ドローンを使った運用サービス事業を手掛けるJDRONEと山梨県は、この9月から同県南都留郡富士河口湖町・鳴沢村地内(青木ヶ原地内)で、夜間にドローンを活用した見回り・声かけ事業を開始し、その様子を公開した。
自然拡がる青木ヶ原樹海で自殺の防止に取り組む山梨県
青木ヶ原は「青木ヶ原樹海」として知られた原生林。広さは約3000ヘクタールに及び、東京ドーム約640個分にもなる。富士山麓に広がる自然の豊かさで人気の観光地である一方で、人から発見されにくいことから自殺を目的に訪れる人も多い。
警察などの統計によると2023年、同県内では215人が自殺によって亡くなっている。人口10万人あたりの自殺者数を示す自殺死亡率は26.8と全国ワーストワン。また、県外からの自殺者は約3割をしめ、多くが同樹海での自殺と推測されている。
樹海周辺では地元監視員が日中のパトロールを実施しているが、広域な樹海を網羅的に監視することはむずかしい。また、夜間の人手による巡回は視界が悪く遭難などの危険もある。そこで同県ではドローン運用に実績のあるJDRONEと共に広い地域をドローンで巡回し、特に夜間に自殺企図の疑いがある人への声かけを行い、保護につなげて自殺者の減少を目指すことになった。
自殺しようとする人の発見と呼び掛けをドローンで自動化
JDRONEは、樹海近くにドローンの離着陸場となり、自動でバッテリーの充電を行えるドローンポートを2台(DJI Dock 1+Matrice 30T、DJI Dock 2+Matrice 3TD)設置し、ドローンによる自殺防止に取り組んでいる。ドローンにはいずれも熱赤外線カメラを搭載する。あらかじめ設定したルートで自動航行を行い、夜間の定刻に上空から森を巡回監視する。
人を発見した場合、先行した巡回監視用ドローンの位置情報を取得。パイロットが熱赤外線カメラとスピーカーを搭載した別のドローン(DJI Matrice 300 RTK)を、取得した位置情報まで急行させ、その人に近づいてスピーカーから声かけを行う仕組みだ。
自殺の可能性がある場合は、スピーカーで誘導してパトロール員が保護したり、より緊急性がある場合は警察にも連絡して対応するという。
JDRONEではパイロット、モニター監視者、ドローンポートなどを運用する補助者の3人一組で、システムを運用する。ドローンはほとんど自動で運用できるものの、現在はレベル3飛行での運用としており、補助者などの最低限の人員が必要となる。
デモ飛行を実施、森の中の人を明確に区別できる赤外線カメラ
報道公開では実際にポートからドローンを飛行させて、高度149メートル上空のドローンに搭載された熱赤外線カメラの映像が拠点となるGCS(Ground Control Station)に送られ、モニターに映し出された。モニター上では熱を発する人間は白い点として映し出され、森の中でもはっきり区別できた。
その後、スピーカーを搭載したドローンも飛行。45メートルの高度からスピーカーで地上に呼びかけを行ったが、これもはっきり音声を聞くことができた。スピーカ-からは録音された音声を流したりパイロットが直接呼びかけたりすることができるが、まずは自動音声から呼びかけを行うようにしているという。より効果のある呼びかけを行うため、山梨県は自殺対策の専門家に監修を依頼している。
この事業は2025年3月末まで実施する予定だが、JDRONEの大橋代表は「現在は人の目で自殺の可能性があるかどうかを判断せざるをえません。しかし、ドローンをさまざまな高度やスピードで飛行させて、自殺しそうな人の行動パターンをデータ化してAIなどで判断することで、より迅速に自殺防止の対応ができると思います」と話した。
また事業主体の山梨県福祉保健部健康増進課の知見課長は「昼間のパトロールに加えて、夜間にはドローンを使うことで、青木ヶ原樹海での自殺防止の取り組みを強化していきたいです」と語った。