飛行申請の煩雑さやデータ共有など、被災地支援で見られた課題

 現行法制では、緊急時であっても事前に飛行の許可承認が必要だ。今回のケースでは、関西空港、能登空港、および大阪空港事務所など、空港管制権を有する機関に対して事前に飛行を申請する必要がある。許可が下りた後も、実際に飛行する直前には、管轄する自衛隊や能登空港、大阪空港といった関係機関への電話連絡が必要となる。そして、飛行開始と終了を報告する。緊急時ともあって今回の調査のための申請は迅速に進められたが、モバイルネットワークが寸断されてしまった場合などを考慮すると、これらの手続きにも課題が残されている。

 野村氏は、「関係庁舎から非常に真摯な対応を受け、通常2週間かかるプロセスが、最長でも1日で対応してもらえました。ただし、UTM(運航管理システム)による運航管理やその情報をリアルタイムに共有するなど、今後求められる世界に向けた取り組みが必要であることを実感しました」と話した。

能登での活動について取材に応じる野村氏

 そのほか、自治体へのデータの提供においては、異なるシステム間の連携も課題となっている。調査のオペレーションでは、フライトから写真撮影まではドローン関連企業が行い、その後のデータ解析やオルソ画像の生成は別の組織が行うことも多い。野村氏は「私たちは、機体メーカーとしてだけでなく、画像処理ソフトも提供しているため、防災システムでスムーズに使用できるデータを提供できることが強みです」と述べた。

ドローンで何ができるのか?自治体や国への周知が足りない現状

 エアロセンスの活動について、要請したJUIDAや自治体はどのように評価したのだろうか。野村氏は「JUIDAがエアロボウイングに対して高く評価してくれました。マルチコプターとの違いは、飛行の効率性にあり、安全性と迅速さに対して高評価となりました」と語る。

 また、自治体もエアロボウイングに興味を示している。野村氏は珠洲市役所において、輪島市での農道及び林道の調査について報告したところ、迅速に情報収集できる手段として強い関心を得られた。この反応に対して野村氏は「裏を返せば、ドローンの存在や機種による違い、有用性を十分に理解されていないことが明らかになったということです。この技術や方法を広く周知することが重要だと感じています」と語った。

 愛媛県宇和島市では、湾岸沿岸部に点在する集落の被災状況を確認する目的でエアロボウイングを導入した。これによって、罹災証明の迅速化を実現している。エアロセンスとしてはこのような自治体の導入事例を紹介して周知に努めたいとしている。

 同社では、自社だけでなくNTT e-Drone社との業務提携を通じて、オペレーション研修の提供や自治体の運用部隊のサポート、さらには飛行の受託も行っている。野村氏は「このような体制を業界全体で構築していくことが望ましいと考えています」と語った。

 今回の災害支援では、状況把握が主な役割であったが、エアロボウイングは1kgのペイロードが確保されており、医療品や緊急物資などの小物であれば輸送が可能だ。現在エアロセンスが2025年の完成に向け開発を進めている次世代の大型VTOLはペイロードが10kgのため、震災により孤立した地域への物資輸送としての活躍も期待できる。