2021年前半は、ACSLやブルーイノベーションが相次いで点検用途の機体を定額で一定期間貸し出すプランを発表して、「サブスクリプションサービス」というワードが注目を集めた。機体と映像管理クラウドサービスと操縦講習をセットにした定額サービスを提供するLiberaware(リベラウェア)や、業務特化型アプリケーションを開発してサブスクサービス提供するセンシンロボティクスは、サービス強化と売上拡大にアクセルを踏む。そこで、国内ドローン企業5社に取材し、サブスクサービスが求められる背景や、各社が提供するサービス内容と今後の展開などをまとめた。

「初期費用を抑えたい」顧客ニーズに対応

 まず、2021年前半の動きを振り返ると、2月24日にブルーイノベーションが「工場・プラント施設点検向けドローンのサブスクリプション型サービス」の先行予約受付を開始し、4月からサービスを提供している。想定顧客は、石油精製、製鉄、電力、環境、製造などの工場・プラント施設だ。

 主なサービス内容は、同社が代理販売を行う球体型屋内設備点検ドローン「ELIOS 2」(スイス Flyability社製)の貸し出しだ。オンラインでの運用サポート相談、飛行時間に応じたメンテナンス、保険(動産と施設賠償)への加入、修理時の代替機の提供も含まれている。また、別途費用はかかるが初期導入講習や「JUIDAプラント点検スペシャリスト養成コース」の受講、2021年6月にリリースされたばかりのELIOS 2 専用解析ソフト「Inspector 3.0」の使用もオプションとして用意されている。契約期間は、1ヶ月、3ヶ月、1年、3年から選ベる。

「ELIOS 2」(スイス Flyability社製)

 サービスリリースの背景には、点検ドローン導入の「初期費用を抑えたい」という顧客からのニーズがあったという。「ELIOS 2」1機あたりの購入単価は数百万円となり施設の上長決裁権限の上限を超えてしまうことが多いが、サブスクサービスであれば月額数十万円程度(価格非公表)となるため稟議を通しやすくなるほか、機体をレンタルして使用すれば資産計上せずに経費処理できるという財務上のメリットも大きい。機体のバージョンアップ時に機種変更しやすいという柔軟性もある。

(資料提供:ブルーイノベーション)

 国産ドローンメーカーであるACSLも2021年5月11日に、主力製品である中型機「PF2」をインフラ点検向けにカスタマイズした専用機体を定額で一定期間貸し出すサブスクサービスを発表した。やはり「初期費用を抑えたい」という顧客ニーズへの対応だ。また、「四六時中は使わないからシェアリングしたい」「ここぞという時だけ、ハイスペックカメラを搭載したい」など、期間や用途を限定したピンポイント利用への要望も多かったという。

 今回、ACSLがサブスクサービス対象として用意した専用機体は3機種。そのうち2機種はGPS環境下での自動飛行が可能な「PF2インスペクション」で、1億画素と6100万画素の2種の搭載カメラで異なるカスタマイズとなる。そしてもう1機種は、非GPS環境下である煙突内部で自動飛行できる「PF2 煙突点検カスタマイズ」で、高輝度LEDを搭載した。

1億画素カメラ搭載の「PF2インスペクション」(画像提供:ACSL)
煙突点検用カスタマイズ(画像提供:ACSL)

 いずれも、すでに販売と運用の実績がある仕様について、サブスクサービスへと提供形態を変えた格好だ。サービス内容には機体の貸し出しのほか、故障時の代替機提供(上限あり)、定期メンテナンス、施設賠償(対人と対物)保険付帯、現地またはオンラインでのサポートなどを含む。契約期間は3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月で、価格は非公表だが月額数十万円から、期間と機種により異なるという。ちなみに、ACSLは取得データを管理するためのツールは提供しておらず、データ活用においてはユーザー企業が自社システムまたは独自契約の外部解析ソフトなどを使用する。

(資料提供:ACSL)

 このサービス発表後、太陽光パネル点検や橋梁点検などへの展開について引き合いもあるとのことで、今後もラインナップが拡充していくとみられる。定額で一定期間内に、用途に合わせて機体を選び放題になってくると、“サブスクサービス” のメリットがより際立ってくるかもしれない。

サブスクだからこそ、運用に寄り添える

 国産ドローンメーカーのサブスクサービスという点では、SkyDriveも物流領域においてサービス提供を開始している。点検などでドローンを使うのが当たり前になった建設系や電力系の企業における「次はドローンで物資運搬も」という流れに、いち早くキャッチアップした形だ。

