2023年11月、ドローン飛行「レベル3.5」を創設する方針が発表された。10月、11月に急ピッチで進められた規制改革だが、「レベル3では黒字化不可能」「レベル4は非現実的」という事業推進上の切実な状況を受け、「制度と事業を同時に実現する」という点で極めて画期的だ。

 2023年12月8日、エアロネクスト子会社のNEXT DELIVERYは、レベル3.5の飛行承認を国土交通省航空局から取得し、12月11日には北海道上士幌町でプレス発表会を開き、日本初のレベル3.5飛行によるドローン配送事業をスタートした。

プレス発表会の開始時の様子。左から、国土交通省航空局安全部 無人航空機安全課 課長補佐(総括)勝間裕章氏、上士幌町長 竹中貢氏、エアロネクスト代表取締役CEO・NEXT DELIVERY代表取締役 田路圭輔氏

 これまではレベル3でも「補助者あり目視外飛行」が余儀なくされ、レベル4解禁以降は却って、レベル3飛行申請も非常に難しくなったため、ドローン配送の事業化はほとんど進められなかったというが、レベル3.5導入によってオペレーション体制はがらりと変わる。

発表会資料(従来と今後の比較)

 使用した機体は、物流専用ドローン「AirTruck」(ACSL製)。エアロネクスト独自の機体構造設計技術「4D GRAVITY」によって、荷物を上から入れ自動で下に降ろして置き配できる機構が特徴だ。また、荷物の揺れを抑えて荷室の安定を図れる、流線型かつ逆翼型のボディで空気抵抗を抑えられるなどの機能を備えている。

発表会資料(物流専用ドローン「AirTruck」の概要)
荷物を上から入れるところ

 レベル3.5飛行の実現による最大のメリットは、着陸地点や飛行ルート地上の補助員を置かずに遠隔運航管理できる点だ。本飛行は、NEXT DELIVERY本社がある山梨県小菅村のリモートパイロットが、機体のカメラ映像を見ながら遠隔運航した。

 プレス発表会では、小菅村オペレーションルームの中継映像と、遠隔運航管理システムの画面、機体のカメラ映像が同時に投影され、“大幅な省人化” が実現したドローン配送の様子を静かに見守った。

左がGCS画面と機体カメラ映像、右が同じGCSと小菅村のライブ中継

 離陸後の静けさは、実に象徴的だった。従来は、リモートパイロットが地上にいる複数の補助員と音声通話で連絡を取り合いながら安全運航管理を行っていたため、ほぼ常に人の声が聞こえていた。しかし、今回の「レベル3.5」では、その相手がいない。

 リモートパイロットは、機体のカメラ映像とGCSの情報を頼りに、静かに遠隔運航業務に従事した。使用したGCSは、ACSLが提供する「PF-Station」。機体の姿勢をビジュアルと数値で把握できるのは、とても分かりやすく感じた。

GCS画面(左)と機上カメラ映像(右)

2パターンのドローン配送事業スタート

 当日、NEXT DELIVERYは、2ルートの飛行を報道公開し、2パターンのドローン配送事業をスタートした。

ドローンによるフードデリバリー配送

 1つは、「かみしほろシェアオフィス」~ハンバーグレストラン「トバチ」間のフードデリバリー配送だ。飛行距離は往復17km、飛行時間は約34分。高度約70mで、国道の横断も含むルートで飛行した。従来は一時停止が必要だった移動車両上空も、問題なく飛行していた。

(上士幌町でのレベル3.5飛行ルート1:プレスリリースより引用)

 かみしほろシェアオフィスは、町外の企業限定で利用できる、上士幌町の市街地エリアの端にある施設だ。現在は13社が契約し、そのほとんどが首都圏の企業だという。しかし、徒歩圏内には飲食店やスーパー、コンビニなどがない。車で「トバチ」に出かけると往復30~40分かかり、人気店でランチは行列になることも多いため、昼休憩の来店は難しかった。本飛行ルート開通により、シェアオフィスまで直接、温かいハンバーグランチをオンデマンド配送してもらえる。

ドローンが着陸する様子

 集荷ドローンには、「トバチ」のスタッフが荷物を積み込んだ。事前に、NEXT DELIVERYのドローンパイロットがレクチャーしたという。その後、荷物搭載完了報告を受けたリモートパイロットが、ドローンに遠隔で飛行指示を送り、機体は再び離陸。かみしほろシェアオフィスへとハンバーグランチを届けた。

「トバチ」のスタッフが荷物を積み込む様子(ライブ中継)

