DJI JAPANは、11月24日「2022年度最新産業ドローン事例発表会」を品川シーズンテラスにて開催した。第1部は最新の小型産業用ドローンMavic 3 Enterpriseシリーズのほか、Matrice 300 RTK、対応カメラモジュールZenmuse P1(P1)、Zenmuse L1(L1)などの製品紹介に加え、ゲストスピーカーによる災害や測量現場におけるドローン活用事例を紹介した。第2部では、最新機種のデモンストレーションが行われた。

会場に展示された最新の小型産業用ドローンDJI Mavic 3 Enterpriseシリーズ。左がDJI Mavic 3T(Thermal)、右奥がDJI Mavic 3E(Enterprise)。

日本国内の制度変更に合わせたDJIの取り組み

 今回の発表は、DJI JAPAN 代表取締役 呉韜氏の挨拶から始まり、日本国内の制度変更に合わせたDJIの取り組みについて解説した。呉氏は、「ドローンは、制度の変更に影響されやすい。6月にスタートした無人航空機登録制度では、すでに10種類以上の機体がリモートIDに対応し、今後日本で発売する機体もすべて対応していく予定だ」という。

 また、12月5日から開始した機体認証制度、無人航空機操縦者技能証明への対応については、飛行リスクの程度に応じて区分される3つのカテゴリーのうち「DJIのドローンは基本的にカテゴリーⅠ(特定飛行に該当しない飛行)とⅡ(特定飛行で立入管理措置を講じた飛行)で運用されるが、カテゴリーⅠは飛行ごとの許可承認が不要なため、DJIユーザーに影響するのはカテゴリーⅡの制度変更。現行制度と併用されるため、飛行ごとの許可承認を受ければ飛行することは可能だが、新制度では、機体認証(第二種)、操縦者ライセンス(二等無人航空機操縦士)以上のものを取得すれば一部の許可承認が不要になる。今後、DJIユーザーのユーザビリティの向上につながるため、型式認証について取り組んでいく予定」だと語った。

※特定飛行:高度150m以上、空港周辺、人口集中地区、緊急用務空域、夜間、目視外、人または物件と距離を確保できない飛行、催し物上空、危険物輸送、物件投下が該当。

DJI JAPAN 代表取締役 呉韜 氏

大型から小型機まで目的に応じて活用できるDJI産業用ドローンのラインナップを紹介

 DJI JAPANの木田氏は、事例を紹介したゲストが実際に使用している製品のラインナップを紹介した。大型のMatrice 300 RTKは、最大飛行時間55分、各種センサーを2個以上搭載するなど冗長システムでより安全な飛行ができる。大型機であるが、折りたたみが可能で運搬時にはスーツケースサイズに収まるという。ペイロードを交換できるため、救助や点検、測量などさまざまな用途で利用が可能。木田氏は、対応ペイロードであるZenmuse P1とZenmuse L1を例に挙げ、「航空写真測量に適しているP1は、公共測量基準で求められる誤差精度cmレベルのデータを取得でき、一枚一枚が写真として残るため細かい点検ができる。レーザー測量機器のL1は、照射したレーザーが木などの間を抜けるため、木々によって写真測量では撮影できない地表データも取得可能。このように、搭載機器を交換することで現場や用途に応じて複数の業務で活用できる」と話した。

会場に展示されていたMatrice 300 RTK+Zenmuse H20N。防塵・防水性能を備え、ペイロードを取り替えることができるため高い汎用性を持つハイエンド機。

 また、DJIでは撮影した写真やデータをもとに3Dモデルを再構成するPCアプリケーションソフトウェア(SfMソフト)「DJI Terra」の提供も行っている。木田氏は「今までデータ化できなかったお城のような国の資産をモデル化することにより、後世につながるデータを作成することができる。石垣の改修などの活用が考えられる」と空撮データの活用について語った。

DJI Terraで写真から3Dモデルを作成することができる。Mavic 3 Enterpriseシリーズを購入するとDJI Terraも無料で使用可能だ。

 Matrice 30シリーズと最新の業務用小型ドローンMavic 3 Enterpriseシリーズ(Mavic 3E・Mavic 3T)は、Matrice 300 RTKのようにペイロードの交換はできないが、点検や測量に用途を絞ることで、携帯性の高いコンパクトな設計を実現した製品になっている。

 Mavic 3 Enterpriseシリーズとコンシューマー用 Mavic 3シリーズの違いは「搭載しているカメラが異なり、Enterpriseシリーズは業務向けのカメラを搭載した機体となっている。細部では充電速度を向上し、機体の上部には視認性の高いビーコンを搭載。測量用にオプションでRTKモジュールを用意している」という。