 正式なサブスクのプラン公表はまだ先とのことだが、現在SkyDriveは、これまで実証実験で協働した顧客などに限り先行してサービスを提供しているという。具体的な用途は、高低差のある山岳地帯で片道約1kmを往復する鉄塔の資材運搬など。こうした重労働や危険作業は、インフラ業界における深刻な担い手不足の一因との指摘もあり、経営課題に上がっているのだ。

 主なサービス内容は、最大積載重量30kgの物流ドローン機体の貸し出しと、初期の導入支援、故障時の代替機提供、施設賠償(対人と対物)保険付帯など。基本プランで提供する機体は目視飛行を想定する。サブスクサービスの価格は、月額38万円~。またオプションでは、着陸が困難な場所でも上空から荷物を地面に下ろすことができるホイスト機構や、目視外飛行に必要となるカメラや映像伝送用送受信機を装備できる。

最大30kgの荷物を運搬、着陸せずに荷下ろしするホイスト機構(画像提供:SkyDrive)
可能な限り現場付近まで車両で行けるよう設計された、ワンボックスカーにおさまる機体サイズ(画像提供:SkyDrive)

 ただ、物流ドローン導入の目的を事故リスク回避や安全性向上とした場合、経済効果が測りづらく導入を躊躇するケースもあるようだ。他方、例えば「苗木を運びたい」といった従来とは全く異なる用途での相談も上がっているという。メーカーとしては、運びたいものに合わせて製品のカスタマイズが必要になるなか、いかに汎用性の高い機能を見極めて技術開発を進め市場拡大を図っていくか、巧みなハンドリングが求められる。

 こうしたなかでサブスクサービスの提供は、ユーザー企業は常に最新の機体や運航管理システムを使うことができ、ドローンメーカーは顧客との密接な関係性を維持したうえで、顧客ニーズに即した技術開発と事業開発を進められるという利点がある。その要としてSkyDriveは、運用現場で顧客をサポートするカスタマーサクセス部門に注力し、今後も顧客接点を強化していく。

用途の明確化とデータ活用の支援

 このようななか、機体のレンタルを主力事業へと成長させている国内ドローンメーカーがある。小型産業用ドローン「IBIS」を開発するLiberaware(リベラウェア)だ。「『狭くて暗くて汚い設備専用の小型ドローン』及び画像解析の技術で、世界の製造業・建設業の生産性と安全性向上に貢献する」というビジョンを掲げ、高精度防塵モータ、プロペラ、コントローラ基盤一体型フレーム、「IBIS」専用の超高感度カメラなど、機体部品の約90%を自社開発している。

「IBIS」屋根裏点検の様子(画像提供:Liberaware)

 従来は、「IBIS」をLiberawareのパイロットが現場に持ち込み、スポットで点検を行うサービス提供が主力事業となっていたが、2020年春頃より本格的にスタートさせた機体を定額で1年間貸し出すレンタルサービス(サブスクサービス)の会員企業が徐々に増加しており、2021年8月からの新年度は、会員数増加と毎月課金の積み上げで売上規模は格段に上がる見込みだという。顧客が機器を使いこなしビジネスに活用できることにコミットしてきたという同社CEOの閔氏は、「ドローンメーカーとしてハード及びソフトの技術者を多く抱えているからこそ実現できているサービスだと思う」と話す。

 レンタルサービスの主な内容は、「IBIS」2機の貸し出し、破損時の無償交換(壊し放題・紛失の場合は有償)、新モデルリリース時の旧モデルとの無償交換、専用タブレットPCの貸し出し、動画データを保存や編集できるクラウドサービス、映像データから3Dデータ、点群データ、オルソ画像への自動処理サービスと幅広く、画像は処理し放題。さらに、会員企業の全社員を対象にした毎月開催の定期操縦講習も参加し放題で、これらすべてを定額プラン内で提供している。契約期間は1年間で、価格は月額40万円。

レンタル機器一式(画像提供:Liberaware)
(資料提供:Liberaware)

 Liberawareは当初より、「狭くて暗くて汚い場所の点検や警備」と用途を明確化して、開発者(パイロット)が顧客の現場で業務を行うことで運用に寄り添いながら、ハードウェア、ソフトウェア、サービスを同時に開発してきた経緯がある。その結果として動画保存管理、画像処理し放題、操縦講習会参加し放題というサービス拡充を図り、機体レンタルの付加価値を向上しレンタル事業を成立させた。

 今後はAIによるヒビ検知などの機能追加でデータ活用を支援する事業を強化するほか、将来的には施設の建設段階からデータを取得するなどしてデータプロバイダ事業の加速を狙うという。

