伊藤忠は、ドイツ製のVTOL型物流ドローン「Wingcopter 198」を展示し、日本で初となる血液製剤輸送の実証実験について発表した。

 2017年に設立されたドローンの開発・製造を手掛けるドイツのWingcopterは、医療分野を中心に、アフリカで医療品配送ネットワークの構築などを行いながらドローン物流の事業化を目指しているベンチャー企業だ。伊藤忠は、昨年、Wingcopterに出資し、資本業務提携並びに販売代理店契約を締結した。

「Wingcopter 198」。寸法は66×198×167cm、重量は24.9kg、最大積載は4.5kg、航続距離最大110km(ペイロード無し)、耐風性能は平均風速15m/s、最大瞬間風速20m/sにも耐える。悪天候への対応にも優れている。

 Wingcopterが製造・開発するWingcopter 198はVTOL型の電動固定翼機で、ティルトローター機構により固定翼機でありながらマルチコプターのように垂直離着陸を行い、ホバリング機能を持つ。

 水平飛行時は、飛行機のように高速かつ長距離飛行が可能で、標準速度は90km/h。機体は物流に特化し、ペイロード最大4.5kgを積載した場合、航続距離は60km、時間にして40分間飛行することができる。

 ティルトローター機構は、ローター部分が可変するようになっており、プロペラの角度を変えることができる。8枚のプロペラのうち、機体側の前後4つにティルトローターが設置され、離陸時のローター角度は回転面が水平になるように、マルチコプターモードに変更して上昇する。水平飛行時は、前方のティルトローターが前を向くことで推進用プロペラとして機能し、着陸時には再度マルチコプターモードに切り替える。

 担当者は、「Wingcopter 198は、ホバリングをすることは可能ですが、バッテリーを非常に消費してしまうため、基本的に空中で旋回しながら待機します。着陸時はプロペラの角度を変え、徐々にマルチコプターモードに変更すると、推力は前ではなく上に向かい、自然に減速し、まっすぐ下降し着陸します」と話す。固定翼機でありながら離着陸用のインフラ整備が一切不要だが、一方で高速で飛行するため小回りはあまり効かず、短い距離を何度も飛行させる用途には向いていないという。高速で長距離飛行に強みを発揮する機体となっている。

ティルトロータが角度を変える様子。
マルチコプターモード時のティルトローターの角度は、回転面が水平になり、垂直離着陸を行う。
水平飛行時のティルトローターの角度。後方のプロペラは風で折りたたまれる。
水平飛行時、固定翼モードのプロペラの様子。機体側に位置する前後4つにティルトローターが設置され、前方はプロペラとして機能し、後方は折りたたまれ空気抵抗が少なくなる。
機体の上部には、リチウムイオンバッテリーが2つ搭載され、簡単に取り外しができる。予め新しいバッテリーを用意しておけば交換するだけで、すぐに離陸できる。
デリバリーボックスは卵型で、ボックスの中に荷物を入れる。外寸は22.0×36.0×80.0cm。内寸は12.5×23.5×28.5cmの8L。このほかWingcopter 198は、一度の飛行で3つまで個別ボックスを複数箇所へ配送可能なトリプルドロップ機能も有している。

ドローンで血液製剤配送の実証実験を実施

 伊藤忠は、Wingcopter 198の安定した高速・長距離飛行の特長を活かし、新しい輸送手段として社会実装に向けた取り組みを本格化している。5月には茨城県河内町で日本で初となるドローンによる血液製剤輸送の実証実験を実施した。東京都立墨東病院が血液製剤を提供し、ANAホールディングスが共同運航者として、Wingcopter 198を用いて、遠隔地への血液輸送を想定した長距離長時間飛行を2日間で計6回行い、利根川の河川敷上空を飛行した。

 温度管理が必要な血液製剤を墨東病院から、ドローンフィールドKAWACHIまで往復(片道75km)し、ドローンの振動が血液に与える影響など品質管理面の医学的な検証を行ったという。専用保冷箱の重量は2kgで、飛行時間約50分、飛行距離は78kmを記録した。

 担当者は、「ペイロードを減少させればより長い距離を飛ぶことができます。今後、遠くに早く届けたいというニーズに答えるため、ユースケースを確立していきたい」と話した。

ブースでは医療品配送の実証実験について展示されていた。
血液製剤輸送と実証フライトの様子。
Wingcopter 198の輸送範囲のイメージ。かなり広い範囲に輸送ができる。

レベル4解禁!第一種型式認証取得を目指す「Wingcopter 198」

 今回対象となった血液製剤は、物流を支えるインフラや人員の確保、安定供給などが課題になっており、交通渋滞や運転手不足などの影響を受けないドローンは、新しい輸送手段として注目されている。医療品に加え、食料品や日用品などの配送も可能で、離島や山間部、被災地での貢献など、様々な社会課題の解決にもドローンが期待されている。

 2022年12月の改正航空法により、レベル4飛行(有人地帯における目視外飛行)が解禁となり、ドローンの活用領域が広がる中で、Wingcopter 198は、将来的にレベル4飛行を目指しているという。

 プロペラが8枚で構成されたオクトコプターは、複数のローターにトラブルがあっても安全に飛行が可能。通信系統もLTE通信と、セカンダリーとして衛星通信を組み合わせ、GPSやバッテリーなども2系統にすることで冗長性を持たせ安全性を高めた設計になっている。「今後は第一種型式認証の取得を目指し、活動していきます」と担当者は話した。

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