2023年7月5日、ウェザーニューズとオムロンは、共同開発した新型気象IoTセンサー「ソラテナPro」の製品発表を行った。製品の紹介のほか、ウェザーニューズ Mobile/Internet事業部 グループリーダー 上山氏と、オムロン デバイス&モジュールソリューションズカンパニー 営業統轄本部 新規事業推進部長 岡氏が登壇し、ソラテナProの需要についてディスカッションも行われた。

小型・軽量化で現場に導入しやすい新型気象IoTセンサー「ソラテナPro」

 ソラテナProは、気温・湿度・気圧・雨量・風向・風速・照度の7つの要素を1分ごとに観測する小型の気象IoTセンサーだ。特長の1つとして、災害リスクが高まるとされている雨量50mm/h、風速50m/sの大雨・強風を観測できることが挙げられる。

 ウェザーニューズは、2022年にソラテナProの旧型気象IoTセンサー「ソラテナ」を発売しているが、ソラテナは雨量20mm/h、風速25m/sまでを計測する平時の気象観測機器であり、防災対策としての対応は難しかった。

 今回発表されたソラテナProは、現場の声を積極的に取り入れ、測定範囲を拡大した上で実際の現場に導入しやすい小型・軽量化された気象IoTセンサーとしてリリースされている。
 ソラテナProは1分ごとに7つの気象要素を高頻度で観測できるだけではなく、低コストで簡単に各現場に設置・起動することが可能だ。

 加えて、ネット回線を利用して現場の観測データを「見える化」し、農業・建築・物流・防災など、さまざまな分野で活用することができ、企業や自治体の安全対策や生産性向上につながるという。

ドローン業界への導入可能性① 農薬散布

 発表会ではソラテナProの導入事例として九条ねぎの栽培を担う、あぐり翔之屋の事例を紹介した。九条ねぎは風に弱いため、ビニール製のトンネルで保護しなければならない。しかし風速が8m/s以上になるとトンネル自体が飛ばされてしまう可能性があり、トンネルが破損すれば九条ねぎの収穫率は低下してしまう。

 そこで、あぐり翔之屋がソラテナとソラテナProを導入し、最大瞬間風速を把握できるように設置したところ、「被害を受ける前に適切な対応を取れるようになり、生産量向上に寄与しました」と上山氏はいう。また、「ソラテナProを導入したことで、九条ねぎの根腐れや病気リスクなども未然に防げるようになり、このほかにも農薬散布の安全性担保にも役立てることができます」と話した。

 ドローンによる農薬散布は、自動で効率良く作業できる一方で、近隣で栽培されている農作物への農薬飛散や近隣住民・公共用水域への影響などが懸念されている。農薬飛散は使用する農薬の粒状や散布位置・回数・量などに応じて異なるが、特に飛散原因となるのは風の影響によるものだ。

 「山口県農薬飛散防止対策指導者マニュアル」によると、0.5m/sの風速で周辺30mまで飛散した事例があり、屋外の樹木で木の葉の揺れが観測される3m/sを超えると遠方まで農薬が飛散することが分かる。周辺作物への影響のほか、近隣住宅の敷地内への農薬付着、異臭などが考えられ、化学物質過敏症を引き起こすリスクなどが生じる。農業は「A(害虫駆除等)を目的としてBという農作物に使用する場合」のように固定の品種・目的に応じて適した農薬を使用しなければいけない。そのため、農薬散布時は飛散リスク低減のために、風速3m/sを超える場合は散布を行わないことを原則としている。

 特にドローンにおいては、上空から散布する特性上、人力よりも農薬が周囲に飛散する可能性が高いため、よりいっそう散布時の風速には気を配らなければならない。風速は常に変動しており、リアルタイムでは数値を測定しづらいが、ソラテナProを導入すればドローンによる農薬散布時の安全性を向上させることができるだろう。

ドローン業界への導入可能性② 実証実験

 ドローンの運航でソラテナProを役立てられる業務は、農薬散布だけではない。現在、ドローン物流を想定した、レベル3・4飛行に該当するドローン実証実験が行われている。この実証実験では、航空局標準マニュアルではなく独自マニュアルを作成しているケースが多い。しかし、「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインver4.0」では、実証実験のような柔軟に対応する必要がある飛行においても「個別に飛行マニュアルを作成する場合であっても、航空局標準マニュアルを参考にすること」と定めており、より正確な気象観測が必要だ。なお、航空局標準マニュアルでは運航基準の原則として「風速5m/s以上の状態では飛行させないこと」としている。

 また、安全性担保の観点からも降雨、降雪と異なり予測困難かつ変化が生じやすい風速のような環境要因に対して厳しく運航基準を設定し、運航経路や目的地の周辺も安全に飛行可能な気象状況かを厳重に確認しなければならない。

 ただし、ドローンの実証実験は短時間で移動を繰り返すことが多く、広域で観測する必要がある。風速等を観測すべき地点が短時間で切り替わる場合、移動するたびに気象センサーを設置しなくてはならない。飛行可能な時間だけではなく移動時間、天候の懸念などを考えると設置・撤去・起動に手間がかかる気象センサーを現場に導入するのはナンセンスだが、安全性を担保することがひとつの目的である実証実験においては気象情報を把握することが第一優先だ。

 軽量かつ設置しやすい気象IoTセンサーはまさに現場が求めていたものであり、さらにソラテナProはお天気アプリ「ウェザーニュース」と連携できるため、実証実験時に懸念すべき気象情報の把握・管理も一元化可能だ。

 また、ソラテナProは観測データをクラウドへデータ送信する機能も搭載している。クラウドに送られた観測データは、過去24時間ごとや1カ月ごとなどでパソコンから閲覧可能だ。日付や月を指定してダウンロード、過去データを分析したり観測データをAPIで取得したりすることができるため、実証実験の改善にも寄与するだろう。

ソラテナProの観測データ

 上山氏はドローン実証実験への導入に関して「実証実験を行う場所は毎回同じという訳にはいかず、不規則に異なる場所で実施する事になりますが、その上でも現地での風速等を計測したいというニーズがありました。連日異なる場所で実証実験を行う場合、どうしても観測機を現地に設置するための準備・設置にさまざまなコストがかかるのが懸念事項でしたが、現在ではソラテナProがそれらの課題を解決し、小型で現場間で持ち運びしやすい観測機として利用されています」とコメントした。