枝や葉が入り組む森の中を飛行するSkydio2。

 固定翼のドローンsenseFlyのeBeeシリーズを取り扱うジオサーフは10月27日、長野県で米Skydio社のドローンを使った林業DXの実証実験を報道関係者に公開した。この実験は社会実装推進センター(JISSUI)が推進する「森林づくりへの新技術導入・実証事業 (異分野技術導入・実証)」の補助事業「林業DXを目指したAI搭載ドローンによる効率的な森林内デジタルデータの収集と利活用」として同社が取り組んでいるもの。この日公開された実験では、長野県信濃町の人工林内でデータ取得に用いるSkydio2が、木々の間を安全に飛行できることを確認した。

森の上空からではなく、森の中を飛行させることで得られる三次元データ

 林業はおもに山に木の苗を植え、それを育てて伐採し、販売するというビジネスだ。しかし「本来、ビジネスで重要なのは在庫管理だが、林業の商品である山に植わっている木の資源量はわかっていなかったり、わかっていても正確ではない」(瀧氏)という。昭和20~30年代、木材需要に応える形で天然林を伐採し、針葉樹などを植林する形で人工林に置き換える拡大造林が国によって推し進められてきた。この中で、地域ごとに木の成長曲線を設定し、将来の資源量を予測しているものの、この成長曲線は間伐や除伐といった山の管理が正しく行われた上でのものであり、実際には安い外国産木材の輸入拡大や、林業従事者の減少などによって、日本の人工林は管理が行き届かなくなり、このデータが実際の資源量に当てはまらなくなっているという。

実証実験事業の幹事社であるジオサーフ。同社サポート・グループの小路丸未来シニア・サポートエンジニア。

 そこで、資源量の現状を調査する取り組みが各地で行われている。その方法は、木の一本一本の直径と高さを測るというものから、森林の上空を飛行する航空機やドローンに搭載したカメラやLiDARを使ってデータを取得したり、森の中に地上設置型LiDARを置いて周辺の木の直径を測るというものだ。しかし、一本一本を計測することは莫大な労力がかかることは言うまでもなく、また、上空からの計測では、幹の直径を正確に捉えることが難しい。また地上からの計測では、LiDARなどの機器を森林内で運搬する負担が大きいといった課題がある。そこでジオサーフでは、米Skydio社の小型ドローン「Skydio2」を用いて森の中を飛行させながら写真を撮影し、この写真から3Dモデルを作成して、そこから資源量を求める計算をするという技術の開発に取り組んでいる。

 Skydio2は撮影用のカメラとは別に、機体の上下に6つの超広角カメラを搭載している。このカメラで撮影した映像からリアルタイムで周辺環境の立体地図を生成し、障害物を避けながら飛行することができる。また、このVisual SLAM技術によって、GNSSの電波に頼ることなく自律飛行も可能だ。さらに、Skydio2は撮影用のカメラを水平より上に向けることができる。そのため、地上から数メートルの高さを飛行することで、地面から木の幹、葉が茂る高さの下部という、これまで上空からでは取得できなかった空間を計測し、3D化することが可能となっている。

 森林総合研究所の瀧主任研究員とジオサーフらは2020年12月にこのSkydio2を使って、茨城県つくば市の森林総合研究所敷地内にあるヒノキの平地林を撮影し、三次元モデルを構築してその精度の検証を行っている。約0.18haに約640本のヒノキが並ぶ林の中で、枝下となる地上約4mを飛行し、1486枚の画像を撮影。その写真をSfMソフトで処理して生成した三次元点群モデルは、数センチメートルの正確度と精密度が得られたという。(参考資料:森林利用学会誌/36 巻 (2021) 3 号「AI搭載ドローンによる森林内空撮と三次元モデルの構築」著 /瀧 誠志郎、青木 三六、小路丸 未来、稲田 純次 DOI:https://doi.org/10.18945/jjfes.36.151

2020年12月に検証を行った平地林の立木位置と飛行経路。植列に対して直交(図では左右方向)する飛行では、前進のみの操作で障害物の回避はすべてドローンが自動で対処した。(資料提供:瀧誠志郎氏)
得られた三次元点群モデル。上がGCPによる補正なしで、下が補正あり。(資料提供:瀧誠志郎氏)
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 林業研究部門 林業工学研究領域 収穫システム研究室の瀧誠志郎主任研究員。

森の中を飛ぶドローンが撮影した映像を見ながら、境界確定の立ち合いをすることも

 今回、ジオサーフが長野県で行っている実証実験は、平地林での結果をもとに、山の斜面であり、また、植列が整っていないような実際の森林で、どの程度の成果が得られるかを検証しようというものだ。この日ドローンを飛行させたのは、同日午前中にSkydio2の操作に関する指導を受けたばかりの森林組合のスタッフだ。「操縦に長けた専門のオペレーターに依頼するとコストがかさむ。これまでカメラを持って森の中に調査に入っていたような、森林組合の方がドローンを使って調査できることが大事」(ジャパン・インフラ・ウェイマーク開発部 岡田正義サービス開発担当課長)だという。

この日、ドローンの飛行を担当したのは、Skydio2に関する指導を受けたばかりという、長野森林組合の伊東大介北部支所係長。
森林の中を飛行するSkydio2。

 さらに、森の中でドローンを飛行させて撮影するという今回の取り組みは、資源量の調査だけでなく、森林の境界の確定といった用途でも期待が寄せられている。というのも、「現在、日本の人工林はその多くで国土調査ができておらず、境界の確定が森林の施業において一番障害になっている」(長野森林組合 赤松玄人総務課長)という。これまでは、山の所有者ごとの境界がはっきりしていなくても、木を育てる段階であり、下刈りなどでは問題にならなかった。しかし、今後、山の多くが木を切って利用する段階を迎える中、その境界が明確でない場合、うっかり隣の所有者の木を切ってしまうといったトラブルも起こりかねない。

 そこで、本来であれば所有者立ち会いの下、境界を確定していくことになるが、地方から都市部に人口が流出していった結果、山の所有者が全国に散らばってしまっていて、境界の確定の立ち会いが難しくなってきており、「このままだと、もうあと5~10年で境界の確定もできなくなる」(赤松氏)という。そこで、ドローンで森をデジタルデータ化しておけば、インターネットを介して全国どこからでも、その三次元データを見ながら境界確定を行うことができる。さらに、森の中を飛行するドローンが撮影する映像をリアルタイムで確認しながら、境界確定の立ち合いをするといったことも考えられるという。「林業分野ではドローンを使うことで直接生産性が上がるということまでは期待していない。しかし、林業に従事する働き手が減っている中で、こうした取り組みは新しい林業のワンステップになる」(赤松氏)と話す。

長野県信濃町の人工林で行われた実証実験の様子。