「シビアなリスク管理や運航判断によって、今まで以上に安全な運航を」

 日本初のレベル4による飛行となった、今回の日本郵便によるドローン配送試行。飛行計画を作成したり、航空局への許可・承認申請や飛行計画の通報を行ったりするなど、日本郵便がプロジェクト全体を統括し、ACSLが機体の型式・機体認証を取得するとともに整備担当者の認定を行い、ACSLが指定した一等無人航空機操縦士4人がドローンの操縦と整備を担当している。

 配送のための飛行ではGCSを介してドローンを主体的に操縦する「操縦者」と、整備点検を行う「作業者」の一等無人航空機操縦士2名が従事しており、作業者はメーカーのACSLに「整備担当者」として認定されている。この日ドローンの操縦を担当した出口弘汰氏は、レベル4の飛行について「これまでのレベル3と違い、さまざまな手順書を熟知し、型式・機体認証を受けた機体に定められている規定を確実に守る運航をしなければならない」と説明。それだけに「第三者上空を飛行させるにあたって、さらに大きな責任を感じている。今後もリスク管理や運航判断をシビアに行い、今まで以上に安全に配慮した運航を行っていきたい」(出口氏)としている。

この日の運航責任者であり操縦を担当した出口弘汰氏。2月14日に日本初となる一等無人航空機操縦士技能証明の交付を受けて本プロジェクトに臨んでいる。

 この日のレベル4の飛行を安全、確実に実施するために、日本郵便の運航チームは長期間にわたって飛行テストとシミュレーションを繰り返し行っている。特に本番と同じルートの検証飛行では、レベル2(無人地帯での補助者あり目視外自動飛行)であったため、奥多摩町市街地を中心に、飛行ルートに沿って多数の補助者を配置して、歩行者や車の往来を操縦者に伝えるなどの安全管理を行った。特に奥多摩郵便局前の国道411号は、休日ともなると奥多摩湖に向かう車やバイク、ハイキングや登山を楽しむ人の往来が激しく、ときには「30分余りにわたってドローンが横断するタイミングが得られないということもあった」(出口氏)という。レベル4飛行では型式・機体認証を受けたハードウェアと、飛行にあたって厳密な管理の下で準備を行い、緊急時に対する対応が細かく定められた運航ルールに基づいて飛行するといった体制と引き換えに、こうした地上の第三者に対する立入管理措置が免除される、と捉えることができる。

 今回の飛行に臨むオペレーターの選任にあたっては、「一見するとレベル4もレベル3も変わらないように見えるが、リスクの考え方や判断基準、機体の性能が最大限発揮されているかなど、全然レベルが違う。それだけに最低限レベル3飛行の知見を持っているオペレーターである必要がある。今回のプロジェクトで操縦を担当した4人のオペレーターは、日本中で群を抜いてレベル3による飛行を経験しており、我々も安心して任せられる」(伊藤康浩 日本郵便オペレーション改革部 係長)と説明している。

PF2-CAT3の操縦は原則としてPCのGCSによる自動航行だが、非常時の手動操縦用にPCに接続されたプロポ型のコントローラーを構えている。

「運航コストは一飛行あたりではなく、視野を広げて見ていきたい」

「日本郵便は将来を見据えて先端技術であるドローンや配送ロボットの実用化を進めてオペレーションの改革に努めている。特に奥多摩町では2019年から4年にわたって、毎年役場や住民の方々の理解を得ながら、安全を第一にドローンに関する取り組みを行ってきた」という小池信也 日本郵便常務執行役員。特に「新しい技術として見たこともないものが空を飛んでいるという不信感や驚きを持たれる住民の方もいらっしゃる中で、丁寧な説明を行い、理解をしていただいた上で取り組ませていただいている」(小池氏)と、これまでの取り組みの積み重ねの中で地元との関係性を築いてきたことを説明。

 今回の試行では、機体を第一種機体認証に適合させる必要があり、新たなリスクアセスメントへの適合をはじめ、行政の対応、規制への対応、各種調整、運航計画の策定など、日本郵便が主体となって取り組んできた。空の産業革命に向けたロードマップの中で、“2022年度内のレベル4実現”という目標が掲げられたことに対して、日本郵便は2021年6月にACSLと資本業務提携を結び、一体となって取り組みを進めたことにより、間に合わせることができたとしている。

 日本郵便では2022年12月に、ACSLとともに新しい物流専用ドローンを発表している。「今回、レベル4という次のステップに道が開かれた。今後いかにこのドローンによる配送を社会実装するかという中で、個宅への配送だけでなく、5kgというペイロードを生かして郵便局間の運航といったことも検討している」(小池氏)という。

 ドローンによる物流ビジネスは日本郵便に限らず、現時点において市場が未だ確立していないといえる。利用者側から見た配送料といった形の費用負担と、運航にかかるコストといった点で大きなかい離があるというのが多くの見方である。ただし、日本郵便では必ずしもこうした見方をしていない。「単にドローンの1飛行あたりのコストではなく、地域全体といったように、もう少し広く視野を広げて見ることで収支が違ってくる。確かに単体で見ると費用がかかって赤字だと言われるが、我々日本郵便は日本全国同じサービスを提供しないといけないユニバーサルサービスが求められている。そのためにコストをどう見るかを考えていく必要がある」(小池氏)という。現在ACSLと共同で開発中の物流専用機であれば、5kgのペイロードや最大40kmという飛行距離といったスペックを生かして、用途の幅が広がることに期待しているといい、2023年度中のレベル4による運航を始めていきたいとしている。

「ドローンのオペレーションも、早い時期に内製化していきたい」と話す小池信也日本郵便常務執行役員。