 木田氏は、業務活用するうえで、機体や取得データのセキュリティ面を気にする声が多く寄せられると話し、これに対し「インターネットに未接続でも利用可能なローカルデータモードを採用し、ログ消去機能やAES-256に準拠した画像転送暗号化を採用している。障害物センサーによる衝突防止機能のほか、緊急時対応機能である自動帰還(Return to Home)では指定場所への帰還ではなく、手元の送信機の場所に戻ってくる機能が搭載される」など、安全向上の取り組みも行っている。

 購入後は、教育機関として展開している「DJI CAMP」において、産業用「DJI CAMP ENTERPRISE」の各種講習や「DJI CARE」による保障プランを用意するなど、初めて使う場合でも安心して使えるような製品づくりと教育やアフターサービスプログラムを用意している」と話した。

災害現場で3次元データを活用する豊橋市ドローン飛行隊「RED GOBLINS」

豊橋市 防災危機管理課 主任主事 髙橋拓也氏

 官公庁で行っているドローン活用事例について豊橋市防災危機管理課の髙橋氏が登壇し、豊橋市の災害・防災分野における取り組みを紹介した。

 災害発生時に市内の被害状況を迅速に把握することを目的とし、2017年に豊橋市ドローン飛行隊「RED GOBLINS」を発足した。そのきっかけは、2015年、鬼怒川の堤防決壊時に、防災危機管理課の職員がボランティア活動で被災状況を目の当たりにしたことだという。職員が地上で見た被災状況と後から上空映像で得られた認識に大きな差があり、広域の被害状況を把握するには上空からの状況確認が有効だと感じ、ドローンの導入を検討した。

 発足時にPhantom 4 PROを導入。南海トラフ地震を想定し、津波や土砂災害、中心市街地の被害情報を収集するため、当初から3班3機体制を計画した。現在は市役所の複数の部局に所属する31名で活動している。また、Phantom 4 PROに加え、空撮強化用にInspire 2、夜間や雨天での活用に向けてMatrice 210 V2を導入している。2021年に導入したMavic 2 Enterprise Advancedは、夜間でも捜索活動が可能な赤外線カメラと32倍ズーム可視光カメラを搭載し自動航行も可能。コンパクトで機動力を備えた機体がとても役立っているという。

 ドローン飛行隊の活動としては、平常時に隊員の操作訓練を実施するとともに、空撮や調査、消防本部と連携した捜索活動などを行う。災害発生初動期には、ドローン映像を素早く災害対策本部に伝えることを目的とした情報収集活動が重要になる。しかし、2017年発足後すぐに起こった竜巻被害で、協定を締結していた企業とドローン調査を実施した際、被害状況を把握することには成功したが、自分達は非常に無力だと感じたという。迅速な対応を行うために動画をアップロードし、URLで情報共有を行うといった情報伝達手法はすぐ導入できたが、全容を把握するためには課題がある。応急・復旧期の被害拡大防止や被災者支援など、もっと復旧復興支援にドローンを活用できないか。この経験が災害の全体像を瞬時に可視化する2次元のオルソデータ、3次元データ活用の必要性を感じるきっかけとなった。

 豊橋市と協定締結事業者で行うドローンの活用推進のワーキングで測量の技術からヒントを得たが、画像処理を行うには専門的な知識や高額な画像解析ソフトが必要になる。その後フリーソフトなどを活用し、試用のため自分達で「予算がなくてもできる方法」を試行錯誤し実現していった。高精度が求められる現場では専門家へ依頼する必要があるが、簡易的な手法が確立できれば、初動で自分達が迅速に状況を把握でき、調査や業務活用の検討ができる。何より「自分がやってみたかった」と髙橋氏はいう。主体的に取り組む姿勢が成功に結びついたといえるだろう。

 平常業務の中で、成果として現れたのが、2021年に行った公園の松くい虫調査だ。松くい虫の被害調査はこれまで松の木を一本一本調査する必要があった。ドローンで空撮した画像をオルソデータ、3次元データ化し地図データにマッピングし一枚の画像に変換することで、ドローンを使用した松くい虫調査の効率は格段に上がったという。

 災害時に成果として現れたのは、2022年台風15号の影響による海岸の大量の流木等漂着物調査だ。市民からの通報を受け、翌日午後にはドローンを自動航行させ、流木の調査を行った。太平洋沿岸約14km、約1,300枚の画像を空撮し、簡易オルソ画像を作成。地理情報システム(GIS)計測を行い、通報から2日後には市長へ結果を報告した。ドローンの活用により、人が行うよりもはるかに短時間で調査ができ、その後、国、県、市の概算費用算定、撤去方針検討の参考資料となった。

 現在、2次元3次元の画像データを、応急・復旧期の被災者支援として罹災証明発行や道路啓開(大規模災害時に、道路を塞ぐがれきの処理や簡易な段差修繕により救援ルートを確保すること)に活用する共同研究等を行っており、常に「市民の生活を守るための挑戦」に取り組んでいるという。また、災害・平常時の活動でも、さまざまな部局に隊員がいるため、自治体業務全体から課題の収集が可能。迅速にサービス向上を行うために連携する重要性を語った。