ドローンの活用は、高所や山中といった難所での設備点検や広範囲の測量で進んでいる。株式会社コアは、準天頂衛星みちびきのセンチメートル級測位補強サービス「CLAS(シーラス/Centimeter Level Augmentation Service)」に対応したドローンを発表。CLASが誇るセンチメートル単位の位置精度やみちびきの利用範囲を活かして、モバイル回線が届かないところでも正確な位置情報を取得するなど、ドローンの活用範囲を大きく広げた。同社のドローン関連サービスについて担当者に詳しく聞いた。

技術革新でみちびき受信機の小型化に成功!ドローンへの搭載が可能に

 従来のRTK(Real Time Kinematic)測位は携帯電話圏外では補強情報を取得できないために数メートルの測位誤差が生じてしまうが、みちびきのCLASを搭載することで携帯電話圏外でもセンチメートル級の測位精度を維持できるのがコアのドローン「ChronoSky PF2」だ。このドローンはすでに販売が開始され、コアが独自に開発した点検業務用ソフトウェアと共に、砂防ダム等における保安点検の実証実験が始まっている。

 砂防ダムというと、車で行くのも難しい、携帯電話の電波も届かない山中に建設されているものが多い。従来は保安担当者が四駆車などで山坂を走破し、重労働の末、写真を撮って確認するのが一般的だったが、ChronoSky PF2を用いれば、このようなモバイル回線が受信できない場所であっても測位誤差を最小限に抑えながら安全な自動航行で砂防ダムの三次元モデルを生成することが可能になる。

コアのドローン「ChronoSky PF2」を用いて生成した砂防ダムの3Dデータ。(撮影協⼒:国⼟交通省東北地⽅整備局新庄河川事務所・株式会社建設技術研究所)

 ここでChronoSky PF2のポイントになる技術要素を紹介しておこう。

 みちびきは、国産のGNSS(Global Navigation Satellite System)、衛星測位システムだ。4機の測位衛星が日本およびアジアの一部、オーストラリア上空を飛び、現在位置を計測できる電波を送信しており、2024年には7機に増強することが予定されている。GPSは米国が開発した世界を回る測位衛星で、GNSSの1つと言える。

 CLASとは、みちびきが提供するセンチメートル級の測位補強サービス。誤差数センチレベルの正確な位置を求めるための測位補強情報をみちびきから送信する。利用するには新たにL6帯という電波に対応した受信機が必要だ。なお、従来のGPSは誤差数メートルとなっているが、スマートフォン等の地図アプリでは道路データなどで補正しているので、そこまでの誤差が生じているようには見えない。

 そして一番の技術要素は、このCLASを受信する機器「Cohac∞ Ten(コハクインフィニティ・テン)」だ。これはコアが開発したCLAS専用の受信機で、ベルギーの企業であるセプテントリオ(Septentrio)のハードウェアに自社のソフトウェアを組み込み、2022年2月に発売を開始した。非常にコンパクトな作りゆえドローン搭載の負担を大きく削減できた。さらにコアは、国産ドローンメーカーACSLと既存の「PF2」をベースとしたCLAS対応ドローンの共同開発を検討、ACSLと何度も協議を重ね、ドローンに搭載しても問題ない受信機とアンテナを提案することで、ChronoSky PF2の提供が可能となった。

コアのCLAS対応ドローン「ChronoSky PF2」。
ChronoSky PF2に搭載されているCLAS専用受信機「Cohac∞ Ten(コハクインフィニティ・テン)」。

 CLAS対応のドローンは国内にいくつか存在するが、コア GNSSソリューションビジネスセンターのセンター長で工学博士の山本享弘氏は「同じみちびき対応の受信機でもメーカーごとに測位精度が違いますが、Cohac∞ Tenを搭載したChronoSky PF2は精度が優れていると自負しています。また我々の製品はスマートフォンで詳細な設定ができるなど使い勝手にも配慮しています」と同社受信機の優位性を説明した。

 同社 GNSSソリューションビジネスセンター GNSSソリューション部 主席技師 最上谷真仁氏は「ChronoSky PF2は、ドローン利用のための受信機については当社が最適な設定を行って出荷しますので、特にお客様が細かな設定をしなくてもご利用いただけます」と簡単に始められる利点を述べた。

