ヤマハ発動機は、2022年10月6日に発表された産業用マルチローターシリーズの新機種「YMR-II」、次世代産業用無人ヘリコプターの「FAZER R AP」を展示。それに加え、“動く作業台”をコンセプトとした果樹園作業支援自動走行車のコンセプトモデルを展示した。

 農業分野において農薬散布用の無人ヘリコプターで知られるヤマハ発動機だが、意外なことに「農業Week」への出展は今回が初。新機種の追加と共に、農業市場でのさらなるブランド強化を目指しているという。

生産現場のノウハウを守る情報セキュリティ機能搭載の「YMR-II」

YMRシリーズの新型機YMR-II。サイズはアームとプロペラを伸ばした状態で1970(L)×2157(W)×786(H)mm(液剤タンク含む)。ローターは従来機の8枚から6枚に変更された。
ローターを折りたたんだ収納時のサイズは733(L)×626(W)×786(H)mmと従来モデルとの体積比で約1/2の縮小を実現。

 産業用マルチローター機YMRシリーズの新機種となるYMR-IIは、6枚のローターを配したヘキサコプターだ。アルミとカーボンの強化樹脂によるボックスフレーム構造の採用などにより高い飛行安定性を実現している。従来機と比べローターの数を8枚から6枚、バッテリーを2個から1個に変更し、シンプルな構造に見直された。また、ローターを折りたたんだ収納時のサイズは733×626×786mmと、同社従来モデルとの体積比で約1/2の縮小を実現させた。

 YMR-IIは、“安全・安心な国産農業用ドローン”を目指して開発された。開発は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構が事業実施主体である国際競争力強化技術開発プロジェクトの「安全安心な農業用ハイスペックドローンおよび利用技術の開発」を受託したハイスペックドローン開発コンソーシアムの事業として行われた。機体の基本要素は他社でも利用可能な基盤技術として開発を進めており、これらの技術は国内ドローン産業の国際競争力向上に貢献するとしている。

 このような経緯で開発されたYMR-IIは、高い情報セキュリティ機能を備えたことが最大の特徴となる。これによって、農業生産現場で得られたノウハウの流出、機体の乗っ取りなどから生産者を守ることが実現した。

 担当者は「農業用ドローンのフライトログや画像、データが流出したとすると、例えばどの時期にどういった作物を作っているのか、この時期にどの農薬を撒く、この時期に追肥する、という日本の農業のやり方を知られてしまう。日本の生産者が培ってきたノウハウ(情報)を守らなければならない」と話す。続けて、「日本の農産物は世界的に見ても高品質で評価が高い。そのノウハウが流出してしまえば乱暴な言い方をすれば、どこでも日本と同じ農産物が作れてしまうことになる。そうしたノウハウを守ることも次世代の日本の農業では重要になってきたということだ」と説明した。

プロポと機体は1対1対応。ユーザーが手持ちのタブレットに自動飛行用アプリケーション「agFMS-IIm」をインストールして使用する。写真では5.5インチのタブレットが装着されているが、アタッチメントで8インチのタブレットも装着できる。

 情報セキュリティ機能で重要とされる機体との通信は「AES256」と呼ばれる暗号化通信を採用した。第三者機関による送信機アプリケーションのセキュリティ診断を実施するほか、ユーザーの意図に反した飛行ログのアップロードを行わない仕様など、様々なセキュリティ対策を施している。

 さらに、初心者でも運用が容易な新型自動飛行用アプリケーション「agFMS-IIm」による優れた自動航行、自動離着陸機能を用意。熟練者と初心者のそれぞれのニーズを汲み取り、事細かに飛行設定が可能な熟練者向けの「プロフェッショナルモード」と、初心者でも簡単に飛行設定が可能な「シンプルモード」を搭載した。

 「シンプルモード」では、画面の指示に従う操作で、簡単に設定を完了できる。また、高精度な測位を実現するRTK方式は、従来の基準局モジュールを用いるRTK-GNSS方式と、基準局モジュールが不要なネットワーク型RTK-GNSS方式を選択できる。

タンクはワンタッチ式で簡単に取り外しが可能だ。またタンク下部のアタッチメントを交換するだけで液剤から粒剤に変更できる。写真はオプションの粒剤散布装置(アタッチメント)を装着した状態。

 気になる散布機能だが、タンク容量は8Lで1回のフライト(約15分)で1haの散布が可能。タンクはワンタッチ式散布タイプを採用し、タンクの取り外しも簡単でかつタンク下部のアタッチメントを交換するだけで、液剤から粒剤への変更が可能だ。そのほか、ワンタッチでアーム開閉が可能な新機構や丸洗いできる防水性能(防水規格:IP55)を備えている。

発売が予定されているオプションの4Kカメラを取り付けた状態。カメラへの電源供給やプロポでのカメラ操作も可能だ。
ヤマハ発動機と同様にコンソーシアムに参加しているOEMおよび法人向け専業のデジタルカメラメーカーであるザクティ製の様々な用途のカメラがオプションとして提供される予定だ。
安全な飛行をサポートする機体下部に設置されたオプションの障害物センサー。

 発売は2023年春を予定しており、価格は185万9000円(税込)。今後、粒剤散布装置、4Kカメラ(上記コンソーシアム参加のザクティ製)、障害物センサー、追加散布ポンプなどのオプションを揃え、多様化するニーズに対応するとしている。