建築分野におけるドローンを活用するための技術の開発と普及、人材支援を行う日本建築ドローン協会は、3月23日に「第9回建築ドローン技術セミナー」を開催した。同セミナーは2017年に同協会が設立して以来、開催しているもので、建築分野におけるドローンの技術や活用の最新動向を解説している。
 今回は国土交通省が進める3D都市モデル整備・活用・オープンデータ化プロジェクトの「Project PLATEAU」のほか、消防防災や建築施工におけるドローン利活用の最新動向、さらに4月から解禁となった建物調査におけるドローン活用の技術などについて、それぞれの専門家が解説した。

建築分野でのドローン活用は“中高度・生活空間”と“屋内空間”へ

 本セミナーの最後を締めくくったのは、国立研究開発法人建築研究所の宮内博之氏。宮内氏はドローンの活用シチュエーションを、航空法の定めるレベル1~4の飛行レベルという次元を踏まえた上で、「人の生活圏の最大高度」という概念を提唱。今後ドローンの利活用が進むにつれて、「都市空間の中で建物と地上間の空域が重要になる」と説明した。
 とりわけ建築分野では地上を低高度、ドローンが飛行する空を高高度とすれば、中高度とタワーマンションのような建物の中で我々が生活する空間が、ドローンを利活用する新しい領域になる。そして、こうした空間は今ドローン業界で注目されているレベル4以上の“レベル5”ともいえる、高い難易度の飛行が求められるという。また、人が入るのが難しい狭隘部、狭所、暗所、天井裏、床下、エレベーターシャフトといった空間が、もうひとつのドローンの有望な活用領域となるという。

宮内氏が提唱する建築分野におけるドローン活用の新領域。特に高層マンションのような中高度・生活空間は、レベル4を超える難易度となる。また、建物の屋内空間も建築分野においてドローンの新しい活用領域となる。

 さらに宮内氏は建築分野におけるドローン活用の最新事例を紹介。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のプロジェクトとして、進められている取り組みの一つとして「建物被害状況把握のための災害支援ドローンシステム開発」プロジェクトを取り上げた。

 本プロジェクトでは広域被災状況の把握が可能な長距離飛行ドローンと、建物の被災状況の把握が可能な小型ドローンを、親機と子機として組み合わせた複合ドローンを開発。子機を搭載した親機はモバイル通信を利用して、被災した建物近傍まで飛行。建物付近で親機から離陸した子機は、Visual SLAMによって障害物を回避しながら建物内を飛行して、建物の屋内を探索するというものだ。茨城県つくば市で実施した実証実験では、建物内の要救助者を発見することができたが、モバイル通信による遅延といったことが課題だったと報告している。

SIPの「建物被害状況把握のための災害支援ドローンシステム」で開発した複合ドローン。

 さらに宮内氏は、建築物の狭所空間におけるマイクロドローンの活用状況について報告。すでに天井裏や床下といった狭所空間で利用が始まっているマイクロドローンだが、日本建築ドローン協会の会員企業を対象にしたアンケートによると、操縦の難しさや安全性、さらにオペレーターの育成といった点で課題があると紹介した。

マイクロドローンの実態調査の結果。調査対象の中ではすでに7割の企業がマイクロドローンを利用している一方で、バッテリーの回収や安全性、通信や操縦訓練といった課題があるとしている。

 さらに今後、建築分野でのドローン活用では、これまでの可視光や赤外線カメラ等を使った非接触の一次調査、接触調査も含む二次調査から、接触・破壊検査のような三次調査が求められるようになるという。この三次調査の例として、カメラを通したAIによる動画認識とロボットアームを組み合わせたドローンを紹介。壁面に固定されたボルトを映像からAIが認識し、そのボルトにドローンが接近して機体に搭載したロボットアームでつかむというものだ。

ロボットハンドとAIを搭載したドローン。カメラで撮影した映像の中からAIがボルトを認識し、ロボットアームがそれをつかむことができる。

 最後に宮内氏は、建築分野でドローンの社会実装が進むのに必要なこととして、人を中心にした安全対策や住民への説明といった心理的な配慮が必要だと説明。さらに、建物点検調査では、要件、コストといった多様なニーズに対して、適切なドローンの選定やガイドラインが求められるという。また、点検・調査は最終的な補修改修のための手段であり、補修改修をはじめとした建築とドローンの両方の知識を持ってドローンによる点検・調査に臨むことが必要であると説明した。