日本ではドローンのレベル4飛行がいよいよ解禁となりました。ドローンの利用促進は日本だけでなく、海外においても機体開発、環境整備、社会実装などが進んでいます。本稿前編では、レベル4飛行によって変貌を遂げるドローン業界について、海外のユースケースと比較しながら解説してきました。後編では前編で挙げた以下のうち、③~⑤について解説します。

① 新しいドローン利用分野の拡大(物流)
② 国家資格としての地位確立
③ 新たな専門職の拡大とその専門性の高い養成機関
④ 日本と海外で進められるDaaS(Drone As A Service)事業の拡大
⑤ プロフェッショナル用の高性能機体やシステム開発の加速

新たな専門職の拡大と専門性の高い養成機関

 空撮や観測、点検、農薬散布などの分野でドローンを使って仕事をする専門職がすでに多く活躍しています。ドローンの知識、技能だけではなく、それぞれの分野の専門知識と経験を積んだ人が求められるようになり、最近は日本に限らず世界的にも人員不足が顕著となっています。

 大手求人サイトなどでは常に数百人から千人以上の求人募集を行っています。例えば米国企業のIndeedでは、昨年6月に「2020年から求人が急激に増加をはじめ、3年間で検索数が1.9倍に増加し、さらに今後も増える見込みだ」との予測を発表しました。

 日本のドローンスクール数は1000件を超えています。欧州で最も多いとされるイギリスでも50件に満たないと言われており、全米および全欧州と比較しても日本のスクール件数は圧倒的に多いとされます。しかし、それでも不足しているのが現状です。

 近年はプラント点検、ビル外壁点検といった高度な技能の訓練を行う「専門職養成コース」も日本UAS産業振興協議会(JUIDA)の傘下であるスクールを中心に開始しており、今後もさらに新しい分野への展開が始まるでしょう。

 目視外飛行が本格化すれば作業能率の飛躍的向上が期待でき、専門職の需要はさらに大きくなると思われます。そして、DaaS事業の本格的な進展を支えることになります。

日本と海外で進められるDaaS(Drone As A Service)事業の拡大

 ドローンを使って仕事を一括受注するビジネスモデルは、これまで「システムインテグレータ」や「ソリューションプロバイダー」「サービスプロバイダ―」などと呼ばれていました。

出典:Drone Industry Insights「Drone Service Providers Ranking 2022」

 欧州のドローン専門調査機関であるDrone Industry Insights (DII) が2022年に調査した「Drone Service Providers Ranking 2022」によれば、この事業分野では組織の規模、成長率、世間の注目度において、マレーシアのエアロダイングループが1位、日本のテラドローンが2位を獲得しています。

 システムインテグレータやソリューションプロバイダーといった用語は、IT業界の用語を借用したものです。また、自動車業界ではビジネスモデルMaaS (Mobility As A Service) という用語が世界的に使われ始めています。これにならって本稿では、ドローン業界のビジネスモデルとしてDaaSと呼ぶことにします。

 DaaSという言葉は米国でも使われ始めており、ドローンを活用した幅広いサービスを手掛けるZenaDrone(https://www.zenadrone.com/drone-as-a-service-daas/)は、DaaSの事業モデルを前面に掲げて世界進出を果たしました。

 多数のメーカーのドローンを用途に応じて使いこなす米国のDroneHive(https://dronehiveinc.com/)や、本稿の前編で紹介した米国ウォルマートから大規模ドローン物流を請け負うDroneUpなどもDaaS事業の先行事例です。また、日本でも空撮分野等ですでにDaaS事業が始まっており、最近は大手企業などでも参入する動きが始まっています。DaaS事業の拡大はドローンの高度利用及び高度なドローンの技術開発、ソフトウエア等の技術の高度化を後押しすることに繋がります。ドローン製造業者としても、より付加価値の高いDaaS事業は魅力的であり参入する事業者が増える傾向にあります。なお、MaaSで「空飛ぶクルマ」製造業に参入したJoby Aviationもこの事業モデルを採用しているのです。

プロフェッショナル用の高性能機体やシステム開発の加速

 リチウムイオン電池は小型で大電力が得られ、瞬間的に大きな出力を発する特性に優れています。これは、姿勢制御時に瞬間的なプロペラ回転数の制御が必須となるマルチコプター型ドローンには理想的な電源とまで言われ、ほとんどの小型ドローンで採用されています。しかし、大きなペイロードの確保や長時間飛行には限界があり、欧米の辛口評論では「ドローンの最大の欠陥」などと誇張されることがありました。これを解消する新技術の必要性は早くからアメリカ航空宇宙局(NASA)などで指摘されていました。その解決策として近年ハイブリッドエンジンの開発が進んでいます。なお、燃料電池は重量・体積の大きさと高圧水素ガスのボンベ容量の制限があるため長時間飛行には限界があるとされています。

