果樹園での作業を支援する自動走行車のコンセプトモデルを発表

展示されていた「Auto Guided Orchard Support vehicle」(果樹園作業支援自動走行車)。淡いグリーンのボディで元のシャーシは同社が発売するゴルフカートとのこと。サイズは2280(L)×1200(W)×1200(H)mm。積載重量は350kg。最大車速は15km/h(手動走行時)で最小回転半径は2.3m(手動走行)。

 初公開となるコンセプトモデルの「Auto Guided Orchard Support vehicle」(果樹園作業支援自動走行車)は、果樹園の樹列において枝の剪定・誘引、受粉、摘果、収穫などの支援を行う。

 開発は、生物系特定産業技術研究支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち人工知能未来農業創造プロジェクト)」の支援を受け実施した研究成果に基づき、新たに開発されたものだ。発売等は未定としており、担当者は「自動走行を行う運搬車をコンセプトに開発しており、脚立の移動や昇降作業、運搬車の移動などの削減を目的としている」という。

 現在、国が果樹栽培で推奨しているのが生産性を高める「省力樹形」だ。これは、遮根シートにより地面と隔離した盛土に苗木を植え付け、樹の成長に合わせた養水分管理を行う栽培技術である「根圏制御(根域制限)」栽培や、小さな木を密集して直線的に植える「高密植低樹高(新わい化)」栽培などの栽培方法を指すが、作業動線を単純化でき、作業効率をアップできる栽培方法として導入が進んでいる。

 今回の自動走行車を運用するためには、この省力樹形が必須だ。樹が直線的に整備されるため、機械化の導入がしやすくなるという。省力樹形の例として紹介されていたのが、リンゴ園の「ジョイントV字トレリス樹形」。文字通りV字型に育った木が一直線に並ぶ栽培方法だ。

座席は2席のシート、ハンドルというシンプルな構成。自動走行車だが、手動による運転も行えるためハンドルが装備されている。
高所で作業する際には、シートと荷台部分の高さを最大40cmまで上げることが可能。

 機能はシンプルで、左右の樹列(果実がなる樹々の列)を車体左右に取り付けられた2つのLiDARが認識し、作業を行う樹列に沿ってゆっくりと自動走行を行うというもの。あらかじめ走行ルートを設定しておけば、樹列間の移動や折り返しも可能。作業以外の移動時には自動走行を解除し、人間が運転をすることも可能で、公道を走ることも想定しヘッドライトやウインカーなども取り付けられている。また高所での作業時には、シートと荷台部分の高さを最大40cmまで上げることができる。
 生産者の要望として自動化して欲しい機能といえば「自動収穫」であるが、収穫に適した果実の選別や、果実ごとに適した剪定方法など、複雑な判断や繊細な作業が必要となる。まずは、作業に関わる移動や運搬の部分を自動化することで効率化するという形を選んだそうだ。
 今回のコンセプトモデル開発におけるプロジェクト実施期間(2016年4月~2021年3月)では、自動走行車を7台使用し全国17か所(試験場13、商用3、観光1)、31圃場(樹種・樹形の違い)で試験を実施してきた。

ブースに展示されていた省力樹形と自動走行車による省力効果について説明したポスター。

 日本の農業人口の減少や高齢化が深刻化していくなかで果樹の生産基盤を強化し国際競争力を高めるためには、自動化・省力化が必須事項だ。今回のプロジェクトにより自動走行車と省力樹形とを組み合わせることで、整枝・剪定作業で約54%、摘蕾・摘果作業で約49%、収穫で約43%の年間作業時間を削減することができたという。「まずは省力樹形を普及させることと、こうした自動走行車を生産者さんに使ってもらうこと。明日すぐ使えるソリューションとして開発したのが今回の自動走行車」と担当者は話す。
 プロジェクトでは、「自動農薬散布走行」や「自動草刈り走行」「2台連携収穫物運搬走行」「移動式作業台車」といった取り組みも行われており、今後アタッチメントの取り付けも考えているとのことで、車体の形状やサイズなど、様々な需要に対応できるよう準備を進めているという。

#第12回 農業Week 記事