AIR WINGSとJR東日本新潟シティクリエイトは2023年11月22日、国産eVTOLメーカー空解社製「QUKAI MEGA FUSION3.5」を用いて、ドローン物流の実証実験の報道公開を行った。佐渡島から特産の南蛮えびをドローンで運び、JR東日本グループの列車荷物輸送サービス「はこビュン」と連携して、佐渡島を出発してから約6時間で東京都内の飲食店に届けた。

 本実証は、国土交通省「無人航空機等を活用したラストワンマイル配送実証事業」の採択事業で、代表事業者のAIR WINGSと、JR東日本新潟シティクリエイト、新潟市、佐渡市が4者共同で実施した。このほか、佐渡汽船、新潟県漁業協同組合連合会、JR東日本物流など、さまざまな事業者の協力を得て実現したという。

 もともとは、佐渡特産品のドローン輸送とあわせて、ドローンポートの活用や、復路便での医療関連品輸送も予定されていたが、報道公開当日は「はこビュン」との連携に焦点を当て、ドローンが越佐海峡を渡る際の安全性や確実性、新幹線と連携した一連の物流品質などを検証して成果発表会も行われた。

発表会にて、JR東日本新潟シティクリエイト株式会社 常務取締役の志村和臣氏(左)と、AIR WINGS合同会社 代表の林賢太氏(右)

空解「QUKAI MEGA FUSION3.5」日本海を渡る

 本実証の1つめのトピックスは、佐渡島とJR新潟駅とをつなぐ、「空の定期ルート」開設を目指した点だ。当日、ドローンは佐渡~新潟間の片道56kmを、時速80km/h、高度120mで飛行して、佐渡島特産の南蛮えびを運んだ。現地で尋ねると、南蛮えびは地元ではよく食べられるが、県外にはあまり広く流通していないのではという声が多かった。佐渡沖の深海約400mの水域に生息し、甘さが自慢の珍しい食材だという。

 将来的には、往路は佐渡島から特産品の輸送、復路は新潟市から医療物資や緊急物資の輸送という往復運航の実装を視野に、越佐海峡ドローン物流の実用化を目指す。現時点での目標は、「2026年の定期運航」だ。

「QUKAI MEGA FUSION3.5」が着陸する様子
到着後、荷物を取り出したところ
当日運ばれた佐渡島特産の南蛮えび2.2kg

 使用した機体は、国産eVTOLメーカー空解社製「QUKAI MEGA FUSION3.5」。機体サイズは幅3.5m、長さ2.4m、高さ0.95m、機体重量は12.5kgだ。最大離陸重量は24.0kg、ペイロード5.0kgで、最大離陸重量時の飛行可能時間は70分。巡航対気速度は80km/h、飛行可能風速は10m/sで、それ以上の強風や雨天時は運航不可となる。

 AIR WINGSの林氏は、機体選定の背景について、このように説明した。

「越佐海峡を越える56kmという長距離飛行で、気象条件も非常にシビアになることが予想されていた。さらに、今回は特産品輸送ということで、できるだけ重い物を運べる機体を選定したいと考えた」(林氏)

着陸直後の「QUKAI MEGA FUSION3.5」とAIR WINGSの林氏

 当日、ドローンは午前7時50分に佐渡両津港を離陸し、午前8時45分に西海岸公園自由広場に到着。所要時間約55分で、予め配布されていたタイムスケジュール通りの運航を実現した。加えて、前日にも実証を実施し、冬限定の珍味であるメガニを運び、無事成功したという。

 なお、本飛行は「レベル3」に該当する。飛行ルート設計時に難しかったことを尋ねると、林氏は「主には2つのポイントがある」と話した。

 1つは電波だ。ドローンの遠隔運用監視には、NTTドコモのLTE回線を使用したが、予め7月には大型船舶を用いて上空100~120mの電波状況を確認し、飛行ルート決定の判断材料とした。

 もう1つは、海上における第三者の立入管理措置だ。最も注意を払ったという。越佐海峡には佐渡汽船のカーフェリーとジェットフォイルの定期運航が、基本的には毎日3~5便往復している。船の航路をドローンが横切るのに約3分間を要するため、船が通らないタイミングで横断できるよう、離陸時刻を設定した。佐渡汽船とも連携して船の運航スケジュールを事前に把握したうえで、船舶の位置や動きのほぼリアルタイム情報を確認できるとされるMarineTrafficや、ドローンのカメラ映像を活用して、遠隔監視しながら飛行した。緊急停止した場合に備えて、最大風速のなかでも、最大飛行速度での航行中でも、船の航路から1~1.5km離れたところに着水できるように航路設定を行ったという。

 漁船に対しては、予め漁協を通じて周知文書を提示した。もしも飛行中に漁船の上空を横断する恐れが生じたときには、漁船が停止している場合は一時的に経路を変更して迂回ルートを飛行する、漁船が動いていてドローンの航路とぶつかるコースにあると判断した場合には、上空で旋回して待機し漁船が通り過ぎたあとに進行を再開する、といった操縦介入の体制を佐渡島の運航チーム側で構築していたという。