 電力源を評価するには単位重量当たりの電気出力を表すエネルギー密度(kW/kg)が使われます。下表は代表的なドローン用動力の現状をまとめたものです。空飛ぶクルマには、おおよそ密度0.3~0.4kW/kgの電池が必要とされ、各メーカーは開発に大きな努力を払っています。

 2024~25年には、タクシーの代替えとして5人乗りの空飛ぶクルマが全世界に出荷される予定ですが、米国の研究ではこの程度が当面の電池式動力の限界であろうと指摘されています。

▼PNAS-The promise of energy-efficient battery-Powered urban aircraft
https://www.pnas.org/doi/epdf/10.1073/pnas.2111164118

・ドローンの動力の種類とエネルギー密度の関係

動力の種類エネルギー密度
(kW/kg)
燃料など
リチウムイオン電池0.2-0.3無し
燃料電池0.6水素ガス。ボンベ容量の限界
低速ハイブリッドエンジン0.6ピストンエンジン(ガソリン)
ロータリーエンジン(ガソリン、灯油)
高速ハイブリッドエンジン1.0タービンエンジン(灯油、バイオ燃料、液体水素)

※資料をもとに筆者が作成

 ハイブリッドエンジンは、1000回転を限界とする低速エンジンと約10万回転を可能とする高速エンジンに大別できます。回転数が高いものほど発電機は小型軽量化できます。タービンエンジンはバイオ燃料や液体水素が使える環境対応特性が優れているため、大型ドローンや空飛ぶクルマなどでは期待が大きく、この分野の開発が内外で活発になりました。

 昨年発表されたAero Development Japan (ADJ) の技術は、旅客機に使われるジェットエンジンの回転数を大きく超える9万回転、出力30kW、エネルギー密度1.0kW/kgを実現し、タービンエンジンと発電機を一体の構造とすることで、究極の小型化と500kWまでのスケーラビリティーを実現させた世界に類のない高速ハイブリッドエンジンとなりました。

▼日本UAS産業振興協議会-Technical Journal of Advanced Mobility(108頁参照)
https://uas-japan.org/cms/wp-content/uploads/2022/10/Technical-Journal-of-Advanced-Mobility_Vol_3_007.pdf

 飛行時間を延ばすには動力だけではなくエネルギー消費の少ない機体が必要です。このためには水平飛行時に揚力を自ら発生する固定翼の活用が必須であり、VTOL機が本命とされ開発が進んでいます。

 下表はドイツのPorsche Consultingが発表した報告書を簡略にまとめたものですが、固定翼を持つVTOL機の優位性が明確に示されており、海外物流大手のウォルマートやDHL、UPSなどはこの型の機体を採用して事業を大規模に展開しようとしています。日本でもこの型の機体開発はすでに始まっています。なお、エアタクシーの機体はほぼすべてがVTOL機です。

・機体の種類別性能評価

評価基準ヘリコプター型マルチコプター型VTOL型
飛行距離115
飛行速度112
騒音411
信頼性11515
安全性122
価格1011

※Porsche Consultingの資料をもとに筆者が作成

▼Porsche Consulting-The Future of Vertical Mobility
https://www.porsche-consulting.com/en/media/insights/detail/study-the-future-of-vertical-mobility/

 レベル4飛行の社会実装は技術開発を促進させ、ドローン産業の世界を大きく変えようとしています。これは人や物の移動を地上から空に移し、新しい移動の世界を開くAAM(Advanced Air Mobility)の実現に繋がり、文字通り「空の産業革命」を完成させることになるでしょう。


千田 泰弘

一般社団法人 日本UAS産業振興協議会(JUIDA)副理事長
一般社団法人 JAC新鋭の匠 理事

1964年東京大学工学部電気工学科を卒業、同年国際電信電話株式会社(KDD)に入社。国際電話交換システム、データ交換システム等の研究開発に携わった後、ロンドン事務所長、テレハウスヨーロッパ社長、取締役を歴任、1996年株式会社オーネット代表取締役に就任。その後、2000年にNASDA(現JAXA)宇宙用部品技術委員会委員、2012年一般社団法人国家ビジョン研究会理事、2013年一般社団法人JAC新鋭の匠理事、2014年一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)副理事長に就任、現在に至る。