顧客の「データドリブン経営」に役立つソリューションを

「ドローンを使っていかにデータを取得するかだけではなく、最終的にデータをどう経営に活かすかまで寄り添ってソリューションを開発することが重要だ」と話すのは、センシンロボティクス代表取締役社長の北村氏だ。同社は、早くから「DaaS(Drone as a Service)」を唱えて、ドローンによる業務の完全自動化を実現するためのクラウドをベースとした統合プラットフォームをサブスク型で提供してきたが、2021年に入ってから、その思想はそのままに、ソフトウェアのアーキテクチャを抜本的に刷新した。

 従来のプラットフォームには、フライトプラン・実績データの一元管理、複数機での同時飛行やさまざまなメーカーのドローンへの対応、UTM(無人航空機管制)への接続などの機能を備えていたが、現在はハードウェアとプラットフォーム、その上層で業務に最適化されたアプリケーションが動くという三層構造に変更したという。

(センシンロボティクス ホームページより引用)

 Microsoft Azure(一部AWS)に集約したプラットフォームには、ドローンやロボットの経路計画を立てるPilot、ロボットの自律制御を行うEdge、データを管理するDatastore、映像を伝送共有し遠隔制御するMonitorなど、汎用的に使えるモジュール群を用意。そしてモジュールを組み合わせてUI/UXを作り込むことで、業務特化型アプリケーション開発の高速化を実現した。

 アーキテクチャ再設計の背景には、2つのポイントがある。1つは、顧客の経営課題を解決するためには、フライトするドローンに限定せず、地上を動くローバー、四足歩行ロボット、定位置固定のIoT機器や360°カメラ、水中ドローン、xRデバイス機器など、多様なデバイスから最適なものを選んで統一されたプラットフォームで動かせる必要があること。もう1つは、本当に現場実装していくためには、ユーザーのITリテラシーに関わらず誰もが簡単にミッションを実行できるアプリケーションが求められていることだ。

 現在は、ソーラーパネル点検、石油タンク点検、鉄塔・送電線点検、屋根点検に特化した業務アプリケーションとデバイス、カスタマーサクセス、その他付帯サービスをサブスクサービスとして提供しており、今後も計器・配管点検をはじめとするさまざまアプリケーションを開発予定。価格は非公表だが、ルート設計、運用マニュアルの提供などを含む初期費用と、毎月定額でのアプリ利用料に大別される。このほか運用中の設定調整や、使用するデバイスによるプラットフォームとのインテグレーションなどで、案件によって価格帯は大きく変動するというが、カスタマーサクセスチームが運用支援を行うなどして、売上は着実に積み上がっているようだ。

現場の情報を360°パノラマVRで管理できるクラウドアプリ「SENSYN 360」の画面。プラント施設など設備点検管理業務で使用するアプリケーション(画像提供:センシンロボティクス)
「石油タンク点検」の画面(画像提供:センシンロボティクス)
「ソーラーパネル点検」の画面(画像提供:センシンロボティクス)

 事業戦略も明確だ。国内GDPの約1%、約5兆円ともいわれる国内インフラメンテナンス市場を狙い、業種は石油、鉄、電力、建設を中心に重厚長大企業に注力する。これまで数年かけて、この4業種のトッププレイヤーと実証実験を重ね、ソフトウェア開発を進めてきた。これからは、今回のアーキテクチャ再設計で業務アプリケーションのサブスクサービス提供に弾みをつけ、各業界内にソリューションを横展開するフェーズに入るという。

 センシンロボティクスがこのような構想を具現化できたのは、北村社長が日本IBM、日本マイクロソフト、SAPといったIT企業を渡り歩いたキャリアの持ち主で、“プラットフォームとアプリケーションのレイヤーを分けて考える” というSaaSツール開発のスタンダードに精通していたことも大きく影響しているようだ。いまさらに進めているのが、SAPなど顧客の基幹系システムとのAPI連携だ。

 北村社長は、「取得データが僕らのシステムの中だけにあるのでは意味がなく、例えば修繕計画に活かされるなど、データドリブン型の経営に役立つようソリューションを磨いていくことが重要。そうでなければ、何のためにドローンを入れたんだったっけ、という自問自答に必ず陥る」と話す。

 だとすれば、ドローンメーカー側にも同じ視座が求められる。SDKの公開やAPI連携への柔軟な対応は、エンドユーザーの使い勝手向上や開発コスト低減などの観点でより重要になっていくのではないだろうか。今後も、国内ドローン「サブスクリプションサービス」の伸びしろをウォッチしていきたいと思う。