 また、海上に落下した際の安全対策としては、機体にGPSトラッカーを装備して落下後の現在地を把握できるよう対策を講じたうえで、機体を回収するための捜索船も予め手配していた。

佐渡島側の運航チームとは常時オンライン接続
遠隔監視時の様子
着陸側の気象計
着陸直後。林氏と志村氏は佐渡島のSポーズで撮影

「ドローン×新幹線」で、JR新潟駅をトランジット拠点に

 2つめのトピックスは、ドローンと新幹線を連結することで、JR新潟駅を物流における新たなトランジット輸送の拠点として活用していくという、駅の新たな付加価値を模索した点だ。

 当日は、午前8時45分に西海岸公園自由広場に到着した佐渡島特産の南蛮えびは、陸送ですぐにJR新潟駅へと運びこまれた。JR東日本物流のスタッフが、午前10時28分発の新幹線に荷物を運び入れ、午後0時28分には無事に東京駅に到着した。

JR東日本グループの列車荷物輸送サービス「はこビュン」と連携

 午後1時45分には、東京都中央区銀座にあるこだわりの日本酒専門店「方舟」の各店舗に到着して、その日のうちに調理、サービス提供された。

「方舟」到着と調理の様子

 本実証が行われた背景には、JR東日本グループの「Beyond Stations構想」がある。同グループはこれまで駅が担ってきた「交通の拠点」という役割を超える、新たな可能性を検討するなかで、2021年には、新幹線輸送サービス「はこビュン」をスタートしていた。

 JR東日本新潟シティクリエイトの志村氏は、「実際に、はこビュンの利用事業者へのヒアリングを行った結果、300kmという非常に長い距離を運べることや、定時性、速達性といった、新幹線物流の長所が明らかになったが、一方で課題も抱えていた」と話す。

 事業推進にあたっては、取扱品目のバリエーションや新潟駅までの輸送手段といった“ファーストマイル”、新たな付加価値の提供による販路の拡大といった“ラストワンマイル”、両方をもっと充足させる必要があるという。

 JR東日本新潟シティクリエイトはかねてより、特産品の掘り起こしやJRのアセットを活用した地域活性を推進しており、その一環で輸送ドローンにも着目したというわけだ。志村氏は、ドローンを活用した事業化について、このように見解を示した。

「もともと、実際に駅を使った新たな事業化を目指すというところに、大きな眼目があった。特産品についていえば、JR東日本グループでは、実際に首都圏にある駅のなかで産直市を展開してきたが、実体験として、販売するものにストーリーをつけていくことで消費者の方にご利用いただけるという場面に多々出くわしている。今回のような、佐渡の採れたてのものをドローンが運ぶというストーリー性にも、大変意味があるのではないかと思う」(志村氏)

JR東日本新潟シティクリエイトの志村氏
発表会投影資料

2026年の定期運航を目指す ~事業化への課題と今後の展開

 当日は、現状の海上輸送とトラック輸送で1~1.5日かかるところを、ドローンと新幹線を活用することで、約6時間で輸送を完了できた。今後は、ドローンの離着陸地点の選定や、積み込み作業の効率化などで、さらなるシームレ化を図ることで、トータル約4時間への短縮を見込んでいるという。そして、当日は叶わなかったが医療品や医薬品の輸送や、ドローンポート活用などの検証も続けながら、2026年の定期運航を目指す。

 特に、医療関係では新潟市内から佐渡島へほぼ毎日運ばれている血液製剤や、少量でも緊急性や必要性の高いものなどは、高い需要が見込まれると仮説を立てている。ドローン輸送の1便あたりの価格は、現段階では「1便あたり1.5~3万円を目指す」とのことだ。ただし、本実証においては、実証実施にかかる費用も含まれることから、本格的なコスト見積もりはこれからだという。

 最後に、本格的な事業化への課題について、AIR WINGSの林氏と、JR東日本新潟シティクリエイトの志村氏は、ドローンと鉄道の各立場からこのように述べた。

「今後の実用化に向けて大きく3点の課題があると考えている。1つめが航空法、2つめが就航率、3つめが運航コストだ。航空法については、新潟駅まで直接輸送するには、レベル4の飛行カテゴリー3の運航が必要となる。就航率については、日本海の厳しい気象条件下でも90%以上を実現したいと考えており、機体運用体制をしっかり構築していかなければならない。運航コストについては、1便あたりの運航コストを低減させていくことを我々のミッションとして、引き続き取り組んでいきたい」(林氏)

「今回は、手作りで作り上げた物流ということだが、社会実装するためには、手作りではなくシステムにしていかなければならない。また我々としては、鉄道の安全輸送についても引き続き十分配慮していかなければならない。たとえば、新幹線の停車時間内に積み込みを完了できることも重要な要素であるし、ドローンが駅に近づいてくるということになれば、鉄道に間違いなく支障がないということも必要条件となる。鉄道とドローン、それぞれの物流が目指している物流品質や安全性、こういったことも全て折り合っていかなければならないので、これからも実験を重ねながら、すり合わせを重ねていきたいと考えている」(志村氏)

発表会終了後の志村氏(左)と林氏(右)