先ごろ、AutonomyHDの協力により、国内初となるスウォーム(群)飛行の実証デモが栃木県・小山絹滑空場で実施された。これは、インドのバンガロールに本社を置くNewSpace Research & Technologies社(以下、NewSpace社)が開発した15機のドローンと飛行システムを用いたもの。ここでは本実証実験の模様を中心に紹介しよう。

そもそもスウォーム(群)飛行とは、どのような技術なのか?

 今回、スウォーム飛行を披露したドローンは、複数のドローンが集団(群)で相互に通信し、自律的に協力しあいながら、任務を遂行する革新的な技術を搭載している。自律動作と集団の連携能力によって、迅速な救助活動から、効率的な物流・搬送、緻密なデータ収集まで、幅広い領域での活用が期待されている。

AutonomyHD代表取締役の野波健蔵氏。自律制御システム研究所創業者・元代表取締役CEO。千葉大学名誉教授・元理事・副学長。ドローン業界を牽引するパイオニアだ。

 実証実験に協力したAutonomyHD代表取締役の野波健蔵氏は「いまは1人のオペレータが1台のドローンを担当していますが、これではドローンの社会実装が進みません。自律飛行してもマニュアル飛行と変わらないからです。スウォームドローンは、大規模なパフォーマンスと柔軟性を備えており、従来の飛行を革新的に変えてしまう技術です」と力説する。

 今回、スウォームドローンを日本で初めて披露したNewSpace社のドローン群は、AI技術を駆使して、自律的かつ異種混成での飛行を実現している。これにより最小限のオペレータで、個別または集団でのスウォーム飛行が可能になった。実際にスウォームドローンのデモでは4名のオペレータが15機のドローンで合計10個のミッションを行った。同社では、すでに最大で75機のスウォーム飛行にも成功しているそうだ。

 スウォーム飛行でよく誤解されがちなのは、東京オリンピック・パラリンピックの開会式で行われたようなドローンショーの飛行と混同されてしまうことだ。しかし、その原理はまったく異なる。

スウォーム飛行では各ドローン同士がメッシュネットワークで通信しあう。2kmぐらい離れた場所で高速飛行していても、各地点をそれぞれ把握しているので安全だ。

 野波氏は「ドローンショーでは、すべてのドローンがプログラミングされて飛んでいます。いつ、どの位置で飛んで、どんな色で光らせるかということが事前にドローンにセッティングされています。そのため2000機もの機体を飛ばせば、数機ぐらいは墜落してしまうことがあります。ところがスウォーム飛行はメッシュネットワークによる機体間通信で自律的に飛行するため、追突を回避できて、危険性はありません」と強調する。

初お披露目! NewSpace社の高性能ドローンの概要

 デモの様子を説明する前に、実証実験で使用されたNewSpace社のドローンについて簡単に触れておこう。もともと同社のドローンは、軍事用に開発されたようだが、高性能なEO/IR(軍用電気光学/赤外線)カメラを備え、過酷な環境でも優れた性能を発揮するため、災害救援、物流、医療緊急輸送などの用途においても、重要な役割を果たす。

 今回のデモンストレーションでは、3種類の異なるドローンが使われた。

ハイブリッド6双ドローン「BELUGA」。高性能なEO/IR(軍用電気光学/赤外線)カメラを備え、最大ペイロードは7kg。軍事用/民生用の両方で利用できる頑強な構造だ。

 機体のサイズが大きくて最も目についたのは、長時間飛行が可能なエンジン搭載型ハイブリッド6双ドローン「BELUGA」(ベルーガ)だ。エンジン式発電ユニットを搭載し、電池を充電しながら飛行する。運用高度500m(上昇限度1500m)、最高速度15m/s(設定による)で、最長100km(片道50km)、3時間まで飛べる。

2000m(上昇限度7000m)の優れた運用高度を有する電動4双ドローン「NIMBUS」。BELUGAよりも少し小柄だが、軍事用/民生用において多目的な用途で使えるという。

 BELUGAより一回り小さいが、高度性能に優れ、2000m(上昇限度7000m)で飛べるのが「NIMBUS」(ニムバス)だ。こちらは平原から高地までのスウォーム飛行に適した多目的用途の電動4双ドローンで、最高速度20m/s(設定による)、最長40km(半径20km)の飛行性能を備える。

