先端ロボティクス財団と千葉市、横浜市は3月24日、垂直離着陸が可能なVTOLカイトプレーンを用いて東京湾を縦断する実証実験に成功した。
 VTOLカイトプレーンは、準天頂衛星「みちびき」による位置測位をもとに飛行制御を行う。横浜市を離陸地点とした約50kmを自律的に縦断し、千葉市まで80万円相当の歯科技工物を輸送した。

完全自律飛行で東京湾を縦断 2m四方のドローンステーションに着陸成功

 3月24日に行われた実証実験は、ESR横浜幸浦ディストリビューションセンター計画地内(横浜市)から稲毛海浜公園(千葉市)の約50kmをVTOLカイトプレーンVK21-01「不死鳥」で自律飛行し、2m四方の「ドローンステーション」(以下DS)に着陸するというもの。今回の実証は昨年6月に続いて2回目の挑戦となり、前実証からの主な変更点は以下の通りだ。

離陸から着陸まで完全自律飛行で実施
機体に4つのプロペラを搭載(垂直離発着を可能にした)
準天頂衛星システム「みちびき」を活用し、位置測定精度を向上
「無人航空機の着陸制御から集荷」「荷物の一時保管」を行うドローンステーションを着陸地点に設置

実証実験で使用されたVTOLカイトプレーンVK21-01「不死鳥」。不死鳥という名は、半年間に渡る実験飛行で幾度となく傷つきながらも必ず帰還してきたことに由来する。

 実験に使用された機体は、1948(L)×2590(W)×1120(H)mm、重量20kg、ペイロード4.9kg、飛行速度約50~70km/h、飛行時間2時間という仕様で、滑走路を使わずに垂直に離着陸できる。重量については「25kg以下の機体は25kg以上の機体に比べて審査基準が低いため、簡易的に通すことができる。25kg以下で運用しやすく、安価なものをコンセプトにした」とのこと。また、簡単な手続きで使用できる351MHz帯のデジタル簡易無線局(総務省が2008年に制度化)を活用するなど、ドローン物流を容易に実現するための工夫を凝らした作りとなった。

 新たに4つのプロペラを搭載することによって離陸から着陸までの動作を効率化している。離陸はマルチコプター同様に垂直に飛び立ち、上空で水平飛行になったらカイト(たこ)の揚力を活かして省エネルギーで飛行する。着陸もマルチコプターと同じようにホバリングしながらDSに着陸するという仕組みだ。

今回の実証実験のルートは、横浜市金沢区幸浦から千葉市稲毛海浜公園の47.77km。赤線で示した羽田空港と海ほたるPAの間を飛行航路とし、高度100mで飛行する。
DSへの着陸。
スムーズにDSの上部に着陸した。
運搬した歯科技工物。

 VTOLカイトプレーンは、8時23分に横浜市を離陸してから東京湾上空高度約100mを飛行し、千葉市の稲毛海浜公園に設置された着陸設備DSに9時34分に着陸した。歯の治療に用いられる約80万円相当の歯科技工物50gを運び届けることに成功した。

DSはIHI運搬機械が製作。DS上部にドローンが着陸すると、上部が開放されドローンを回収。運搬物を回収して一時保管し、受け取ることができる。

海上を飛行航路にした都市部のドローン物流を推進

実証実験の発起人である先端ロボティクス財団の野波健蔵 理事長とVTOLカイトプレーン「不死鳥」。野波健蔵氏は、2012年にミニサーベイヤーコンソーシアムを設立し、2013年には自律制御システム研究所(現:ACSL)を創業。現在は千葉大学の名誉教授となり、日本ドローンコンソーシアムの会長なども兼任している。

 現在、ドローンを使った物流配送は離島や過疎地等で実証実験が盛んに行われ、地域課題の多い地方などで実用化が進み始めている。一方、レベル4(第三者上空目視外飛行)が許可されていない現時点においては、都市部でのドローン物流の実例はまだ少ない。
 同財団は、「ドローンを活用した物流は、都市部で実現してこそビジネス性が向上し、空の産業革命を加速する」という考えのもと実証実験に取り組んでおり、東京湾岸エリア全域をカバーできるドローンの開発と物流システムの構築を目指している。

GPSと多周波マルチGNSS受信モジュールを装備。みちびき(QZSS)の信号を受信でき、高精度な位置情報を取得できる。

 横浜市から千葉市に至る東京湾のエリアは、1日約500隻の船舶が航行する世界有数の海上交通過密海域だ。また、空に目を向ければ旅客機が過密ダイヤで離発着する東京国際空港(羽田空港)に隣接している。このエリアにおいて、現在の法規制の中で最大限できる飛行を行い、レベル4解禁を見据えた都市部でのドローン物流の課題を抽出することが前回の実証実験の目的だった。そして、今回の実験はみちびきによる高精度な位置情報を用いた機体制御で、完全な自律飛行を目指したものであり、約50kmに及ぶ東京湾の縦断に成功した。

 野波氏は「50kmの距離を飛行して荷物を運び、2m四方の狭いドローンステーションの上部に着陸するというかなりハードルの高いことをやり遂げた。99.9%成功するつもりで準備してきたので、成功して良かった。今日の実験は100点満点だと思う」と安堵した表情で話した。

 今年12月には航空法改正が施行され、レベル4の飛行が解禁となる。同財団はこれを機に、都市部上空のドローン物流の商業化を早期に実現したい考えだ。

見据える先はドローンを用いた物流のオートメーション化

 野波氏は、歯科技工物のような高額商品を配送することで、都市部におけるドローン物流サービスの収益を確保できるという。また、緊急性が求められる輸血用の血液、薬などの配送では、ドローンの活用ニーズが高く、これらの配送も考えていると話す。

 今後の展開として、2023年度中に都市部でのドローン物流に必要な型式認証、機体認証、操縦ライセンス(一等資格)を取得し、まずは7機体制で1日1往復便のビジネス化を目指す。また、早期に複数台による編隊飛行の実用化に取り組み、運用コストの低減も図るとしている。東京湾岸エリアを全域カバーでき、湾岸道路、アクアラインという地上交通網とは別の第3の大動脈・空の交通システムとして、BtoBまたはBtoCの需要を満たす便利で低価格なビジネス便として定着させたいと話す。

機体の動力は2ストローク80ccのエンジンを利用。カイトプレーンの最大の魅力は滑空比が大きいため、エンジンを停止してもすぐさま墜落に至らないことだ。また、カイトはパラシュートと同じ役割を果たし、万が一の墜落時にも衝撃を緩和することができる。来年度中には、SDGsや脱炭素化社会も視野に入れ、バッテリー駆動にする意向だ。

 最後に野波氏は、ドローンが運んだ荷物を宅配ロボットが回収・運搬するといった物流配送全体のオートメーション化も検討していると話し、「将来は数kmごとにDSを設置することで、荷物配送の受け取り場所やドローンの離発着場を増設したい。バッテリーの充電はDSの機能に付け加えることで自動化が可能となる。DSまでの荷物の集荷・配送は運搬ロボットを活用し、荷受けから配送までをオートメーション化するためにはドローンが最適だと考えている。そして、日本製の機体とシステムにこだわり『日の丸ドローン物流システム』として、ドローン物流の実現による産業活性化につなげたい」と語った。