ドローンを活用した農業、点検、災害対応など幅広い事業を手掛けるNTT e-Drone Technology(以下、NTTイードローン)は、今年1月からフランスのドローンメーカーであるParrot社が開発した「ANAFI Ai」と「ANAFI USA」の取り扱いを開始したことを発表した。これによって、NTTイードローンが取り扱う機種は、日本製の農薬散布機「AC101」とアメリカ製の「Skydio」、そして今回のANAFIの3種類となった。今回はNTTイードローンの山﨑 顕代表に話を伺い、改めてANAFIシリーズについても紹介したい。

NTTイードローンが取り扱いを開始したParrot製「ANAFI Ai」。(提供:NTT e-Drone Technology)

 NTTイードローンでは、ANAFI Aiの試験運用を1年間行い、1月にANAFI Aiの販売を開始した。山﨑代表は、ANAFI Aiの想定する活用シーンについて、災害対応で真価を発揮できるという。

 その有用性について、「東日本大震災の経験をふまえ、NTT東日本グループは2012年からドローンを活用してきた。災害時には、インフラ復旧のため、送電線や鉄塔など現場の状況把握をドローンで行った。そのほか、土砂崩れや河川の氾濫などで途絶した通信インフラを早期復旧させるためにも利用されている。例えば、モバイル通信の途絶えたエリアで中継局の機能を搭載したドローンを飛行させ、臨時に通信エリアを確保することも始まっており、ドローンを用いてモバイル通信を繋ぎ続けるという経験により、1年で実証から実装ベースでの運用に移行してきた」と話す。災害時派遣のほか、自治体等と連携した災害訓練も実施しているという。

(出典:NTT e-Drone Technology)

 さらに、ANAFI Aiを災害現場で活用するメリットとして山﨑氏は「橋梁等の設備点検においてはSkydioも取り扱っているが、今後の技術進歩や環境整備によって一部の点検業務や災害現場では、複数機同時飛行の活用が増えてくると思われる。その場合、長距離飛行に対応したLTE通信のような安定した通信が必要になり、LTE通信の搭載はANAFI Aiの大きな強みとなる。また、通信のほかに悪天候でも飛行が可能なIP53規格の防水防塵性能や、4,600万画素6倍ズームの高画質カメラは災害現場で役立てられることが立証できている」と話す。

 ANAFI Aiの対象ユーザーは、主に自治体や消防関係者による災害対応活動を想定しており、試験導入を行った消防関係者からは高い評価も得たという。

 一方で、ANAFI AiとともにNTTイードローンが取り扱いを開始したANAFI USAは、米国が中国製品の排除を強化した際に、政府の仕様要望に沿って開発された米国政府機関向けのドローンとなる。

赤外線カメラを搭載したParrot製「ANAFI USA」の取り扱いも開始した。(提供:NTT e-Drone Technology)

 セキュリティ対策を講じたANAFI USAは、ANAFI Aiと構成部品や形状が異なり、赤外線カメラを備えている。赤外線カメラは、火災時の熱源の確認や水難事故発生時における事故現場の特定など、災害現場からのニーズが高い。

 ANAFI USAの活用について山﨑氏は、「災害時における自治体のドローン運用は、ドローンを飛行させて情報を収集するだけでなく、その情報を本部や複数拠点にどのように届けるかといった課題がある。そのためには、通信の確保やそのほかのIT機器の活用など、ドローンだけでなく統合的に環境を整備する必要がある。災害時に迅速かつ安全に活動できるようにサポートしていきたい」と話した。

購入後の早期運用をサポートする「ANAFI Aiマスター講習」

 NTTイードローンはドローンスクールを展開し、人材育成にも力を入れている。山﨑氏は「弊社の災害対策時の運用実績を支えているのは、ドローンスクールで実践的な訓練教育を展開している点が大きく貢献している。最先端の技術をどのように社会実装するのかは、現場で実際に運用できる状態にならないと広がっていかない」という。

 NTTイードローンでは、ANAFI Aiの購入者向けにオプションサービスとして「ANAFI Aiマスター講習」の提供を行っている。これは、ANFI Aiを取り扱うための基礎知識や操作方法、飛行経路の生成やPix4Dによる3Dモデル生成機能を含む「Parrot Free Flight7アプリ」を用いたLTE通信の利用方法などが学べる講習となっている。

災害対応や点検業務に適したコンパクトなLTE搭載ドローン

 2022年6月に登場したParrot社のANAFI Aiについて改めて機体の特徴を紹介しよう。

 ANAFI Aiは、LTE通信に対応したことで長距離飛行を可能にしたことが大きな特徴だ。なお、飛行時間は約32分となっている。現在、日本で多く利用されている2.4GHz帯の通信は、Wi-Fiを始めとするさまざまな通信機器で用いられており、電波干渉などの影響を受けやすく、ドローンにおいては混線などのリスクが伴う。ANAFI Aiは、従来のWi-Fi方式の接続に加え、5MHz、10MHz、15MHzなどの周波数帯を利用するLTEモジュールを搭載しており、NTTドコモが提供する「LTE上空利用プラン」などを利用することで、ドローンをLTE回線で制御することが可能だ。これによって、障害物や建物が多い地域や電波干渉が発生しやすい場所など、今までドローンの運用に危険が伴っていたエリアで安定した飛行を実現し、遅延等を最小限に抑えたクリアな映像を伝送することができる。

機体の4Gと書かれた箇所にSIMを挿入可能。(提供:NTT e-Drone Technology)

 LTE通信対応というと産業用ドローンというイメージが強いが、LTE上空利用プランは最寄りのドコモショップなどで契約することができる。機体のセットアップもSIMカードを挿すだけで簡単に利用が可能。通信状況に合わせてWi-FiとLTEが自動的に選択される。ただし、ANAFI Aiは機体・型式認証の観点からレベル4飛行には対応していないため、基本的には第三者上空以外での目視外飛行や目視内飛行による運用となる。

IP53×高画質カメラ×LTEで災害対応に活用!

ANAFI Aiには高精度なカメラが搭載されている。ズーム機能が優秀だと山﨑代表も太鼓判を押す。こちらは75mで撮影。(提供:NTT e-Drone Technology)
上の写真と同じ場所からズーム機能を使い、25mで撮影した。(提供:NTT e-Drone Technology)

 災害対応では、小雨などの軽度な天候不良時にも飛行させたいというシーンが予想される。ANAFI AiはIP53規格を取得しており、降雨時でも飛行することが可能だ。なお、最大耐風性能は14m/sと対応範囲は広い。搭載しているカメラは4800万画素と高精細な撮影が可能で、精密なシャープネスアルゴリズムを組み合わせている。さらには、6倍のデジタルズームを使用することで75m離れた場所から1cmの対象を確認することができ、災害対応のほか点検業務でも活用できそうだ。

 災害対応や点検業務には3Dモデル化が有効だが、ANAFI AiはPix4Dのオンラインプラットフォームを組み合わせていることから、手軽に2D・3Dモデルを生成することができる。

 ANAFi Aiは日本の機体登録制度には対応していないため、NTTイードローンはANAFI Aiの提供時にTEAD製のリモートID(外付け型発信機)をセット販売している。なお、機体のレンタルにも対応しているという。

 近年頻発する大規模水害や土石災害など、災害対応におけるドローンの活用について、その有効性が確認され、消防防災分野でも導入が進んでいる。ANAFI Aiは、自治体や公共事業に関わる法人向けに適しており、特にLTE通信に対応した小型の量産機は珍しく、ANAFI Aiの取り扱い開始はユーザーの選択肢拡大につながることから、さらなるドローンの普及が期待される。