できます」と話す。例えば、コンビニエンスストアなど、少し広めの駐車場などに着陸し、灯油を用いて発電することで、冷蔵庫や冷凍庫、POSシステムを動かしたり、携帯を充電したりすることもできるという。電力の復旧までの応急用電源として活躍が期待できる。

技術検証機を用いIHIと共同で浮上試験を実施

 機体の設計開発と並行して、IHIと共同で技術検証機での実証実験も進めている。隣接したIHIブースに展示されていた「浮上機能特性評価機体」を用いて、ガスタービンハイブリッドシステムによって想定通り発電が行われるか、100kgの機体がバランスを保ち十分な高さまで垂直浮上が可能か、浮上する際の電力負荷変動特性などを調べる浮上試験を行った。

 Dr-Oneのフレームはカーボン製で、航空工学に基づいた設計がなされているが、まず、試作機では、翼やボディは搭載せず、四角形のアルミのパイプとローターで製作し、プロペラ、ガスタービンエンジンを搭載して機能として成立するかどうか検証を行い、浮上可能なことを確認した。今後、Dr-Oneの両翼にガスタービンエンジンを移植し、1年程度をかけ、浮上試験を行う予定だという。

IHIと共同で飛行試験を行った「浮上機能特性評価機体」が隣接したIHIブースに展示されていた。ガスタービン発電機を2基搭載、機体重量105kg。HIEN Aero Technologiesで展示されていたDr-Oneと同じ寸法、ほぼ同じ重量で製作されている。
ガスタービン発電機。中央のポリタンクに灯油を入れる。

なぜガスタービンなのか?機体の大型化を可能にするガスタービンハイブリッド

 ドローンはいろいろな形で開発が進められているが、小型のマルチコプター型は模型から派生したものが多く、自動車メーカーが製作するドローンは衝突安全性をまず第一に考え、車では重量も必要なため、軽さへの欲求は比較的少ないという特徴がある。航空機はというと安全性の要求が非常に高く、衝突しないシステムの確立が重要で、最低限の強度でできるだけ軽く、とそれぞれ開発に対する発想に違いがあり、設計思想や開発思想が異なってくるという。

 HIEN Aero Technologiesの機体設計思想は、航空機からの目線で開発されたeVTOLで、担当者は、「機体重量100kgのDr-Oneは人が乗ることはできないですが、最終的には、2人乗りや6人乗りのeVTOLを目指しています。人が乗らない場合でも2人乗りであればペイロード150kgの物流ドローン、6人乗りであればペイロード500kgの大型物流ドローンとして活用できます」と話す。

次世代のエアモビリティを想定した2人乗りのeVTOL「HIEN 2」のコンセプトを展示。2025年の大阪万博デモ飛行に向け開発を進めている。
HIEN Aero Technologiesが最終的に目指す事業用途の6人乗りeVTOL「HIEN 6」。2030年の市場投入を目指す。

 Dr-Oneから6人乗りeVTOLまでスケーラブルに大型化を実現する同社の開発手法は、なぜガスタービンを採用したのかということに繋がってくる。

 重量が100kgクラスの機体であれば、オートバイや小型の自動車が搭載している普通のエンジン=レシプロエンジンで十分機能する。しかし、小型のセスナのような機体に搭載されることはあるが、将来的に機体を大型化していく場合、レシプロエンジンでは限界がある。

 ガスタービンは軽量で、ジェットエンジンなどの航空機の推進エンジンに使われており、ガスタービンハイブリッドを採用することで、従来のレシプロエンジンを用いたドローンと比べ、機体の大型化に対応できる。

 エンジンの特性も異なり、レシプロエンジンは、車の発進や停止に合わせ、アクセルを踏んだり離したり、回転数を落とすことが可能だが、ガスタービンエンジンはそれらがあまり得意ではないため、飛行制御と電力制御技術が必要となる。HIEN Aero Technologiesは、それらの課題を解決する技術的な強みを持ち、高性能なeVTOLの提供を目指している。

eVTOLの社会実装に向けて

 今後の製品開発は、法整備やインフラ整備を見据え、どこにニーズが出てくるか、市場に合わせ開発が進められるという。例えば、「Dr-Oneは人が乗れないため自動操縦やシミュレーターで遠隔操作のどちらかになります。この機体が飛ぶことによって技術が確立されていくことを期待しており、大型化した場合、無人機では技術がそのまま応用できます。人が乗るものに関しては、安全性の要求はどちらも求められますが、操縦が有人か無人かによっても変わってきます。その時に市場が求めているものを探りながら開発を進めていきたい」と担当者は話した。航空機目線での柔軟で新しい国産ブランドeVTOLの開発に、これからも注目していきたい。

#JapanDrone2023 記事