ドローン事業を手掛けるKDDI子会社KDDIスマートドローンは2022年12月5日、同日施行の航空法改正で国土交通省が有人地帯での目視外飛行(レベル4)を解禁したことを踏まえ、「より安全な運航体制を整える必要がある(博野雅文・代表取締役社長)」として、専門性の高いドローン活用に関わるスキル習得を目的としたドローンスクール「KDDIスマートドローンアカデミー」を2023年1月から開校すると発表した。将来的には全国展開を見据えており、ドローン活用人材を増やすことでドローンサービスの活用を加速化させる狙いがある。同社はこの日、新たに米国スペースX社の通信衛星を活用することで、従来はモバイル通信の提供が困難だった山間部や離島エリアに対し、順次ドローンサービスの提供を可能にすることも発表した。

スクール開校、国家ライセンスに加え物流などの特別技能コースも開設

 KDDIスマートドローンはこれまでも機体販売の延長で操縦方法の支援をしてきたが、本格的なスクール運営に乗り出すのは初。

 「KDDIスマートドローンアカデミー」の開講コースは、「国家資格取得コース(一等・二等)」と利用シーンに特化した「領域専門コース」の2種類。「領域専門コース」は鉄塔点検、外壁点検、撮影、洗浄、物流、運航管理、教育の7領域をラインナップしており、いずれも同社がこれまでに実施した実証実験や実務経験で得られたノウハウを基にした専門性の高い教育を展開することが特徴。

 注目が高まるドローン配送に必要なスキルを身に付ける「物流コース」では同社の運航管理システムの活用や目視外飛行などを学ぶほか、ユニークな「洗浄コース」では電力事業者や農業関係者らを対象に洗浄液を放出するホースを接続した専用ドローンを使ったビニールハウスや太陽光パネルの洗浄スキルを教える。

 運営方式はKDDIスマートドローンによる直営スクールと同社がカリキュラムを提供するパートナー校の2種類を予定。直営スクールでは「国家資格取得コース」と「領域専門コース」の両コースを開講し、パートナー校では「領域専門コース」のみを提供する。直営スクールは栃木県小山市にある「KDDI小山ネットワークセンター」と千葉県君津市に設置。パートナー校については現在5~10校と協議中で、2023年1月を目途に発表する。

 既に「領域専門コース」の一部コースについては同社ホームページで資料請求を受け付けており、2023年1月から順次開始する。カリキュラムの所要日数はコース内容によって1~5日間程度で、直営スクールの「国家資格取得コース」は登録講習機関としての国土交通省の認可取得を待っての開校となる。

 博野社長は「専用ドローンの習熟を行ってもらうことで実際にお客様から業務を受託できるレベルまでスキルを上げていく」と内容に太鼓判を押している。

スターリンク活用で通信環境の未整備エリアでもサービスを展開可能に

 KDDIスマートドローンは山間部や離島エリアなどの通信強化にも乗り出す。現状、山間部などの集落が点在する地域については、人の住んでいる集落がモバイル通信エリアとなっていても集落と集落の間が通信エリア外となっている場合があり、配送サービスなどを展開する上で一つの障壁となっていた。こうした課題に対し、米国のスペースXが提供する3000超の衛星群「Starlink(スターリンク)」を活用。光回線用のケーブルを引かなくても基地局を設置するだけで通信が可能になるため、これまでに比べて短時間でサービスが提供できるようになるほか、スターリンクは従来の静止軌道衛星より地表からの距離が近く、通信の低遅延化や大容量化も実現できるという。

 活用シーンでは、山間部や離島エリアでのドローン配送のほか、通信環境がない場所での土砂災害対応や緊急物資輸送、建設現場管理などを想定している。既に「スターリンク×スマートドローン」の取り組み第1弾として、大林組と連携。同社が三重県伊賀市で進めている川上ダムの工事現場において、スターリンクを活用することによる通信環境が悪いエリアの課題解消を進めている。同社は2023年1月からこの現場でドローンを活用した工事現場全体の無人監視や測量を進めていきたいとしている。

利活用普及のためのシステム&オペレーションの両輪強化

 スクールの開校とスターリンクの活用という2つの新施策を打ち出した背景について、博野社長は12月5日の説明会で「システムとオペレーションの両輪の強化」と強調した。今後、有人地帯の目視外飛行の普及に向けては社会受容性が大きな課題とされており、安全性や信頼性、利便性のさらなる向上が不可欠と言える。KDDIスマートドローンはこれまでモバイル通信を活用してドローンを遠隔で制御するための運航管理システムの構築に加え、実証面でのオペレーション技術も蓄積してきたが、さらなるサービスの普及に向け、インフラ基盤の整備と人材育成の両輪の強化に一歩踏み込んだ形となる。

ドローンのすそ野が広がる契機となる節目の日/航空法改正を受け

 5日のドローン事業説明会では、有人地帯の目視外飛行を前提とした運航体制構築に向けた取り組みの現状も紹介。日本航空などと連携して奄美群島で行っている実証実験では、1人のドローンオペレーターが複数の機体の運用を担う「1対多運航」に取り組んでおり、同社によると、今年度中に1人のオペレーターが2機以上の機体を管理する実験に着手し、まずは最大5機の管理を目指す。

 ドローン配送を巡っては採算性が課題とされており、「1対多運航」には配送コストの削減に大きな期待がかかっている。博野社長は「正直言うとドローン単体で経済性を合わせるのが現状では難しい」と現段階での認識を示しつつ、陸送とドローン配送を組み合わせた効率的な配送体制の構築や二拠点間配送の省人化を進めることで採算の合うエリアが増えてくると説明した。同日の航空法改正については「市場規模の成長がドローンを活用、普及していくというところの加速化していく契機となるのが本日の航空法改正」とし、「全国各地でドローンが飛び交い、ドローン活用のすそ野が広がる契機となる節目の日と感じている」と期待感を示した。