ブルーイノベーションは2022年11月7日から、送電線ドローン点検ソリューション「BEPライン」の提供を開始した。このソリューションは、これまで難易度が高いとされていた、たわみや揺れのある送電線に沿う形でドローンを自動飛行させることができるというもの。機体に搭載するセンサーと専用の操作・データ管理アプリで構成される。提供開始に先駆けて11月4日には報道関係者向けの見学会が行われ、電力会社の訓練施設内にある高圧送電線を使ってデモンストレーションが行われた。

送電線の自動追従点検ソリューションとしては初めての商品化

 ブルーイノベーションではこれまでにもセンサーモジュールとクラウドを組み合わせたデバイス統合プラットフォームを「BEP(Blue Earth Platform)」と呼び、教育、点検、物流、オフィスという4つの分野に対してソリューションを提供している。今回提供を始めたBEPラインは、文字通りこの中で点検分野にあたる高圧送電線を点検するものだ。

BEPラインについて説明する熊田貴之ブルーイノベーション代表取締役社長。

 日本国内の送電線の総延⻑は約12万kmに上り、そのうち上空に敷設された架空線は約9万kmある。この架空線の点検では鉄塔から送電線に作業者が登って“宙乗り”で点検したり、地上からスコープを使って確認する、ヘリコプターで確認するといった方法が採られている。ただし、地上やヘリコプターからの確認では、撮影精度のばらつきがあるほか、宙乗りは作業者が落下する危険性がある。また、作業者が鉄塔を登り降りする時間がかかるといった作業効率のことや、作業中は送電を止めなければならないといった課題もある。そこで近年、ドローンを使った点検に大きな期待が寄せられている。
 ただ、鉄塔の間に張られた送電線は重力によって垂れ下がっており、さらにその垂れ下がり方は電流によって収縮するほか、風で揺れるなど一定ではない。そのため、このたわんだ送電線に沿ってドローンを飛行させることは難しいとされている。そこで、電力事業者・送電事業者とドローンのソリューションプロバイダが共同で、画像認識をはじめとした技術を使って、ドローンが送電線に沿って自動で飛行するソリューションの開発が行われている。今回リリースされたBEPラインは「サービスといった形で商品化したのは国内では初」(熊田氏)だという。

簡単なパラメーターの設定の後、送電線を自動認識して追従飛行を開始

 この日、デモンストレーションで飛行したドローンはDJI Matrice 300 RTK(M 300 RTK)で、機体上面に独自に開発したセンサーモジュールを搭載。このモジュール内のセンサーが送電線を検知して、ドローンのカメラが常に設定した画角で送電線を捉えながら飛行できるように、機体とカメラジンバルの制御を行う。

DJIのMatrice 300 RTKに搭載されたBEPラインのセンサーモジュール。
この日はMatrice 210 RTKに搭載したものも展示。BEPラインはM300、M200シリーズに対応する。

 16×11×8.3cm、重さ750gのモジュールは、M 300 RTKの胴体部分の4分の1程度のボリュームで、M 300 RTKの前面に沿ったデザインとなっている。送電線を検知するセンサーは、カメラで撮影した映像から画像認識を行ったり、レーダーやLiDAR、ToFセンサーなどを使うといった方法があるが、このモジュールにはカメラやセンサーなどの開口部がない。同社ではセンサーについて「知財の観点から非公開」としており、M 300 RTKの制御についても「社外秘」とするなど、ブラックボックスとなっている。

センサーモジュールはカメラやセンサーのための開口部がまったくないブラックボックス。M 300 RTK機体上面の上部ジンバル用ネジ穴にマウントする。

 アプリはM 300 RTKのコントローラーにインストールされていて、コントローラーのタッチパネルで操作する。オペレーションはとてもシンプルで、ドローンを離陸させてある程度カメラに送電線が見えるように機体を正対させたら、最初に点検対象となる送電線の導体の数を選び、機体と送電線の距離、送電に対する機体の高さ、速度を入力するのみ。

