携帯電話の上空利用解禁による目視外飛行を視野にLTEモジュールを搭載

 機体の制御にはエアロセンスが独自に開発したフライトコントローラーを採用。さらにNVIDIAのJetson TX2を同一基板で統合し、高度なエッジコンピューティングを実現。また、携帯電話ネットワークに接続できるLTEモジュールを標準搭載しており、携帯電話の上空利用が認められれば、送信機との通信距離に縛られない長距離飛行が可能。もちろん、2.4GHz帯を使った地上との直接通信システムも装備。地上のPCから直接通信、もしくは携帯電話ネットワークを経由した制御が可能となっている。

2.4GHz帯の電波を使って機体の制御とテレメトリー情報を受け取るためのアンテナ(右)とPC、バッテリー、送信機。バッテリーは6セル10000mAhのものを使用している。

 1kgのペイロードには、ソニーのレンズ交換式カメラ「UMC-R10C」やMicaSenseのマルチスペクトルカメラ「ALTUM」をはじめ、機体搭載のオンボードコンピューターを活かしてさまざまなセンサー類を選択可能。また、災害時の緊急支援物資や薬といった物資を搭載することもできる。同社では開発の過程でさまざまな分野での活用を想定した検証を実施。河川のモニタリング事業では、面積約100ha、延長約2kmの河川敷をエアロボウイングで撮影。「マルチコプターなら30フライトで3日間くらいかかる撮影が、エアロボウイングならわずか1フライト20分で完了した。VTOL型ドローンを使えばこうした河川管理の業務が大きく変わる」(佐部氏)という。

オプションのひとつであるソニー製のレンズ交換式カメラ「UMC-R10C」。APS-Cサイズの2000万画素CMOSセンサーを搭載し、飛行高度や地上分解能に合わせてレンズ交換ができる。
エアロボウイングを使って鬼怒川の河川敷を2kmに渡って撮影し、データをエアロボクラウドにアップロードすることで3Dモデル化したもの。飛行時間はわずか20分だった。

 日本製としては初の本格的なVTOL型ドローンとなるエアロボウイング。海外ではこうしたVTOL型や固定翼型ドローンが数多く活用されているが、そういった活用例が多い国に比べて国土が狭く、また航空法の規制が厳しい日本では、VTOL型や固定翼型ドローンの利用例はマルチコプター型に比べてはるかに少ない。「山間部や河川をはじめとしてVTOL型ドローンに対する要望は多い。飛行する場所の多くは無人地帯だが、どうしても人の上を飛ぶことになってしまうケースもある。『空の産業革命に向けたロードマップ』では2022年にはレベル4の飛行を実現するとあるが、まだまだ人の上を飛ぶためのハードルは高い。VTOL型ドローンが普及するためには、こうした規制を変えていくように働きかけていくしかない。そのために問われているのは“実績”であり、これからエアロボウイングに対して何万時間という実績を積み重ねていきたい」(佐部氏)としている。

 エアロボウイングの価格は機体のみで500万円(税別)で、10月からデリバリーが開始される。また、エアロセンスのマルチコプター型測量用ドローン「エアロボ」同様、半年に1回の定期点検サービスを用意しており、点検のうえ消耗品などの交換が受けられることに加えて、さらに追加で半年のメーカー保証を付けるとしている。用途としては測量、精密農業、点検、物資輸送を想定しており、特に自治体や農林水産系の団体、事業者などからの引き合いが多いという。当初の販売台数は100機としており、「日本国内ではまだまだ目視外飛行は普及しておらず、まずはそういった規制をクリアしつつ、1年程度かけて目標数を販売していきたい」(佐部氏)としている。

8月27日には茨城県守谷市において飛行デモンストレーションを実施。垂直離着陸から水平飛行、着陸までのVTOL機ならではのフライトを披露した。(出所元:エアロセンス)
デモフライトで固定翼機らしいスピードの水平飛行を見せるエアロボウイング。(出所元:エアロセンス株式会社資料より)
「Aerobo Wing - AS-VT01 : Faster, Farther (Aerosense VTOL aircraft)」(エアロセンスのYouTubeより)