小型狭小点検用ドローン「IBIS2」がトラックのキャビンを確認

 2025年1月28日、埼玉県八潮市で発生した大規模な道路陥没事故は、インフラの老朽化という社会的課題を浮き彫りにすると同時に、ドローンが撮影や物資輸送といった空中作業だけでなく、インフラ点検など日常的かつ身近な用途にも活用できる存在であることを広く認識させる契機となった。今回、行方不明となっていたトラックのキャビン部分を発見したリベラウェアに当時の状況を改めて聞くとともに、今後の下水道管をはじめとするインフラ点検におけるドローンの可能性について話を聞いた。

写真:現場で作業をするリベラウェアのチーム
埼玉県八潮市の現場で活動するリベラウェアのチーム。(提供:株式会社Liberaware)

「トラックのキャビンらしき部分を確認できました」と語るのは、現場に駆けつけたリベラウェア スマート保安事業部の長谷川氏。関係行政機関から日本UAS産業振興協議会(JUIDA)を通じて「現場状況の確認を依頼したい」との連絡があったのは、事故発生から約1週間後だった。JUIDAは関係当局と調整のうえ、狭小空間を飛行可能な技術を有するリベラウェアと、同じく屋内点検の実績があるブルーイノベーションの2社が現場に適任と判断し、出動要請を行った。

 長谷川氏はパイロットを含む7人のチームを編成し、同社製の狭小空間用ドローン「IBIS2」を携えて2月5日に現場に赴いた。当局から指示されたのは、陥没現場から約600m下流にあるマンホールから地下15mに位置する下水道管にドローンを投入し、内部の状況を確認するという任務であった。

エクステンションアンテナが威力を発揮

「IBIS2」は全長・全幅約20cm、重量243gの小型機で、直径約1mのマンホール孔から人力で投入が可能だった。ただし、現場では硫化水素など有害ガスが発生する恐れがあったため、操縦は地下10mほどの作業空間から行う必要があった。そこで活躍したのが「IBIS2」用に開発されたエクステンションアンテナである。

写真:エクステンションアンテナの外観
「IBIS2」のエクステンションアンテナ。

 このアンテナは操縦者とドローンの電波を中継する装置。電波は直進性によって遮蔽物や曲がり角の多い場所では信号が届きにくくなるため、エクステンションアンテナはその問題を解決する役割を担った。チームはエクステンションアンテナを作業空間からさらに下にある直径4.75mの下水道管まで降ろし、通信環境を確保したうえで「IBIS2」を投入。「IBIS2」は下水道管内を飛行し、内部映像の撮影を実施。通信ロストもなく、任務を無事に完了した。

 リベラウェアは2024年元日に発生した能登半島地震でも現地に出動し、倒壊家屋の内部やスーパーマーケットの屋根裏などで「IBIS2」を活用。貴重品の発見や被害状況の確認を行った実績がある。

 これら2つの災害現場を経験した長谷川氏は、「能登も八潮も同様に、早期にドローンを投入できる体制が整っていれば、人命救助などにおいてドローンがより大きな役割を果たせたのではないか」と語る。

事故後、点検業者から問い合わせが殺到

 八潮の陥没事故後、現地には国土交通大臣や埼玉県知事といった行政トップが視察に訪れたほか、国が有識者会議を発足させるなど、下水道の老朽化対策が加速している。この動きを受けて、リベラウェアには事故以降、自治体や公共事業体、下水道関連企業などから数十件に及ぶ問い合わせが相次いでいるという。問い合わせ内容は協業提案から機材の詳細に関するものまで多岐にわたる。

 リベラウェアは事故以前より、上水道やインフラ点検へのドローン活用に注力してきた。2024年1月15日に行われた東京都主催のピッチイベント「UPGRADE with TOKYO第35回」にて、「IBIS2」と移動式LiDARを用いて生成した下水道管の3次元データを点検に活用する提案を行い採用、実証実験が進行中だ。また、下水道管内部のクラック検知など、従来人が行う3倍のスピードで点検を進められる技術の開発も進めている。

写真:IBIS2 Assistの送信機と機体
「IBIS2 Assist」。従来の「IBIS2」と大きさや外観は変わらない。
「IBIS2 Assist」のホバリングアシスト機能の説明図。上下4m以内に障害物がある環境で高度を維持することが可能。(提供:株式会社Liberaware)

 2025年3月には、「IBIS2」にホバリングのアシスト機能を追加した新機種「IBIS2 Assist」を発表。従来機は操縦にはある程度の熟練が必要だったが、「IBIS2 Assist」では離陸から高度維持までをスムーズに行えるため、現場導入のハードルが大幅に下がったという。長谷川氏は「リベラウェアは『誰もが安全な社会をつくる』というミッションを掲げています。今後も活動を通じて、その実現に近づけるよう努めたい」と語った。