「トバチ」からドローンが離陸したタイミングで、報道陣は着陸地点へと車で移動した。「離陸を確認してから車移動し、着陸シーンを見に行く」という流れには、改めて飛行時間の長さを感じた。ちなみに到着を待つ屋外では、「先月のウランバートルよりも寒い」との声も多く、冬のドローンフードデリバリーの需要の高さがうかがえた。

ハンバーグランチが届いたところ
シェアオフィスでの食事シーン

 NEXT DELIVERYが運営する新スマート物流「SkyHub」では、すでにフードデリバリーサービス「SkyHubイーツ」を提供している。トラックによる陸送で、2023年4月~10月末時点で723件の注文があったという。

「レベル3.5は、制度と事業を同時に実現するという点で極めて画期的だ」と、冒頭お伝えしたが、この「SkyHubイーツ」はまさにその好例だ。

 上士幌町の人口は約5,000人。「人口10万人以上」を目安にする大手フードデリバリー事業者には、サービス提供が難しい地域に該当する。NEXT DELIVERYは、「かみしほろイーツ」事業をまずは陸送でスタートして、フードデリバリーという新たな市場を町内に創出し、「ドローンで運ぶべき荷物は何か」という目処まで立てたうえで、それを実現するために必要な制度を明らかにして、協働する自治体と強く連携しながら国と会話し、実際にレベル3.5の導入によってドローンへの置き換えを図った。

 かみしほろイーツの配送料は1オーダーあたり100円とのこと。今後はSkyHubの一般的な配送料に併せて価格の見直しも検討するというが、1回あたり複数オーダー獲得するという方法もある。陸路と比べてより時間価値の高いドローンのオンデマンド性など、どのような点が利用者に評価されるのか、今後も改めて取材したいところだ。

発表会資料(かみしほろイーツ by SkyHubの説明)

ポツンと一軒家へのドローン個宅配送便

 もう1つは、「かみしほろシェアオフィス」~市街地周辺エリアに点在する個人宅への新聞配達だ。飛行距離は往復9.8km、飛行時間約22分。ハンバーグランチを届けた機体に、次は新聞を載せて、別ルートで個人宅へと飛び立った。

(上士幌町でのレベル3.5飛行ルート2:プレスリリースより引用)

 上士幌町は、市街地エリアの周りに、大規模な農家や酪農家が点在している。市街地から各個人宅までは、5km、7kmと離れているうえ、お隣同士も広大な農地の向こうだ。新聞が当日中に届いたことはなく「毎日1日遅れ」のため、お悔やみ欄の見逃しには頭を抱えていたという。また、テレビ欄やスーパーのチラシなども不便を感じていたが、現状を仕方なく受け入れていた。

 かみしほろシェアオフィスを飛び立ったドローンは、北海道らしい広々とした庭先に着陸して、新聞を置き配し、再び自動飛行でシェアオフィスへと戻って行った。ほとんど往来のない家の前の道路もスーッと通過した。

個人宅に着陸するところ

 本飛行ルート開通により、「当日に新聞を届けてほしい」という、住民らの悲願が叶った。利用者は「かなり便利になった」と話す。

 新聞だけなら、電子版を見ればいいのかもしれない。しかし、個人宅へのルートが開通することで、日用品の買い物代行の配送、ECで購入した荷物の配送などに利用が広がれば、“ポツンと一軒家” の暮らしの利便性は確実に向上する。また、農作業中などの不在時にも置き配されるため、「無人ならではの気軽さもある」(利用者)とのことだ。

新聞のドローン配送を受け取った様子
新聞を受け取った住民のコメント
発表会資料(新聞のドローン配送の説明)

制度と事業を同時に実現、「レベル3.5」とは何か

 プレス発表会では、国土交通省 航空局安全部 無人航空機安全課 課長補佐(統括)を務める勝間裕章氏が、「レベル3.5」新設の背景や、制度の内容について改めて説明した。

国土交通省 航空局安全部 無人航空機安全課 課長補佐(統括)の勝間裕章氏

 ドローン配送の事業化を目指すにあたり、昨年解禁された「レベル4」という方法もあるが、機体の要件などまだまだハードルが高いうえ、「中山間地域などの過疎地域でレベル4までは必要ない」というのが実情だった。そこで、「レベル3の枠内で何かできないか」と、デジタル行財政改革会議において検討を急いで進めたという。

発表会資料(レベル3.5新設への歩み)

 特に、上士幌町長竹中貢氏が会長をつとめる「全国新スマート物流推進協議会」を通じた行政機関への働きかけは、「事業推進を念頭に置いた制度設計」に大きく寄与したようだ。

