ロボットとドローンの開発・販売を行っているスカイブルーは、カーボンファイバーを採用した大型の固定翼機と、それを受け止める装置、安全性を確保するドローンガード等を展示した。

中央、黒い機体が固定翼無人航空機 4号機。会場でもひときわ目につく緑色のネットは受け止め装置。ネット上部にある機体が固定翼無人航空機 3号機。

 通常、固定翼機を飛行させる場合、滑走路が必要になるが、展示されていたのは滑走路を必要としない離着陸装置の一部で、ドローンをカタパルトで発射してネットで受け止める実験装置だ。産総研が推進している、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「無人航空機に求められる安全基準策定」の各種試験を行うことを目的として開発し、研究の結果得られた成果だという。

固定翼無人航空機 4号機。翼長3,720mm、全長2,150mm、重量17.0kg。

 NEDOは「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」の中で、物流、インフラ点検、災害対応等の分野で活用できる無人航空機及びロボットなどの開発や社会実装するための飛行試験等を実施している。「無人航空機に求められる安全基準策定のための研究開発」はその中のプロジェクトの一つで「目視外及び第三者上空等での飛行に向け、リスクレベルに応じた無人航空機の安全基準策定に必要となる性能や安全性の性能評価法等を提案する」というもの。担当者によると、今回の出展の目的は、4年間行った実証実験の成果を民間に転用することにあるという。

多目的固定翼機を開発!効率化と安全性向上を目的に試験を実施

会場で配布されていた多目的固定翼ドローンのパンフレット。カーボンファイバー製固定翼ドローンのカタパルト発射試験、ネット受け止め試験、パラシュート降下試験などを実施している。

 固定翼機の開発は安全性の確保のため、手投げの紙飛行機の原理で飛ばし、飛行データを取ることから始まったという。また、固定翼機をネットで受け止めるためには、機体の強度が重要になる。スカイブルーは、カーボン製のドローンガードなどを制作・販売しており、素材による飛行データの変化を見ながら試作機を制作。軽量で強度、剛性に優れたシートワインディング成形法によるカーボンファイバー製の機体を開発した。

Japan Drone 2022で公開していた実験映像。固定翼ドローンをカタパルトで発射しネットで受け止めるベニヤの模擬機体での実験や、無動力、動力飛行などの発射・受け止めテストの様子、そして動画の後半では荷物をネットに投下する実験映像を見ることができる。
固定翼ドローンの主翼・尾翼・胴体はシートワインディング成形法によるカーボンファイバー製。金型にカーボンを巻きつけてオーブンにて加熱硬化させる。右が主翼の精密板金型(銀色)、中央が金型を脱芯した成形品(黒)で空洞になっている。左が主翼の製品(白)。

 この成形法のメリットは、納期が早いうえに価格を抑えることができるという点。通常は、金型にカーボンの材料を貼り付け、真空引きで型に密着させ、炉に入れて加熱硬化させるが、材料を貼り付ける際に時間がかかるのに加え、上側、下側2つの金型が必要になり、それを接着する必要がある。シートワインディング成形では、プリプレグ(炭素繊維に樹脂が含浸された中間材料)を自動で金型に巻きつけるため時間がかからず、オーブンで加熱硬化、脱芯して成形する。接着する必要がなく、金型も少なくて済む。この機体に使われている金型は3種類で、このような技術を使うことにより、通常1000万円近くかかる機体も150万円程度の費用で制作できるという。実験で壊れることを考慮して部品のスペアを持っていけば、その場で修理が可能。価格が安く強度に優れ、実験に適した機体となっている。

機体は、主に3種類の金型を使い、同じ部品を組み合わせて作られている。実験で破損した場合、部品のスペアを用意しておき、交換修理することもできる。
機体上部に設置された、GPS、フライトコントローラーとパラシュート。GPS+フライトコントローラーによる自律飛行・自動離着陸にも対応する。
細長い棒状のバッテリーは胴体の筒の部分に搭載可能。実証実験時の飛行時間は10分程度だが、機体にバッテリーを別途搭載することができる。
安全性向上のため、非常時のパラシュート降下実験を実施。落下分散データ計測などを行う。

安全受け止め装置を開発、100kgの大型荷物の受け止めも可能

固定翼ドローン受け止め装置のパンフレット。会場に展示されているのは受け止め装置の縮小版。白いパイプはカーボンファイバーとグラスファイバーの複合パイプで、剛性と柔軟性に優れ、固定翼ドローンや荷物を破壊することなく受け止められるという。

 受け止め装置は、狭い場所で機体の着地・回収を可能にすることに加え、落下試験など性能評価手法の開発に向けた各種試験が行われており、福島ロボットテストフィールドなどで活用されている。

 例えば、ドローンやパラシュートの落下実験などを行う場合でも、受け止め装置を活用すれば、機体を破壊することなく再利用することができる。機体に大型の荷物を積み、受け止め装置に荷物を落とすといった大型荷物の受け止め実験も行われており、100kg程度の荷物でも十分受け止められることが実証されているという。

 この実験装置の用途について、担当者は、「大型荷物を運ぶ物流ドローンとしての活用」を考えているという。「離島ではなく、都市部での物流、例えば、宅配会社や高層ビルの屋上などに受け止め装置を設置すれば、街の中でも荷物を運ぶことができる。固定翼ドローンは燃費も良く、回転翼に比べて、重量のあるものを運ぶことができる。安全で音も非常に静か。住宅地などで活用するメリットがある。現在、大型トラックで運ばれている部分の一部を担えるのではないか」という。

 また、安全に関する各実験は現在も継続している。例えば、「パラシュート降下実験では、パラシュート展開時に人や車が危険を回避する行動がとれるかといった実験も行いたい」という。「ものづくりは、こういう技術が背景にあってつくられている。今後、社会実装を進める上で重要なのは社会受容性の向上」だと担当者は話した。

カーボン製のドローンガードも展示。スカイブルーはNEDOの各種安全評価法の試験を実施している。
ドローン搭載用水素タンクを想定した高圧容器のカーボン製保護材衝撃試験の様子。

 目視外及び第三者上空等での飛行の実現に向け、ドローンの自律飛行や安全技術の開発は大きな課題だ。各実証実験を経て、NEDOのプロジェクトの成果が社会実装へと向かうフェーズに移行していることを実感した。