10月10日から12日の3日間、千葉県千葉市の幕張メッセで農業分野の総合展示会「第8回農業ワールド」が開催された。その中で、スマート農業や植物工場といった、最新の農業技術が展示される「第5回次世代農業EXPO(AGRINEXT)」では、農業分野における省力化や人材不足を補うドローン分野の出展が多く見られた。とくに今回は来年早々にも認められるといわれている農薬散布における自動航行を見込んで、ドローンメーカー各社は自動航行機能を搭載したモデルを中心に出展していた。

DJI JAPAN

RTKによる自動航行が可能なMG-1P RTKを初公開
 1年半前から農薬散布ドローン「DJI AGRAS」を販売するDJI JAPANでは、同シリーズの2018年シーズンモデル「MG-1S Advance」と、2019年度に見込まれる本格的な自動航行機能を搭載した「MG-1P RTK」を出展。「MG-1S Advance」は2017年に販売された「MG-1P」をベースにしたマイナーチェンジが施された機体で、衝突防止用レーダーを標準で搭載し、ポンプやノズルの改良などが改良された三世代目。価格も従来170~180万円だったものが130万円前後となっている。

MG-1S Advanceは地形検知レーダーと障害物回避レーダーを一体にしたレーダーシステムを標準搭載。また、より確実に農薬の噴霧を停止できる新型ノズルを採用している。

 また、「MG-1P RTK」は文字通りGNSSに加えてRTK(Real Time Kinematic)によって自動航行の精度を高めた次世代の農薬散布モデルだ。散布時の飛行精度を高めるためにRTKを採用しているのが最大の特徴で、機体に加えてGNSSアンテナとセットで運用する。飛行前に圃場の4隅をRTK用のGNSS移動局を使ってその位置を測定し、その情報をプロポに取り込むことで散布エリアを確定し、その範囲上で飛行するルートを確定するというものだ。
 また説明員によるとこの移動局を使った方法の他に、MG-1P RTK専用のPhantomシリーズを使ったエリア設定方法を用意。エリア設定のために移動局を持って歩く代わりに、Phantomで上空からエリアの地図データを作成して、AGRASのプロポに取り込むことで、GNSS移動局アンテナを使った場合より広い範囲の地図を短時間で作ることができるというものだ。このPhantomシリーズというのは、先に発表されたPhantom 4 RTKを差している模様だ。MG-1P RTKの詳細はまだ決まっていないが、販売価格はおよそ250~260万円になるという。

MG-1P RTKはRTKの基地局とセットで運用される。散布エリアの設定には移動局で実測する方法と、専用のPhantomを飛行させて地図データを作成する2つの方法が選べるようになるという。
機体にはGNSSアンテナを2個搭載。また、FPVによる飛行が可能な123°の視野角を持つカメラとLEDライトを装備している。
プロポは新型の「GL300N」を採用。Phantom4 Pro Plus用のGL300Eにも似ているが、背面にDJI CENDENCEやCRYSTALSKY使われるリチウムイオンバッテリーのスロットを装備し、バッテリーの交換が可能となっている。
DJIのブースではシンジェンタジャパンの杉野氏、堀口氏を招いて、農薬散布メーカーの視点からドローンの活用状況と将来についてのトークショーが開催された。

SkyLink Japan

農薬散布のベテランが教えるDJI AGRASの運用ノウハウ
 DJI製品を扱うスカイリンクジャパンでは、MG-1S AdvanceとMG-1P RTKの展示に加えて、ブース内をネットで区切ってドローンの飛行スペースを設け、実際にMG-1S Advanceによるフライトデモを繰り返し実施し、大勢の来場者の注目を集めていた。また、30年近く北海道旭川市近郊で農薬の空中散布を行ってきた、空撮ドローンパイロットしても知られる請川博一氏が講演。いち早くDJI AGRASを導入して蓄積してきた請川氏が話す同機の運用ノウハウに、多くの人が耳を傾けていた。また、スカイリンクジャパンではすでに北海道、秋田、岩手、山形にサービス拠点を置いており、今後も青森、福島、群馬、福井など全国各地に拡大していくという。

