ドローンの活用は、機体やソフトウェアの進化によって、急速に拡大している。数年前では実現が難しかったドローン物流の実証は全国の各地域で行われ、サービス化がいよいよ目前に迫る地域も出てきた。
 技術の進化に伴って第三者の上空飛行や補助者の削減、広範囲の目視外飛行など、ドローンの活用環境は大きく変わろうとしており、安全な運用がより一層求められる。ドローンはこれまでにない新たなツールであるが故に、トラブルや万が一の事態が予測しにくく、事故事例をもとにさまざまな知見を得ることが必要だ。当連載では情報提供者による証言を元に事故事例を共有していく。ドローンを活用するすべての人が重大事故を防ぎ、安全対策に活用してほしい。
※掲載内容は事故の当事者、メーカー等を責めるものではないため、匿名としています。

ドローンが意に反して上昇、制御不能な事故事例

 空撮業務でドローンの電源を起動してプロペラを回転させ始めると、突然勝手にドローンが上昇を始めてしまい、制御不能に陥った。事前にテストフライトを終え、再度飛行しようと電源を入れた直後に発生したトラブルである。事故後のメーカーの診断や検証によってドローンのセンサー異常が要因とされ、対策を取るのが難しい事例であった。

事故発生場所都心某所の敷地内
飛行目的20~30人を撮影対象としたホバリング状態での空撮業務
体制パイロット1名
補助者1名
予定飛行高度対地高度50m以下から撮影を予定
トラブルの経緯撮影対象の人達に向け、プロペラの危険性を伝えるため、プロペラの回転速度や風切音を体感してもらおうとプロペラを回転させたところ、勝手に上昇を始めてしまった

■トラブルの状況

 スロットル操作を入力していないのにドローンが意に反して上昇し始めた。ドローンの操縦者は上昇後に操縦制御を試してみたが、制御不能の状態であり、すぐさま撮影対象となる人達を安全な場所に誘導した。なお、一通りの操縦が制御不能と分かり、最終手段である緊急停止を考えたが、気づいた時には危険な高度となっていたため、緊急停止は行えなかった。その後もドローンは上昇を続け、対地高度120mに設定していたジオフェンスで停止することなく上昇していった。画像伝送は推定対地高度約300m付近から途切れ始め、ドローンのカメラで雲などが見え始める高度まではモニターで確認しており、画像伝送が途切れた後も高度数値は上昇し続けていた。上昇中に離陸地点への自動帰還機能が通知されたものの、選択しても制御されない状態だった。なお、残量約50%のバッテリーを使用していたため、推定対地高度1300m付近でバッテリーが切れて停止し、墜落したものと見られる。

対地高度1300mとなると、東京タワー等の高層構造物やドクターヘリ・ヘリコプターの高度を遥かに超える高度となる。おおよそ重量1000~1500gほどの空撮用小型ドローンであっても、この高度から落下したとなれば危険性は容易に想像できる。今回の落下速度は、データから読み取ると落下から数秒後には終端速度に達し、そのスピードは14.3m/s。もしも1300mから自由落下すると139m/sとなるので、空気抵抗によって大幅に落下速度が小さくなったことが分かる。

■トラブル後のドローンの状態

 補助者が遠方から墜落中のドローンの様子を確認。それを手掛かりに墜落した近辺を捜索したがドローンは発見できなかった。周囲を見渡し、火災が起きていないことを確認し、警察へ紛失届けを提出した。事故発生から約1か月後にビルの屋上で発見され、管理人から警察へ連絡があった。

 破損状況は右スキッドが折れ、カメラがジンバルごと外れて破損していた。発見当時の写真は無く、警察で回収されたものを引き取ったため、墜落当時の状況は不明。

■トラブル発生後の対応

 破損したドローンの現状を写真で撮影し、データの抽出を行った。飛行ログはドローンの電源が入れば抽出することができる。今回は強い衝撃に加え、1か月間ビルの屋上で野ざらし状態であったが、電源を起動することができた。可能な限り、データを収集したうえで、メーカーに問い合わせた。

トラブルの原因

 メーカーの診断の結果、気圧センサーの異常が確認された。当事者が抽出したデータからも重力加速度の異常が見受けられ、ドローンが下降していると認識した結果、高度維持のために上昇する行動を取ったものと見られる。

相対高度では、離陸から約150秒後に値が0mになっていることが読み取れる。高度計測の異常により、約150秒以降は正確な数値を計測できていなかった可能性が高い。

※グラフデータは回収した機体のデータログを基にドローンジャーナルが作成。

■当事者の事故時の心境と感想

 当事者は「制御不能な状態から対地高度約1300m以上に上昇したと示す画面の数値を見て、あらゆる最悪の事態が頭をよぎり、生きた心地がしなかった。数秒間目視できた降下状態の様子からドローンが自由落下していないと見受けられたのに加え、その後、周辺で怪我人や火災などが見当たらず、警察にもそのような届け出や通報がないことを確認し、最悪の事態である大事故は回避できたのかもしれないと思った。しかし、万が一想定しない場所に墜落していた場合や、墜落後のバッテリー発火、第三者に被害が及んでいる可能性も拭いきれず、ドローンが発見に至るまでの1か月間は精神的に負担を抱える日が続いた。今回のケースではメーカーにも対策案を問い合わせ、不具合を防ぐべく対策を質問したが、対策案は提示されなかった。制御不能となってしまったため、運用者も対策するのが難しい」と振り返った。

 また、トラブルが発生した時のアドバイスとして「メーカーに問い合わせる前にやれるだけ状況証拠を収集しておくことが重要だと感じた。データの抽出や破損状況の写真ほか、第三者による現場の目撃状況などは有効な証言となる」と話した。

ドローンの飛行エリアを限定する安全対策

 このように、日ごろから日常点検を行っていても機械である以上、防ぎきれないトラブルは生じてしまう。トラブル発生時にすぐさま安全な場所に着陸させることができる状態であれば良いが、飛行中に制御が利かなくなった場合は飛行エリア外へ飛んで行くことも考えられ、それを防ぐのが先決となる。

 そういった場面では地上とドローンを紐で結ぶ係留装置が有効とされる。また、墜落を想定した安全な場所は飛行前にしっかりと確保し、飛行エリアの広さに応じて複数箇所準備しておきたい。また、万が一トラブルが発生した際には、運航管理のルールとなっている飛行計画の通報や飛行日誌の記録、事故発生時の国への報告が重要となる。

 最後に、ドローンの事故件数は年々増加傾向にあり、国土交通省でも報告を受けた事例を取りまとめている。また、12月に施行される航空法改正では運輸安全委員会が設置され、事故の報告を義務づける制度が設けられる。これは、報告義務と同時に、重大事故については有人航空機同様に同委員会が事故調査に入ることを意味し、警察の事故処理とは異なる。

 今後、第三者上空や広域での自動航行が一般化してくるなかで、重大事故を起こさないためにも、あらゆる事態に備えた対策を用意し、安全なドローン社会の構築と発展につなげていくことが重要だ。

▼航空安全:無人航空機による事故等の情報提供 - 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk10_ua_houkoku.html

■ドローンジャーナルでは事故事例を募集しています。

 同様のトラブルを起こさない、事前に安全対策の参考につなげるため、ドローンジャーナルでは事故情報を募集しています。詳細を取材のうえ、個人、企業、メーカー等が特定されないように共有します。

 以下を記載の上、右記アドレス(ドローンジャーナル編集部宛:drone-journal-mail@impress.co.jp)までご連絡ください。

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事故事例の大まかな状況

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