発表会資料(河野太郎デジタル大臣室表敬訪問はレベル3.5新設のきっかけとなった)

「レベル3」から「レベル3.5」への主な変更点は、「立入管理措置の撤廃」だ。「機上カメラによる歩行者等の有無の確認」を行うことで、補助者や看板等の現在の立入管理措置を撤廃し、加えて「操縦ライセンスの保有」「保険への加入」という計3つの要件を満たすことで、道路や鉄道等の横断を伴う飛行を容易化した。

 例えば、歩行者や自転車の上空は従来通りの一時停止が必要だが、移動車両の上空は一時停止不要で飛行を継続できるという。あくまでもレベル3(無人地帯)を前提とした枠組みであるため、レベル4(有人地帯)と混同しないよう注意が必要だ。

発表会資料(レベル3飛行の事業化に向けた改革1:レベル3.5新設)

 併せて、許可・承認手続きの簡易化、スピード化も進めているという。勝間氏は、「今日この上士幌町でレベル3.5飛行開始ということで、ドローン配送の年内事業化という我々に求められていたミッションをクリアでき、非常に喜ばしく思っている」と話した。

発表会資料(レベル3飛行の事業化に向けた改革2:許可・承認の簡素化、スピード化)

 プレス発表会に登壇した上士幌町長の竹中貢氏は、全国新スマート物流推進協議会として5月にデジタル大臣の河野太郎氏を表敬訪問した際のエピソードを明かしつつ、このように語った。

「実際にはほとんど車も人も通らないところがたくさんある。こうした危機迫る地域は全国どこにでもあるが、全国一律の規制の条件下では、誰も通らない道にも人を配置し、目視でやらなければならない。これではドローンの実用化はほとんど視界が不良である。5月にこうお話させていただいたときは、こんなにも早く制度化されて年内に動き始めるとは全く想像していなかったが、大臣や国道交通省の方々にご尽力いただき、本日を迎えることができた。今回はレベル3.5だが、レベル4に向けても大きな一歩になると考えている」(竹中氏)

上士幌町長の竹中貢氏

 エアロネクスト代表取締役CEOでNEXT DELIVERY代表取締役の田路圭輔氏は、「トバチへの片道8.5kmをレベル3で開通したときは、立看板を15個、毎日設置と撤去を行っていた」というエピソードを明かしつつ、レベル3.5の導入効果についてこのように話した。

「この北海道上士幌町では、2年前から軽バンで陸路の配送サービスを行ってきた。ここで見えたのは、上士幌町の荷物の約8割が市街地に集中している一方で、市街地内の配送にかかっている時間は約2割であるという事実。残り約2割の周辺部への配送に、約8割もの時間を費やしている。もしこの農村部の全配送をドローンで引き取ることができれば、トラック配送の効率はさらに向上し、1.5~2.5倍までキャパが上がるとシミュレーションできている。まさに今日、レベル3.5の導入によって、ドローン配送が事業化フェーズに入ったと考えている」(田路氏)

発表会資料(レベル3.5飛行ドローン配送の事業化で、陸路の配送効率は約2倍向上)
エアロネクスト代表取締役CEOでNEXT DELIVERY代表取締役の田路圭輔氏

ドローン配送“幹線”開通のインパクト

 田路氏は、今後の展開について「新スマート物流SkyHubの実装自治体で、レベル3.5飛行によるドローン配送事業を加速していく。具体的には、山梨県小菅村、茨城県境町、石川県小松市、福井県敦賀市、新潟県阿賀町で計画中」と話す。(取材時点、12月16日現在は小菅村と境町で事業開始。)

「地域に新たな物流網を構築し、先んじて陸送を始めて顧客と荷物を確保したうえで、ドローン配送への置き換えを図る」という、約2年前から見据えてきた計画がようやく実現する。

 また、いわゆる“幹線”からルート開通したことも、理にかなっている。例えば、「かみしほろシェアオフィス」~ハンバーグレストラン「トバチ」間のルートを幹線とし、そこから“支線”を増やすことで、空のインフラ整備が具現化する。そうなってくると、数年前からよく話題に上がってきた「1対N運航」「複数機体の同時運航」が、技術だけではなく事業的にもようやく現実味を帯びてくる。

 田路氏は、「人がいないところではビジネス化できないというのは固定観念。いまドローンが最も必要なのは過疎地域だ。物流補助としてのドローン、これを社会インフラにしたい」と改めて強調した。