ドローンメーカーの出展ブースの中では唯一、ブース内にフライトスペースを設けたSkyLink Japan。MG-1S Advanceから実際に水を撒くなど、実運用をイメージさせるデモを行っていた。
バッテリーの運用方法を工夫することで離着陸の時間を数十秒に短縮し、産業用無人ヘリコプターよりも高い運用効率を実現するといったノウハウを披露する請川博一氏。

エンルート

ユーザーの声を反映した2019年モデル
 いち早く農林水産航空協会の農薬散布用ドローンの認定を取得したエンルートは、すでに400機以上の販売実績を持つ5リットルタンク搭載の「AC940」シリーズの最新型「AC940-D」と9リットルタンク搭載の「AC1500」を展示していた。いずれも、従来からあるモデルの継続販売ではあるが、実際にこれらのドローンを運用するユーザーからの要望を反映し、2019年モデルとして細かなアップデートを行っていることを訴求。また、興味深い所では粒剤散布装置が実際に稼働する様子をデモンストレーションしていた。

9リットルタンクを搭載した「AC1500」。
5リットルタンクを搭載した「AC940-D」。
2019年モデルではモーターにクーリングファンの装備や工具不要で脱着ができる液剤フィルターの採用など、ユーザーの声を生かした改良が施されている。
AC1500用の粒剤散布装置のデモンストレーション。豆つぶ剤に見立てたBB弾を勢いよく吐出する様子がわかる。

東光鉄工

薬剤の大容量化を目指した2つの提案
 秋田に拠点を構える東光鉄工は、現在販売中であり地元秋田県を中心に約70機の販売実績がある農薬散布ドローン「TSV-AH2」に加えて、自動航行の認可を見据えた完全自動操縦モデル「TSV-AH2A」を披露。また、北海道のような広い圃場があるエリアに向けて、16リットルのタンクを搭載したドローン「TSV-AH3」と、エンジンによる発電によって長時間の飛行を可能にした「ハイブリッドエンジンドローン」を参考出品していた。

自動航行を可能とした「TSV-AH2A」。RTKによる位置情報補正機能を備え、独自に開発したタブレットアプリにより、簡単に自動航行の設定ができるという。
16リットルのタンクを搭載して産業用無人ヘリに近い作業効率を追求した「TSV-AH3」。
2ストロークエンジンで発電機を回して発電し、その電気エネルギーで飛行する「ハイブリッドエンジンドローン」。

ナイルワークス

生育状況を撮影しながら農薬散布ができる
 圃場上空を飛行することで薬剤散布と同時に生育診断もできるドローンを提案してきたナイルワークスは、先ごろ限定販売を始めた量産モデル「Nile-T18」を展示していた。ドローンの機体は二重反転式のオクトコプターで、タブレット上で飛行経路を設定することにより、圃場上空30~50cmを自動飛行する。さらに機体前部に付いた赤色光+近赤外線のカメラによって穂の生育状況を把握。このデータを同社が提供するクラウドにアップロードすることで、1株単位の生育診断が可能となるという。この秋から特定ユーザーに限定販売を開始するといい、機体とRTKの基地局・測量機などをセットにし、クラウドサービスとあわせて450~500万円程度になるという。

いよいよ販売が始まったナイルワークスの農業用ドローン「Nile-T18」。今年度は試験販売という扱いになっている。
機首には赤色と近赤外の2波長に対応したカメラを搭載。右側のレンズから入った光線を中のスプリッターで分光して撮影する。
「Nile-T18」専用にマクセルと共同開発を行っているインテリジェントリチウム電池パック。44.1Vで9.8Ahの容量がある。充電器は2本ずつ同時に最大6本を充電可能。

TEAD

“高ペイロード”“長時間”のためのエンジンドローン
 産業向け大型ドローンを手がけるTEDは、農薬散布用ドローンとしていち早く農林水産航空協会の認定を取得した「Mulsan DAX04」の自動飛行対応モデル「Mulsan DAX04 TypeT」を展示するほか、“長時間”“高ペイロード”をコンセプトに、エンジンを搭載した数々のハイブリッドドローンを提案していた。「Mulsan DAX04 TypeT」は、飛行精度を向上させるためにRTKを採用。圃場の脇に基地局を設置して飛行させることで、よりきめられたルートに対して精度の高い飛行が可能となる。

