ドローンの利活用は、長時間飛行や大きいペイロードの確保など、機体が進歩するに連れ、広範囲での用途が広まり始めている。これに加え、2022年にはレベル4の目視外飛行が解禁されることもあり、各社が取り組んできた物流配送や災害対応、警備監視といった長距離飛行の実証実験がいよいよ実装フェーズに移り始める。

 そこで欠かせないのが、広いエリアに対応する通信方法だ。これまで実施してきた検証の多くは、通信にLTEを用いており、全国エリアに行き届いていることから、長距離飛行においてはもっとも理にかなった通信だと言える。すでに携帯電話向けに整備されたLTEの利用は、通信距離を制限することなく、遠方からの飛行制御や映像伝送が可能となる。さらには広いエリアをカバーしているため、電波ロスを避けることにもつながる。
 従来は実用化試験局の免許を受け、総務省による携帯電話の上空利用許可が必要だった。しかし、通信事業者が携帯電話の上空利用を許可する制度が2020年12月に整備され、NTTドコモは日本初のドローン向け「LTE上空利用プラン」の提供を7月8日に開始した。

NTTドコモがいち早くドローン向けサービスを提供できた理由

NTTドコモは7月15、16日に「docomo 5G DX MEETUP for business」を開催。5Gに関連するソリューションを紹介し、ドローン向けのサービスではLTE上空利用プランを打ち出した。

 携帯電話の上空利用は、地上の携帯電話利用者に影響を及ぼすことを踏まえ、総務省や通信事業者の間で検討されてきた。今回、制度整備から約半年後の7月8日にNTTドコモがサービス化に踏み切ったのには、3Gや4G/LTE通信の世界標準となる "3GPP" に準拠する技術が開発されたことが大きい。

 LTEは送信機とドローン間を通信し、飛行制御や映像伝送に使われる。地上とは異なり、空は見通しが良いため、上空から電波を発すると地上の通信に影響を及ぼす可能性がある。そこで、NTTドコモはネットワークを介して送信電力と周波数を制御する技術を開発した。その結果、携帯電話と同じLTEを使いながらも、上空利用の場合は限定的な周波数で弱めの電波に制御し、地上に影響がでない通信を確立した。通信事業者であれば、地上で使われているモバイル回線をそのまま上空に提供するだけでサービス化できると思われがちだが、3GPPに準拠するための技術開発が必要となり、NTTドコモはこれをいち早く成し遂げた。

エアロセンスの「AEROBO wing」を使った実証実験では、LTEを用いて北海道の千歳川で10kmの飛行に成功している。レベル3の目視外飛行として実施し、各地点に5名の補助者を配備。高度150mでも運用に問題はないという。

 NTTドコモが開始したLTE上空利用プランは、月額4万9800円(税込)で月額データ容量は120GB。サービスへの加入は全国のドコモショップで受け付けており、契約後に渡されるSIMカードを使ってLTEを利用する。そのため、契約は1機のドローンに対して1個のSIMとなり、複数台の同時飛行には、複数契約が必要となる。同じエリアで飛行させる機体上限は数十機まで可能だという。なお、契約時に機体は登録しない(飛行申請時に複数台事前登録可能)ので、複数台所有する利用者はどのドローンで利用しても問題はない。

 前述したように、電波はネットワーク側で制御される。これはさまざまな通信モジュールに対応するためにNTTドコモがもっとも重要視した部分となる。搭載した通信モジュール側で電波制御する技術はすでに開発されていたが、ネットワーク側(通信)で制御することによって、機材に左右されることなく、すでに各メーカーで搭載済みのLTE通信モジュールへの対応が可能になり、LTE対応ドローンであればモジュールの種類を問わずにLTE上空利用プランが利用できる。

 提供する120GBの通信量は主に映像伝送のほか、位置や高度などのセンサー情報の取得でも消費し、120GBを超えた場合には1Mbpsの速度制限が発生する仕組みだ。なお、事前に通信量の追加を設定しておくことで、1GBあたり1100円(税込)で購入できる。担当者は「万が一、事前に設定を忘れてしまった場合には、映像伝送の遅延や画質が落ちる可能性がある。しかし、ドローンが操縦不能に陥ることはない。ドローンでいう120GBは十分な通信量で、1フライト20~30分のドローンにおいて1ヵ月で消費するには、相当な回数を飛ばす必要がある」と説明した。

携帯電話事業者への申請がいよいよサービス化!予約がスピーディーに

飛行申請にはdアカウントへの登録が必要。専用サイトから予約後、リアルタイムで飛行の可否が通知される。

 LTE上空利用プランの魅力はLTEの提供だけではない。LTEの上空利用の申請先がNTTドコモになったことが、利用者にとって最大のメリットとなる。2020年12月に制度整備した狙いには、一般用途でのLTE提供のほかに、申請の簡素化があげられる。従来は総務省への申請から、利用許可の取得には2~3ヵ月を要していたが、新たに通信事業者が許可する形態になったことで、申請日の翌日から飛行が可能になった。

 NTTドコモの予約サイトから飛行日時、エリア、飛行高度、台数を申請することで、飛行の可否は予約直後に受け取れる。これはシステム上でロジック的に判断され、同一時刻・エリア(1km四方)で飛行する利用者が複数いないかなどが判断基準となっている。そして、飛行可能であれば、翌日からLTEの上空利用が認められる。なお、これは電波利用の予約となるため、飛行の許可認証は今まで通り、国土交通省に申請する必要があるので注意が必要だ。

 最後に担当者は「直近ではレベル3、4の目視外飛行を見据えて、提供開始に踏み切った。LTEの上空利用は主に物流配送での利用が考えられるが、7月3日に発生した熱海市の土砂災害の調査では、操縦者が災害現場の近くから飛行させており、LTEを使えば安全に離れた場所から調査ができる。このように災害対応でも有用な活用が期待できる。また、NTTドコモとしてはレベル4の先を見据えており、ドローンが飛び交う世界やエアモビリティが実装された社会でも欠かせない通信だと考えている。将来、ドローンやエアモビリティの利用者が増え、地上向けとは別にドローン用のエリア整備が必要になった場合には、携帯電話事業で培った経験を活かしていきたい」とコメントした。