3月18日、経済産業省と国土交通省は第8回目となる「空の移動革命に向けた官民協議会」を開催。国土交通省はこれを取りまとめ、空飛ぶクルマの機体開発を後押しする「試験飛行ガイドライン」と「空の移動革命に向けたロードマップ」を公表した。

 ロードマップの改定は2018年以来、実に4年ぶりとなる。官民協議会は1年に1度開催されていたものの、ロードマップは改定されてこなかった。今回の改定は2025年に大阪・関西万博の開催が決定しており、これに向けて改めて指針を示したといったところだ。
 大阪・関西万博では空飛ぶクルマの飛行を実現し、会場までの移動手段として運用する案も出ているなど、官民一体となって実現に向けた取り組みが加速している。
 今回は改定されたロードマップと試験飛行ガイドラインについて解説する。

空飛ぶクルマの事業化、基準設計、インフラ整備を集約したロードマップ

▼空の移動革命に向けたロードマップ(改訂版)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/robot/pdf/airmobility_rm2021.pdf

▼空の移動革命に向けたロードマップ(2018年版)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/pdf/004_01_00.pdf

 ロードマップは2022年度から2030年代以降という時間軸で構成されている。大きく分けて利活用、環境整備、技術開発の3つが並行して進む形だ。

 まずは、利活用の項目から確認していくと、2018年版では人の移動と物の移動の2つが記されていたが、改訂版では新たにビジネス波及という項目が追加されている。これはどういったビジネスに取り組んでいくかを示したもので、2022年から2025年までは航空関連事業への活用を進めていくとしている。2018年版では2022年まで試験飛行・実証実験等を行い、2023年から事業のスタートを目標としていたが、これは後ろ倒しとなり、改訂版では2025年の大阪・関西万博までを実証期間とし、万博以降から事業スタートの拡大が記された。想定する事業には都市交通、地方交通、医療、物流配送の4つがあげられ、2020年代後半に商用運航を拡大し、2030年代以降には路線や便数を増やすといった利便性の拡大が予定されている。

 次に環境整備の項目では、2018年版より具体的な内容が記された。機体の安全性と技能証明の基準では、機体の構造に対応した基準整備を進めていくとしている。機体の安全性の基準整備は、座席数9席以下の機体とし、操縦者がいる場合といない場合で基準を整備していく。技能証明の基準整備は、遠隔操縦を含む操縦者と機体の整備者の基準を整備し、2024年からは多様な機体に対応した基準・精度整備が行われていく。

 空域・運航、事業の制度整備においては、関西・大阪万博をひとつの目標としており、荷物輸送の事業整備のほか、旅客輸送を想定したガイドラインの作成や会場での空域管理が目標にあげられている。これらの制度・体制整備は2027年頃を目途に進められ、それ以降は実装状況に応じて制度の見直しをしていくというスキームになっている。

 また、離着陸場の整備についてもより具体的に記された。改訂版では既存の空港に加え、建物の屋上に離着陸場を設置する方針が示されている。市街地での運用を視野に入れ、2023年以降から建物の建設計画や都市計画、地域計画に空飛ぶクルマを組み込んでいく方針だ。

 そして、新たに社会受容性の項目が追加された。ドローン同様に空飛ぶクルマの社会実装においても住民の理解が必要だ。実証地域で理解を深めるほか、大阪・関西万博で認知度向上を狙い、事業化を進めていくとしている。

 技術開発の項目では大きな変更はないものの、運航管理においては航空機やドローンとの空域共有を視野に入れている。ドローンではレベル4目視外飛行におけるドローン物流等の開始に向け、各社がUTMの開発に力を入れており、ドローンだけでなく航空機や空飛ぶクルマの情報を統合したUTMの開発が進んでいる。

 改訂版のロードマップでは、大阪・関西万博を利活用や基準整備、社会受容性のターニングポイントとし、2025年以降からいよいよ本格的に事業化が進められる。まずは、人や物の移動に空飛ぶクルマが活用されることを想定しており、建物の屋上等を離着陸場として活用していくことが新たに記された。

ガイドラインの作成で機体の試験飛行をスムーズに行える環境を整備

▼「空飛ぶクルマ」の試験飛行等のガイドラインの概要
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001472693.pdf

 国土交通省は、「空の移動革命に向けたロードマップ」にあわせて「試験飛行ガイドライン」を公表した。これは、機体の試験飛行を後押しするために作成されたものであり、試験飛行を行うための申請書のひな型が用意された。

▼「空飛ぶクルマ」の試験飛行等に係る航空法の適用関係のガイドライン
https://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk10_000072.html

 また、大きく変わったのが飛行試験の申請窓口の構造だ。これまでの窓口は航空局原課、機体関係、運航関係の3つに分かれており、申請者は担当する各所に書類を送る必要があった。そのため、各部署間で認識共有作業が生じることに加え、許可書等は担当各所から別々に送付される仕組みとなっており、申請者とのやり取りが複雑化していた。そこで、3つに分かれていた部署を次世代航空モビリティ企画室で一元的に対応し、機体関係と運航関係の申請においては、ガイドラインに沿った申請を行うことで迅速に処理する仕組みに変更された。また、許可書等は次世代航空モビリティ企画室から一括送付される。