日立パワーソリューションズとセンシンロボティクスは2023年10月18日、風力発電設備のタワー点検システムを共同開発し、12月から本システムを風力発電設備の新たな点検サービスとして提供すると発表。両社はこの新しいタワー点検システムを、10月18日に茨城県日立市の日立パワーソリューションズ大沼工場において、報道関係者に公開した。

先に開発したブレード点検システムを応用

 日立パワーソリューションズは、風力発電設備の地点開発、建設からO&M(Operation & Maintenance:運転&保守)サービスまでを展開。オペレーションサービスでは、設備の運転管理や技術支援、そしてメンテナンスサービスでは定期点検や部品供給を行っている。また、こうしたサービスを展開するために、遠隔監視・支援センタやパーツセンタ、トレーニングセンタと全国各地にサービスセンタを有し、風力発電設備の安定稼働を総合的に支援している。
 メンテナンスサービスでは運転・保守のDXを推進する施策のひとつとして、2021年からセンシンロボティクスと連携。2022年2月には風力発電設備のブレードを撮影した画像をAIで画像解析して損傷状態を評価するブレード点検システムを開発したことを発表。日立パワーソリューションズが培ってきた風力発電設備の保守や補修に関する知見を生かして、同年4月からブレードトータルサービスソリューションを提供している。
 風力発電設備はおもにブレード(羽根)とその回転エネルギーを電力に変換する発電機をはじめとした機器を収納するナセル、そしてこれらを支えるタワーで構成されるが、この日リリースしたのは、両社が2022年2月に発表したブレード点検システムの技術をタワーに応用したものだ。

日立パワーソリューションズ 再エネソリューション本部 フィールドエンジニアリング部の白濱幸弘部長。
センシンロボティクス エンタープライズ事業 ソリューショングループの正岡克氏。

タワーを5方向から死角なく撮影する飛行ルートを自動生成

 本システムは風力発電所の名称や基数、風力発電設備の形式、タワーの高さ、そして設置場所の緯度経度といった情報を入力することで、タワーの撮影に必要な飛行ルートと撮影ポイントを自動生成。この飛行ルートをドローンの自動航行機能を持ったGCS(Ground Control Station/System)に転送して、ドローンを飛行させることで、点検に必要な写真を自動で撮影する。
 タワーの情報を本システムに入力すると、タワーを5方向から撮影する飛行ルートを生成。ブレードを定められた位置に固定しておくことで、飛行中のドローンがブレードに接触することを回避できるばかりでなく、ブレードとタワーが重なる部分も考慮して飛行ルートを生成するため、死角を作ることなく撮影することができる。

 この日のデモ飛行ではDJIのMatrice 300 RTK(M300RTK)が使用された。センシンロボティクスのソフトから、M300RTKに対するルート情報の転送は次のような手順で行う。

① ソフトウェア上で設備情報を基に自動航行ルートを作成
② KMLファイルを出力
③ KMLファイルをPCからプロポへ移動(有線のUSBケーブルを使用)
④ KMLファイルをGCSアプリケーションにインポート

ルート生成に必要な情報を入力すれば、その風力発電設備の点検撮影に最適な飛行ルートを自動生成する。

「これまで、ブレードを自動飛行して撮影する技術は、当社を含め他にもあったが、タワーを自動飛行で撮影するシステムは他にはない。人がドローンを操作して点検するのに比べて、操縦者の技術に依存せずに、高い品質の撮影ができる。また、人の操作ミスでドローンが風力発電設備や周辺の施設に衝突するようなことがなく、安全に点検ができる」(白濱氏)というメリットがある。
 また、システムが生成した航路を飛行する限りにおいては、ドローンが毎回同じルートを飛び、同じ位置でタワーを撮影するため、過去と現在の写真を比較することで、劣化が進展していないかといったことなどが一目でわかる。「経年変化を同じアングルの写真で比べて見られるというのは、これまで人の手による点検ではできなかったこと」(白濱氏)だとしている。
 なお、ドローンが自動飛行するルートは、あらかじめシステム上で設定するが、「タワー上部の周囲には障害物はないが、タワー下部周辺には木々や架線といった障害物が存在する場合もある。そのため、最低飛行高度やタワーとドローンの離隔距離を現場で動的に変更できるようにしている」(正岡氏)という。