 次に「スキャン」というステップに移ると、ドローンのカメラが自動的に架空送電線を探し、その中から希望の送電線を選択。最後に「追従」を選択すると、ドローンが設定した位置に移動する。そこでカメラのズームと焦点距離を調整して画角を合わせた後、コントローラーのスティックを左右に操作するだけで、希望の方向に移動を開始する。撮影はM 300 RTKの動画・静止画撮影機能を利用する。

アプリの初期設定メニュー。単導体から8導体まで送電線のタイプを選択し、機体と送電線の距離、高さと、移動速度を入力するのみとなっている。
スキャンが始まるとカメラの映像の中から、認識した送電線の束(相)が色分けして示される。左の選択肢の中から撮影したいものを選ぶ。
ズーム倍率と焦点距離を設定して追従を開始する。

2025年には全送電網約12万kmの約25%で利用されることを目標

 ブルーイノベーションでは2017年3月に、送電線ドローン点検ソリューションの開発に着手。当初は送電線の検知が周囲の明るさや、送電線が重なって見えるといった要因で検知できないといったハードルがあったという。約6年の開発期間を経て、逆光をはじめとした光線条件や、雪、夜といった天候や時間の変化、さらには空や山といった送電線の背景の違いがあっても、送電線を誤検知しないノウハウを蓄積。「共同開発者として、そしてユーザーとして東京電力が一緒に開発に参加してくれたのが、実用化に大きく貢献している」(熊田氏)といい、現場で点検に携わる作業者の声も生かされている。その一方で、「従来の人がやる点検を、ドローンでも確実に同じことができないといけない」(熊田氏)というプレッシャーもあったという。

 今回のデモンストレーションではM 300 RTKに搭載した形で披露されたBEPライン。日本政府の調達をはじめ行政機関や重要インフラ事業者の間では、国産ドローンを採用する志向が強まっており、DJI製品以外に国産ドローンへの対応も検討中だとしている。「BEPラインの開発を始めた5~6年前は、ドローンと言えばDJIがスタンダードだったこともあり、DJIの機体をベースに開発を進めてきた。確かに国産ドローンに対するニーズも高いが、電力会社の中でもDJIか国産かという選択ではさまざまな見方、考え方があるようだ。また、グローバルな視点で見た時にはやはりDJIのシェアが大きく、DJI機への対応をまず考えることになる」(熊田氏)という。

 11月7日から提供開始したBEPラインは、センサーモジュールとアプリを月単位で利用できるサブスクリプション形式と、ブルーイノベーションのオペレーターがBEPラインを使って送電線を点検する委託点検の2通りのサービスを提供。東京電力と共同で開発してきたこともあり、2021年5月からは東京電力パワーグリッドが保有する送電線の点検で、14支社に納入され、山間部を中心に導入が進んでいる。ブルーイノベーションではさらに東京電力グループ以外の送電事業者への導入を目指しており、「日本の架空送電線約9万kmのうち約3分の1、全送電網約12万kmの約25%で利用されることが目標」(熊田氏)だとしている。

 さらに、ブルーイノベーションではBEPラインの海外展開も視野に入れており、「すでにアジア、アフリカから問い合わせが来ており、来年度から本格的に海外に展開していきたい」(熊田氏)としている。特にアフリカは日本のような送電網の整備が遅れており、「インフラをこれから導入していく中で、それに合わせてBEPラインのような点検技術を導入してもらうことができる。現地の企業と合弁会社を作って、現地の人材をトレーニングするといった必要がある。ただし、こうした取り組みは国のサポートがないと難しく、官民で進めていきたい」と熊田氏は説明した。

電力会社の訓練施設に設置された8導体の送電線を点検する様子。送電線に沿って機体を移動させるのは、コントローラーのスティックを希望の方向に一度傾けるだけ。一時停止は移動方向と逆に傾ければいい。離着陸は自動でできるが、この日は手動で行っている。