株式会社コア GNSSソリューションビジネスセンターセンター長 工学博士 山本享弘氏
株式会社コア GNSSソリューションビジネスセンター GNSSソリューション部 主席技師 最上谷真仁氏

 Cohac∞ Tenの精度の優位性については、一般財団法人 先端ロボティクス財団の野波理事長がカイトプレーン(西洋タコにドローンのようなプロペラをつけた飛行機)にCohac∞ Tenを採用しており、結果も好評だったという。山本氏は「いろいろ受信機があるなかで精度が高いと評価をいただいた」と付け加えた。

▼参照:先端ロボティクス財団によるCohac∞Tenの評価
https://qzss.go.jp/info/archive/core_230110.html

CLASの正確な飛行と高精度なデータを連携させた「目視外点検見える化ソリューション」

(撮影協⼒:国⼟交通省東北地⽅整備局新庄河川事務所・株式会社建設技術研究所)

 ChronoSky PF2はCLASの活用で、決められた飛行ルートを高精度で飛ぶことができる。さらには、データの撮影位置の誤差も低減することができ、撮影データに紐付けられる位置情報はより正確なものとなる。そうした正確な位置情報から高精細な三次元モデルを生成できるのが、コアの「目視外点検見える化ソリューション」(別途販売中)だ。本ソリューションのフォトグラメトリー機能を使うと、三次元モデルが生成され、現地の情報を遠方のオフィスへ共有したり、定期的にデータを取得して過去のデータと比較することで経年変化を確認したりするといったことが可能になる。

 使い方も簡単で、最初予備飛行として現地の上空を十分安全な高高度で自動飛行させ、そこで必要分の地上画像を撮影する。撮影した画像から今の植生状況や、目視で確認しづらい対象物の裏側などを含む現況の三次元モデルが現地で生成され、この三次元モデル上で対象物との距離・接触確認や撮影画角を視覚的に調整しながら撮影点を設定することで、高精度な飛行計画の作成を実現する。一度飛行ルートを設定してしまえば、前回と同様のルートで忠実に飛行できるため、保安や管理すべき箇所を定期的に撮影しておけば、破損や劣化が生じても画像の差異として容易に見つけられる。コアではこの保安手法を、3Dに時間を加えた「四次元点検」と呼称している。

 現在は高精度な飛行を必要とする点検業務や測量作業は、ネットワークRTKを利用することが一般的だが、この技法はGPSに加え携帯電話信号を必要とするので、山中のように携帯がつながらない場所では使えない。そこでCLAS受信機を活用すれば、モバイル回線を必要とせずにGPSと同じ感覚で高精度な飛行が実現できてしまう。国内ならほぼどこでも測量できる点は、大きなメリットと言える。また、みちびきはMADOCAと呼ばれるアジアの一部、オーストラリアでも利用できる高精度測位補強サービスも配信しており、コアではこれに対応した受信機Cohac∞ Ten+も開発、販売している。東南アジアやオーストラリアではモバイル回線が提供されていないエリアも多く、みちびきのCLASおよびMADOCAが点検・測量業務に与えるメリットは大きいと想像される。

なかなか行きにくい山中でも、ドローンを使えば容易に保安業務を行える。(撮影協⼒:国⼟交通省東北地⽅整備局新庄河川事務所・株式会社建設技術研究所)

 災害時には市街地でも混雑や設備の倒壊によって携帯電話網が途絶えてしまうケースがある。人の移動が困難な災害時にこそドローンで状況を確認したいところだ。最上谷氏も「災害時、何かあった時でも、同じ精度を提供できる冗長性を維持できる仕組みとしてCLASの活躍を期待しています」という。なおRTKに用いられる携帯電話網の利用にはランニングコスト(通信費)が必要な点は留意したい。CLASなら、このコストは不要だ。

 測量という市場でもCLASの活躍幅は大きい。しかしながら、今のところ公共の測量業務ではCLASによる測量は認められていない。現在は地上に標定点というマーカーを置いて撮影し、そのマーカーで位置補正を行って三次元化する方法(標定点測量)が主流だ。この方法で、例えば1km×1kmほどの起伏がある鉱山を測量するときは、多数のマーカーを置いて計測して、計測が終わったらマーカーを回収しなければならない。ドローンを飛ばす時間はわずかであっても、これでは時間と労力がかかってしまう。

