国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は4月13日、災害対応やインフラ点検、監視・捜索などに対応した国産ドローンを開発するプロジェクト「安全安心なドローン基盤技術開発」の成果を東京都内で発表した。本事業は2020年度から2021年度にかけてNEDOの支援・助成のもと、自律制御システム研究所(ACSL)やヤマハ発動機、NTTドコモなどが参画。今回の成果発表ではローターアームを折りたたみ式とした重量約1.7kgの小型ドローンが公開された。

APIの公開など今後の国産ドローン開発の基盤に

 経済産業省は2020年1月にNEDOを通じて「安全安心なドローン基盤技術開発」事業を公募。同年4月からACSL、ヤマハ発動機、NTTドコモ、ザクティ、先端力学シミュレーション研究所の5社が参加して、小型ドローンの開発を行ってきた。このプロジェクトは、近年、産業用途や公共サービスでドローンの利用が拡大するにつれ、取得した画像をはじめとするさまざまなデータのセキュリティと、これまで比較的大型のモデルに限られていた国産ドローンの中で、扱いやすい小型ドローンという2つのニーズに対して、国が主導する形でセキュリティに優れた国産ドローンを開発するというものだ。

「組織で利用する場合、ドローンで取得する画像やフライトログといった情報は事業の源泉であり、それを守りながら“安全安心”に運用することは、事業を継続する上で必須の条件」と説明する金谷明倫NEDO ロボット・AI部統括主幹。

 本プロジェクトは2020年度から2021年度にかけて実施中。総予算は16億1000万円となっており、この中で委託事業と助成事業に分かれている。委託事業は、「政府調達向けを想定した高い飛行性能・操縦性、セキュリティを実現するドローンの標準機体設計・開発及びフライトコントローラー標準基盤設計・開発」とされ、性能検証のために関係省庁等と連携し、試作機を用いてエラー情報などのフィードバックを踏まえて、性能をブラッシュアップしていくアジャイル開発を行うとしている。

 また、助成事業は「研究・開発される標準仕様に合致する機体、並びに主要部品の量産・供給・保守の体制構築及び継続的な性能・機能をブラッシュアップする体制の構築」となっており、単に新しいドローンを開発するというだけでなく、量産や保守、さらには廃棄までの体制を構築するというものだ。

本事業はACSLを中心にヤマハ発動機、NTTドコモ、ザクティ、先端力学シミュレーション研究所が参画する形で進められている。

 さらに、委託事業の成果としてフライトコントローラーのAPIを公開することとなっており、「画像解析アプリケーションやデータマイニングといった付加価値サービスと直接連携させたり、より高性能な互換部品やカスタム部品を製作していただくことで、本事業によって開発される標準ドローンの価値を向上させ、逆に主要な部品を共有した派生のドローンを開発したりすることで、産業クラスターの醸成に期待が持てる」(金谷氏)としている。

オールジャパン体制でコンポーネントを開発

 今回披露されたのは、約650mmスクエア、重さ約1.7kgというサイズで、約30分の飛行が可能なクワッドコプター。IP43という防塵防水規格に対応し、ローターアームを折りたたむことが可能なものとなっている。前方、上方、下方にステレオカメラと赤外線センサーを備え、衝突回避機能を実装。また、来年6月に完全施行される機体登録制度のリモートIDに対応しており、Bluetoothのトランスポンダを搭載するとしている。

開発中の機体について説明する鷲谷聡之 自律制御システム研究所 代表取締役社長 兼COO。

 本プロジェクトは単に新しいドローンを開発するというだけでなく、日本のドローンの基盤技術を作ることが目的となっており、既存のパーツを使うのではなく、さまざまなコンポーネントを独自に開発している。例えばプロペラは先端力学シミュレーション研究所が主体となって、シミュレーションと試作を繰り返して高い静音性を実現。また、筐体やモーター、バッテリーなどは、「ヤマハ発動機の量産経験をもとに、高い品質と信頼性を備えた」(鷲谷氏)ものとなっている。

 おもにザクティが担当しているカメラには、2000万画素の1インチセンサーを備えた標準カメラに加えて、可視光と赤外線のカメラを搭載したコンボカメラ、さらにはマルチスペクトルカメラをオプションとして用意。これらのカメラを簡単に交換できる仕様となっている。ドローンの頭脳となるフライトコントローラーは、ACSLとNTTドコモが共同で開発を行い、「クラウドシステム、セキュリティ、通信を一気通貫で実装した。セキュリティはISO15408コモンクライテリアのセキュリティ評価基準に対応している」(鷲谷氏)という。

公開された開発中のドローン。折りたたみ式のローターアームを備えたクワッドコプターで、DJIのMavic 2シリーズを彷彿とさせるスタイルとなっている。
サイズは全長650mm、全幅600mm、全高150mmで、重量約1.7kgと、Mavic 2シリーズに比べるとかなり大きい。
機首には衝突回避機能のためのステレオカメラを搭載し、その下面にはジンバルカメラを備える。
ヤマハ発動機がおもに開発を担当したブラシレスDCモーターを採用したローター。
機体後方上面にはペイロードを搭載できるベースと、上方の衝突回避のためのステレオカメラ、赤外線センサーを装備。
送信機(コントローラー)はコンベンショナルな2スティックタイプ。中央にスマートフォン用のホルダーを備える。
上面の左右にはレバーとボタン、ダイヤルと折りたたみ式アンテナを装備。USB Type-C端子は上下面に見受けられる。
専用のプロテクトハードケースも展示されていた。
ザクティが開発した2000万画素1インチセンサーを採用した標準カメラ「CX-GB100」。動画は4K30p、静止画は約2000万ピクセルの写真が撮影できる。
1200万画素1/2.3インチの可視光センサーと、320×256ピクセルの赤外線センサーを組み合わせたコンボカメラ「CX-GB200」。形状からFLIRのHadronを採用していると思われる。
計測用途に合わせてフィルターを交換する形で、NDVI(正規化差植生指数)などの測定が可能なマルチスペクトルカメラ「CX-GB300」。
流体力学シミュレーション研究所が参画して開発したプロペラ。シミュレーションを用いて高効率と低騒音性を両立させた翼形状となっている。
GCSはスマートフォンなどのアプリという形で提供。セキュリティを保つ形でクラウドと連携して、フライトプランの作成やログの管理などができる。
本プロジェクトのテーマとなっている基盤技術開発を示した図。こうした技術はフライトコントローラーのAPIの公開をはじめ、今後、国産ドローンの開発に役立てられる。