今回のドローンの中で最も小型・軽量なスウォーム用ドローン「MACKEREL」。運用高度100m(上昇限度300m)最高速度20m/s(設定による)、最長5km・15分の飛行が可能。
MACKERELは、BELUGAの小型機としても利用できる。単独離陸はもちろんのこと、BELUGAと合体した状態で離陸し、空中で分離して飛行できる点が大きな特徴だ。

 もう1機は対角寸法750mmと小型なスウォーム用ドローン「MACKEREL」(マッカレル)だ。最大の特徴は、地上からの単独離陸だけでなく、前出のBELUGAと合体した状態で離陸し、空中で分離飛行できる点だ。実際に今回の実証実験でも空中分離の様子が披露された。同社は、この飛行形態を「Kamikaze」(神風)と呼んでおり、明らかに軍事目的や偵察用途を想定していることが推測できた。

 いずれも通信のためのデータリンクは、2.4GHz/ISMバンド(変更可)だ。ISMバンドは、電波の周波数帯のうち、国際的な取り決めにより産業・科学・医療用の機器が免許不要で自由に利用できるように開放された周波数帯だ。スウォーム飛行時には、3次元メッシュネットワークで機体同士で通信しながら、分散型のインテリジェンス機能により自律的に編隊を組める。

 また筆者が別の観点で興味を引かれたのはセキュリティ面である。通信時に128ビット超の暗号化とファイアウォール機能を備え、さらにMIL-STD461にも準拠しており、軍用機器の電磁干渉(EMI/EMC)の限界と試験手順もクリアしているという。

いざスウォーム飛行! まず9機のドローン編隊が離陸してホバリング

 ここから本番の様子についてお伝えする。NewSpace社がスウォームのデモ飛行で使用したドローンシステムは「heterogeneous swarm Unmanned Aerial Vehicle (UAV) system」と呼ばれるもの。本実験ではエリア内にジオフェンスを設定し、1km×1km×150m(上空)の空域からドローンが絶対に出ないように安全対策を施していた。

ドローンが指定したエリア外に出ないようにジオフェンスを設定。ジオフェンスは1km×1kmの範囲で設定されており、ドローンが1km四方から外に出ることはない。飛行エリアは黒い領域で示される。
地上局では4名のスタッフがドローンのオペレーションを実施。また2台のアンテナ(もう1台は写真外)で、メッシュネットワークの通信データを集めていた。

 また、すべてのドローンのメッシュネットワークの通信データは、2つの大きなアンテナを介して、地上局にあたるGCS(Ground Control Station)で集めていた。通信範囲は150kmまでの広大なエリアをサポートするという。

9機のドローンが一斉に離陸していった。ユニークな点は同じ機種でなく、ヘテロジニアス(複数機の異なる種類)なドローンを制御していることだ。

 今回は合計10のスウォームの実証実験が行われた。最初のスウォーム離陸では、3機のハイブリッド型ドローン・BELUGAと、6機の多目的電動ドローン・NIMBUSが群を形成しながら、ゆっくりと離陸していった。

 計9機のドローンは離陸後に、それぞれ設定された高度まで上昇し、ホバリングを行いながら空中でピタリと停止した。

荷物搬送ミッションをこなした「カーゴBELUGA」。スウォーム飛行による物流の可能性を示した。将来的にはメッシュネットで集荷地点も結んで有機的な搬送ができるだろう。
小型ドローン・MACKERELが空中で分離したあとのカミカゼBELUGAのアップ。残念ながら分離の瞬間を捉えられなかったが、こういった飛行形態を見たのは初めてだった。

 なお実験では、BELUGAが荷物搬送用の「カーゴBELUGA」と、小型ドローン・MACKERELを搭載して空中離陸できる「カミカゼBELUGA」、疑似爆弾を積んだ「ボムBELUGA」という3つの異なる形態でデモを実施。一方、NIMBUSのほうは、EO/IRカメラを積んだ「高性能撮影NIMBUS」と、疑似爆弾を積んだ「ボムNIMBUS」が各3機ずつミッションごとに使われた。