 最上谷氏は「現場の話を聞くと、公共向けの測量でなくても測量結果を利用したい作業は多いため、CLASでの測量が有効な現場は数多くあります。最終的には測量業務もマーカーを使う標定点測量からシフトしていかないと効率化できないでしょう」と述べた。

ドローン以外にも多様な可能性があるCLAS。各種ソリューション化を目指す

 コアでは、CLAS受信機を利用したソリューションとして、ChronoSky PF2を販売しているが、RTKに対応したドローンにおいても携帯圏外エリアでCLASの絶対精度を活かせる「CLAS基準局」というハードウェアも提供している。この基準局を使えば、DJIのRTK対応ドローンでも精度良く飛行させることができる。またCLAS受信機についてはCohac∞ Tenを含め複数種の用意があり、それぞれ単体販売も行っている。こうしたハードで得たデータから精度の高い三次元モデルを活用できる「見える化ソフトウェア」も自社開発のものだ。

CLAS対応ドローンのシステム構成、従来のドローンをCLAS基準局とともに利用することも可能。(撮影協⼒:国⼟交通省東北地⽅整備局新庄河川事務所・株式会社建設技術研究所)

 コアはソフトウェア企業であり、さまざまな機器と連携するソフトウェアを開発している。最上谷氏も「ドローンや受信機は1つのセンサーデバイスとして位置付けて、その上で動く見える化ソフトのようなアプリケーションをセットにして提供していきたい。そこがビジネスの主軸です」と述べた。

 2020年9月~2021年4月には、山口県秋吉台、石灰石採掘現場で、コアのCLAS受信機を使った実証実験も行われた。石灰は場所によってその質が異なるため、採掘した場所の管理が重要になる。従来はRTKで位置を測定していたが、より高精度を求めCLAS受信機を導入。採掘用のトラクターに設置し、望む位置をほぼ100%の確立で推定できるようになった。

 採掘といえば山を削る「量」の測定でもCLASを活用したドローン測量を導入している。現在、削る量の測定には一点ずつ測量を行って推定しているところを、三次元モデルを使って効率的に差分を推定する作業の検証を行っており、省人化、コストダウンに役立てたいとしている。

 CLAS受信機に対応するドローンの用途は次のようなものが挙げられる。

過疎地の砂防ダムの点検
過疎地に建てられた鉄塔の点検
過疎地、洋上に建てられた風力発電の点検
建物の外壁点検
工事施工現場の定期的な進捗管理(差分検知を利用)
複雑なプラント工場の点検(建物や配管、煙突、貯蔵タンク等)
物流のピンポイントでの着陸
災害時など、携帯電話通信網が利用できない場所の確認

 点検業務担当者からは、調査対象にドローンをできる限り接近させて1mm、2mmのクラック(ひび)を点検したいという声があり、センチメートル精度を可能にするCLASへの期待は高い。ドローンがピタリと指定位置でホバリングできるかはドローンの性能にもよるが、最上谷氏は「受信機がドローンへ提供する位置は、センチメートル級です」と測位精度の高さを強調した。

 山本氏が率いるコア GNSSソリューションビジネスセンターでは、ユーザー向けのソリューション開発だけでなく、みちびきの各種機能に関するプロジェクトに関わり、研究をしている。今後みちびきは、現在の4機の衛星体制から7機に増強されるだけではなく、2024年には信号認証機能も加わる。この認証機能についてもすでに研究を始めている。

 山本氏は、GPSに関する海外ニュースでは、ペルシャ湾で潜水艦が拿捕されたとか、自動運転車を狙った攻撃など、位置情報を狂わせる事件の報道も見られるとし、「GPSに似たような信号を出すと、位置を狂わせることができます。犯罪に使われる可能性があるので、認証機能があれば安全性を高めることができます」と、信号認証機能の有用性について説明した。

 さらなる展開が期待されるみちびき、コアでは新機能の先行研究や実証から今後もさまざまなソリューションを提供していく予定だ。点検業務などでドローンの利活用を検討しており、センチメートル精度の資材管理・安全管理や携帯電話通信網の圏外での利用を想定しているなら、同社に相談することをおすすめする。

株式会社コアの開発チーム。

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