「このドローンの普及のカギは価格」

 発表会ではプロジェクトと機体の説明に続いて、「安全安心なドローン基盤技術開発」事業を所管する経済産業省の川上悟史氏も登壇。「近年、産業分野や公共サービスにおいてドローンの利用が進むにつれて、セキュリティは万全なのかという見方が政府内にある。特に政府機関で使うとなると、通信やフライトログは非常に機微な情報であり、写真などの取得データの漏えいやどこに保存するのかといった問題もある。そこで経済産業省では今回のプロジェクトを始めるにあたって、このドローンを利用するであろう各省庁を回って、どういうニーズがあるのか、どういった機能が求められるかを聞き、それを仕様に落としこんだ」(川上氏)という。

本プロジェクトの意義を説明する川上悟史 経済産業省 製造産業局 産業機械課 次世代空モビリティ政策 室長。

 また川上氏は「いわゆる “国プロ(国主導のプロジェクト)” において、ベンチャー企業が中心となった座組みという点で今回のプロジェクトは画期的」だという。「日本では大企業からイノベーションが生まれにくいといわれる中で、ベンチャーが “0から1” にすることを機動的にやりながら、その一方で、ヤマハ発動機やNTTドコモが量産や品質保証といった、大企業が得意としているところを担う形で、ベンチャーと大企業が手を携えてイノベーションを起こしていくという、まさにイノベーションエコシステムを体現したのが今回のコンソーシアム」(川上氏)だと評価した。

「安全安心なドローン基盤技術開発」事業は、委託事業としては7月31日をもって終了し、成果報告書の提出と公開を60日以内に行うとしている。また、助成事業も11月30日に終了する予定となっており、この後、実際に開発されたドローンがACSLなどから販売されると見込まれている。川上氏によると、「プロジェクト終了前の、まだ機体が完成していない段階で発表するというのはあまり例がない」という。それは「この開発されたドローンで市場を取っていきたいという強い思いがある。そこで、まだ機体は完成していないがその形を示すことで、このドローンのユーザーとなってもらいたい人たちに、早い段階から導入を検討してもらい、さらに実装してもらいたい機能などをフィードバックしてもらいたい」と、この段階で公開した意義を説明した。

 川上氏に続いて産業用途としてドローンを利用するユーザーを代表する形で、グリッドスカイウェイ有限責任事業組合の紙本斉士氏が登壇。「これまで、送電線や鉄塔の点検で利用できる大型機はあっても、小型機では選択肢が限られていた。ドローンの技術はいろいろあるが、今回発表された仕様を確認した中でも、先進的な機能が付いていて楽しみだ。今後の現場での利用を考えると、送電網を “点” ではなく “線” で見る、そういった仕様が実現することに期待したい」と評した。

新しいドローンへの期待を述べる、紙本斉士グリッドスカイウェイ有限責任事業組合チーフエグゼクティブオフィサー。

 今回発表されたドローンについて、プロジェクトの取りまとめ役である鷲谷氏は「100点満点で120点」と評価。「特にこのプロジェクトがスタートしたのは、昨年の緊急事態宣言の中であり、今年1月から3月にかけても緊急事態宣言が発令された。その中で開発拠点が全国に散らばっている参画5社の間で、リモートワークを駆使しながらモノづくりをするのは決して容易ではない。そんな高い難易度の中で、各社が円滑にコミュニケーションできる工夫をして、成果を上げてきたことには大きな意義がある」と鷲谷氏。さらに、「今回発表したのはあくまでも開発中の機体であり、これから事業終了に向けて、このプロトタイプから高い品質を実現し、量産体制に持っていくことが大きな壁だ」(鷲谷氏)と説明した。

 また、機体の販売については、「NEDO事業終了後、この成果を持ってプロジェクト参画各社と調整の上で、ACSLのブランドとして販売したい」と鷲谷氏。その価格について川上氏は「普及に向けては価格が重要であり、価格が市場にはまっていかないと意味がない。そのため、政府機関と民間でひとつでも多く導入してもらい、コストが下がる流れを作ることがキモ。国プロでできたものは高くつく、という期待を裏切るものにしたい」と考えを述べた。

 これに対して鷲谷氏は「プロジェクトが掲げる政府調達だけで投資が回収できるかというと “ノー” だ。そのため日本国内だけでなく、ACSLにとって足がかりがあるシンガポールやインドなど海外を含めて販売していかないと、数量が出ないのでコストが下がらない」と説明。今後、今年秋頃と見込まれる本プロジェクトで開発されたドローンの販売に向けて、機体の仕上げはもちろん、量産技術の開発や販売・サポートから廃棄までを見据えたという、エコシステムなどの体制作りが行われる。その中では、普及のカギを握る価格に大きな関心が集まるところだ。