 次にミッション計画に基づいて、あらかじめ設定されたウェイポイントに、それぞれのドローンが飛行していった。ここではメッシュネットワークの実証として、地理空間情報を重ねたネットワーク・レイアウトをつくり、通信のSNR(信号対雑音比)や接続性、受信アンテナのパターンなどもGCSのPC上で表示させていた。

 またスウォームドローンの編隊はスケールアップやスケールダウンできることが大きなポイントだった。たとえば編隊規模によりサブ(小)/スタンダード(中)/スーパー(大)という形態のスウォーム飛行に加えて、サブとスタンダードの編隊を組み合わせたり、逆にスーパーの大規模編隊を複数グループに分けて飛行したりすることも可能だ。

高度なダイナミック・リプランニングとセルフ・ヒーリングの実証も

 続く災害救助ミッションでは、災害時の救助支援を想定して、3機の高性能撮影用ドローンのNIMBUSが生存者を探す情報収集活動を行った。画像AI機能により、ターゲットとなる生存者を発見すると、自動的にGCSに映像や画像が表示される仕組みだ。もちろんターゲットは人間だけでなく、さまざまなモノに対しても適用できる。

ダイナミック・リプランニングとセルフ・ヒーリング(自己修復)機能の実証。1機のNIMBUSが通常プランを変更し、編隊を離れて寺院をズーム撮影。残り2機のNIMBUSは通常プランどおり探索活動を継続。

 ここではダイナミック・リプランニングとセルフ・ヒーリング(自己修復)機能の実証も同時に行われた。前出の3機編成のNIMBUSのうち1機を分離させ、1.5km先にある寺院を空中からズームアップして、その映像をGCS側に送るミッションだが、途中で通常プランを変更し、同時に複数の活動をサポートする機能も披露された。

 寺院に向かう1機のほか、残りの2機のNIMBUSは従来どおりの探索活動を引き続き行った。これにより高度な全体ミッション計画のなかで、一部のプランを変更しても、自律的なプランニングのよる継続性が実証された。

カーゴBELUGAを中心とした荷物搬送の実証実験。6機の異なるドローンによって、スウォーム飛行による荷物搬送のオペレーション効果を確認するもの。

 もう1つ、全体なミッションの中で大きな実験が荷物搬送だ。6機の異なるドローンによって、スウォーム飛行による荷物搬送オペレーションの効果を確認する実証である。カーゴBELUGAと、カミカゼBELUGA、ボムBELUGAのほか、3機のボムNIMBUSが上空の指定位置でホバリングして待機し、貨物搬送のミッションを実行した。

搬送ミッションの模様。カーゴBELUGAと、カミカゼBELUGA、ボムBELUGAがホバリングして空中待機している様子。その後にカーゴBELUGAが自動着陸し、地上スタッフが荷物を取り出したのち、再離陸するデモも行われた。

 次の実証実験では、ここまで待機していた6機の小型ドローン・MACKERELが離陸し、最終段階で15機すべてのドローンが飛び立ち、すべてのメッシュネットワークが張られた。また2つのグループの編隊がクロスする実験も行われた。これは各ドローンが自動的に衝突を回避できることを確認する実験だ。MACKEREL同士が通常軌道から外れて衝突しないように飛行したこともわかった。

ネットワーキングの実証実験。2つのグループにドローンが分かれて編隊を組み、それぞれのステーションに進んでいった。編隊を自在に変更できると、搬送などドローンの利用範囲も広がるだろう。

 その後、15機すべてのドローンが上位コマンドによって同時に着陸して実証実験は終了した。今回の実証実験は、スウォーム飛行により、非常に高度なミッションを次々とこなしており、その様子を国内で初めて垣間見れた貴重な体験であった。スウォーム飛行は日本でも防衛省などが現在も研究しているところだ。今後は、実用性のある物流搬送の実験はもとより、安全保障面からのスウォーム飛行の研究が各国で進んでいくだろう。

 NewSpace Research & Technologies社のJulius Amrit COOは、「野波氏やAutonomyHDと協力して、新たな自律制御システム技術とアプリケーションを共同で開発していけることに気持ちが高ぶっています」と期待を示している。

NewSpace Research & Technologies社 Julius Amrit COO