従来の農薬散布ドローンに自動航行機能を加えた「Mulsan DAX04 TypeT」。

 また、産業用汎用機「HARO」シリーズにエンジンを搭載したドローンを複数提案。農薬散布用や大きなペイロードを持つ貨物輸送用などを披露したほか、より具体的な用途として鳥獣害対策のドローンを公開。「ANIBUS」と呼ばれるこのドローンは、機首にユーソニックという鳥獣が嫌う音波を出すスピーカーを搭載。エンジンによる長時間の飛行能力を生かして、より広範囲や長時間の対応を可能としている。

エンジンを搭載したハイブリッド農薬散布ドローン。
機体下部に大きなカーゴベイを装備したハイブリッドドローン。
鳥獣害対策ドローン「ANIBUS」は、機首にモハラテクニカが開発したスピーカーを搭載しており、鳥獣が嫌う音を発して罠に追い込んだり、追い散らしを行うことができるという。
水田への除草剤を散布する水上ボート「TB001」。航行する自機の後方から除草剤を滴下することで自己拡散するため、50×20mの圃場では1分かからずに散布することができる。

石川エナジーリサーチ

マグネシウム合金製フレームのドローン3モデル
 熱エネルギー機器を開発する石川エナジーリサーチは、農薬散布用ドローン、測量撮影用ドローン、エンジンハイブリッドドローンの3機を展示していた。いずれも大きな特徴はフレームの素材をマグネシウム合金としたことで、アルミより軽く、カーボンより高い強度を実現していることだ。

 2019年発に発売を予定しているエンジンハイブリッドドローン「ハイブリッドフライヤー」は、発電用に4ストローク単気筒350ccエンジンを搭載し、4~5リットルのガソリンで最大12kgのペイロードを擁して1時間程度の飛行が可能。最長では180分以上の飛行が可能で、物資輸送や測量、撮影に供することができる。

エンジンハイブリッドドローン「ハイブリッドフライヤー」。フレームはすべてマグネシウム製となっている。

 また、農薬散布用ドローン「アグリフライヤー」は、8リットルの農薬タンクをフレーム内に抱え込むように搭載し、上部にはフェアリングも備えていて、デザイン性にも優れているのが特徴だ。あくまでも農業機械ということで、高強度、高耐久性を重視して作られており、フレームはすべてマグネシウム製となっている。

農薬散布用ドローン「アグリフライヤー」は、取り外し可能な農薬タンクをフレームとフェアリングの内側に搭載する。フレームはやはりマグネシウム製だ。

イームズラボ

ロボット技術を生かしたUSV、GUVを提案するイームズラボ
 今年から新体制となったイームズラボは、水田を航行する無人ボート2機種を出展。いずれも赤と黒のカラーリングとスピード感あふれるデザインが特徴の機体で、ひとつはフロアブル液剤散布用、もうひとつは粒剤、豆粒散布用のモデルとなっている。さらにイームズラボでは、これまで培ってきたGUVの技術を生かした、ハウス内で液剤散布ができる無人散布車両の動画を公開。GNSSの位置情報によって決められたルートを走行しながら液剤を散布できるという。

フロアブル液剤散布用ドローン「USV ZR-6」(左)と、粒剤・豆粒散布用ドローン「USV ZR-7α」(右)。ラジコンボートの要領で誰にでも簡単に操縦することができる。
ハウス内をGNSSの位置情報をもとに自動で進みながら液剤を散布するGUVの動画。

スカイマティクス

ドローンを使った農業向けソリューションを紹介
 リモートセンシングを得意とするスカイマティクスのブースでは、圃場管理サービス「いろは」を紹介していた。このサービスでは独自の葉色解析技術により、マルチスペクトルカメラを使うことなく、一般的なドローンの可視光カメラで撮影した画像から、農作物の生育診断をすることが可能。また、作物の株の数をカウントしたり、DSMによって圃場の均平を可視化するといったことが可能となっている。

農薬散布ドローン「XF-1」を使った農薬散布サービス「はかせ」を中心に、圃場管理サービス「いろは」、測量サービス「くみき」といった、ソリューションを中心に展示を行っていた。
いろは」を活用した事例の1つとして紹介していたのが、ドローンで撮影した画像から自動的にキャベツの株を大きさごとに分類してその数を数えたもの。