多くの来場者が思わず二度見をしていたソフトロボットハンド搭載ドローン。

 西武建設などの共同研究グループは、Japan Drone 2023でソフトロボットハンド搭載ドローン(コンセプト機)を初披露した。多くの産業用機体が用途と1対1対応の中、人の手と同サイズのロボットハンドを搭載し、市販の工具を持ち替えられるようにすることで、複数の用途に転用できるのが特徴。産業用ドローン業界では撮影や測量など非接触作業が中心のところ、“接触作業” 領域での活用を目指しており、担当者は「これまでドローンで代替できなかった分野での実用化を目指していきたい」と話している。

現在は開発中のため、工具を持つまでの握力は無いが、完成すれば緻密な動きも可能になる。

 Japan Drone 2023の会場で多くの来場者が思わず足を止めていた展示が、建築研究所×東京理科大×西武建設の共同研究グループによるソフトロボットハンド搭載ドローンだ。人間の両腕のような2つのロボットアームの先端に実寸大のシリコン製ハンドを搭載。穴を空けるための電動ドリルや削りカスを除去するブロワー、補修材を詰める箇所を整地するディスクグラインダーなど、作業従事者が普段から使っている市販の工具をそのまま握れるというコンセプトで、2023年4月に特許も取得している。

 外壁点検などの分野では、カメラによる非接触タイプの外観撮影といった1次調査に始まり、実際に壁面に接触して微破壊し、コンクリートの劣化度合いを調べる3次調査まである。1次調査にあたるカメラやセンサーを使って外壁の様子を調べる非接触調査や、テストハンマーを用いた軽度の接触を伴う打診調査などはドローンへの置き換えが進みつつあるが、2次~3次調査で必要な接触・(微)破壊調査分野ではドローンの利活用は進んでいない。そこで、研究チームは2021年度から2次調査以上の領域でドローンの利活用を研究してきた。

外壁点検などにおける調査水準とドローンの適用範囲など、会場配布パンフレットより。

 その結果、2021年度中に電動ドリルを装着したドローンをコンクリート壁面に接触させて直径8mm、深さ50mmの穴を空ける実証実験に成功。実際にはドリルを壁に押し付ける力を確保するため、ガイドワイヤーの補助を必要としたが、ドローンによる空中での点検・補修作業の可能性が開けたことから、さらなる汎用性の拡大を模索。多用途での利用を可能にする機構を検討する中で人の手形ロボットハンドを採用した。

 一般的なロボットハンドは弾力性のない素材を使うことが多いが、コンセプト機では人向けの市販工具を持たせる狙いからシリコン製の人の手と同じ大きさのロボットハンドを実装。ハンドの中にワイヤーを通し、それを引っ張ることで指を曲げる仕組みで、将来的には遠隔手術ロボットのように、地上など遠隔地にいる人の手の動きと連動させて高所作業に活用することも視野に入れている。

ロボットアームを稼働させている様子

 現状、例えばマンションの外壁の1カ所だけタイルの浮きを点検・補修したい場合でも壁面全体に足場を組んで作業を行う必要があるが、ドローンで代替できれば短時間・低コストでの作業が可能という。今後は軽量化や動作の精緻化などを進める。担当者は「見た目のインパクトもあって国内外の幅広い来場者がブースを訪れてくれた。また、人の手が付いているということで、用途がイメージしやすかったのかこれまでは建設やインフラ関係者が多かったが農業関係者から『果物の収穫に利用できないか』と提案いただくこともでき、注目度の高さを感じた」と話した。

シリコン製バルーンを活用した係留式ドローン技術も提案

 西武建設などは、ベランダにシリコン製の固定具をはめ込んでドローンの位置を固定する「ソフトハンド係留具を用いた係留式ドローンによる建物外壁点検手法」も初めて展示。係留方式はドローンの移動範囲をコントロールしやすいというメリットがある一方、係留装置が大掛かりのため設置場所が限られることが課題だった。今回提案した技術では、ベランダを簡易的な係留拠点にできるため大掛かりな係留装置が不要となり、設置可能場面の拡大や点検コストの削減などが期待できるという。

シリコン素材は弾力があり、これを膨らませることで固定具として使用される。

 係留式ドローンは、ロープウェーのように地上や屋上などから伸ばしたワイヤーをガイド代わりにしてドローンの移動範囲をコントロールする。ワイヤーにつながっているため建物点検特有のビル風による機体の流れや建物との接触リスク、通信障害リスクなどを制御できるほか、一部を除いて飛行申請が不要など利点が多い。

 西武建設は「ラインドローンシステム」としてこれらの技術を既に実用化。これまで高層ビルや構造物の間の狭所空間、集合住宅などで実績を積んできた。しかし、建物上部に大掛かりな固定具を置く必要があるため、ビルの構造によって設置が困難な場合があるなど利用シーンが限定されることが課題だった。

ベランダに膨張前のシリコンを差し込む様子を実践する担当者(右)と膨らんで固定された状態のバルーン(上)

 今回の提案では、ソフトハンドと名付けた空気で膨らむ3本のシリコン製バルーンを活用。まず空気を入れる前の棒状のシリコンをドローンを使ってベランダの柵の間に差し込み、次に空気を入れてアンカー状の3本のシリコンをバルーンのように膨らませ、柵や支柱を巻き込ませて固定。こうしてシリコンを係留拠点にすることで、構造的に屋上に係留具を設置できない建物でもラインドローンシステムを利用できるという。こちらも特許を取得済みで、早期の実用化を目指している。

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