この日のタワー点検のデモンストレーションでは、DJIのMatrice 300 RTKとジンバルカメラZenmuse P1が使われていた。
ドローン飛行中のコントローラー(送信機)の画面。本システムで生成した飛行ルートを、GCSアプリケーションに入力して飛行する。
タワーの周囲を5方向から撮影。ブレードがタワーを隠さないような位置をドローンは飛行する。この日は塔体から8mの離隔で撮影していた。

耐用年数の目安である20年を超える風力発電設備が今後増えていく

 日本では2000年頃から風力発電設備が全国各地に設置されるようになった。風力発電設備の耐久年数は一般的に20年程度といわれており、初期に運転を始めた設備は耐久年数を超えるものが出始めている。また、2023年3月には青森県六ヶ所村で、日本風力開発ジョイントファンドが設置した、高さ約100mのゼネラルエレクトリック社製風力発電設備が倒壊する事故が発生。本設備は設置から20年が経過しており、タワーの溶接部が破断する形で倒壊したとされている。経済産業省によると、破断面には内外を貫通する亀裂が発見されており、また外面にはさびも見られるなど、こうした亀裂や発錆(はっせい)などはタワーの外観検査により発見できる可能性があるとしている。
 この事故を契機に経済産業省では同年4月、発電事業者に同型の風力発電設備に対して緊急の点検を要請。「日立パワーソリューションズでは、ブレード点検システムの技術を生かし、タワーの点検の効率化や精度向上が図れるのではないかと、5カ月でこのシステムを開発した」(白濱氏)という。

近年、設置から20年を超える風力発電設備が増えてきているばかりでなく、2023年3月の倒壊事故と経済産業省の事業者に対する点検の要請が、本システム開発の契機となった。

 風力発電設備の点検は、主に発電事業者の月例巡視、保守会社による定期点検に加えて、法定点検がある。こうした点検では、これまで地上から望遠鏡やカメラで劣化、損傷箇所を探し、異常が発見された場合は、後日改めてクレーンや高所作業車、ロープアクセスといった機材や手法を用いて、人が異常箇所に接近し、近接詳細点検を行ってきた。しかし、「必ずしも点検精度が高いとはいえず、判定が難しいケースもある。また、クレーンや高所作業車を用いる場合は、タワー全周の点検が難しく、同時に高所作業に伴って点検者が落下するといった労働災害の危険性がある」(白濱氏)という。

撮影した画像を本システムにアップロードすれば、各画像がタワーのどの部分か一目でわかるように整理して表示する。

点検による風力発電設備の稼働停止は売電事業者にとっての損失

 また、ドローンによる点検は作業時間を短くできるというのも大きなメリットだ。従来の方法では、地上からの点検に2時間程度、さらに後日実施する近接詳細点検に5時間から6時間といった時間がかかるという。一方、本システムでは、1基当たりの点検時間は30分程度。近接詳細点検の5時間と比べると、点検時間は10分の1に短縮できる。また、従来は地上からの点検と近接点検という2回作業を実施するのに比べて、ドローンによる点検は1回で済むため、時間短縮の効果は大きいと言える。
 点検時間の短縮は、単に工期の短縮による作業コストの削減にとどまらない。売電事業者にとって点検によって風力発電設備の稼働を止めるということは、直接、発電量が減ることになり、つまり、売電による売り上げの減少に直結する。そのため、ビジネス面でもドローン点検による工期の短縮はメリットが大きい。

従来は人による点検の後、後日近接点検を実施するのに対して、ドローン点検では1回約30分で作業が完了する。

 日立パワーソリューションズでは、本タワー点検システムを2023年12月1日から新たな風力発電設備の点検サービスのひとつとして提供開始するとしている。同社は、1996年から独ENERCON社と共同で風力発電ビジネスを展開しており、日本国内では延べ484基(2023年4月時点)の風力発電設備を設置し、その保守を行っている。今後、年間100基を目標に本サービスを展開し、さらに、ENERCON社以外の風力発電設備にも拡大していきたいとしている。