4月1日、日本のドローンに関する施策を議論する「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」は、2022年度に実現するとしている“有人地帯の目視外飛行(レベル4)”に向けて、新たにドローンの機体認証や操縦ライセンス(技能証明)といった制度を設けることを含む制度のイメージを公表した。今後、2020年度中に具体的な内容を詰めていくとしており、2021年初に開かれる通常国会にその一部が提出され、可決されれば2021年度中に施行となる見込みだ。

「機体認証」と「操縦ライセンス」の制度を新たに創設

 政府ではドローンの利活用推進を目的として、2015年12月に「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」を設置。この協議会の成果として、2017年5月には「空の産業革命に向けたロードマップ~小型無人機の安全な利活用のための技術開発と環境整備~」をとりまとめ、レベル1~4という4段階のドローンの利活用の段階を定義した。そしてこの中で2020年代ごろには有人地帯の第三者上空目視外飛行(レベル4)の実現を目指すとしていた。
 このロードマップはその後毎年改定され、2019年6月にとりまとめられた2019年度版では、レベル4の実現を“2022年度~”と、その時期を具体的に示した。また、2019年6月21日に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」では、レベル4の目視外・第三者上空飛行を2022年度に実現させるために、「認証制度などの機体の安全性確保」「操縦者・運航管理者の技能確保制度」「複数のドローンの運航管理制度」「機体・所有者情報の登録制度」「被害者救済のあり方」といった制度設計の基本方針を2019年度中に決定するとしていた。

 そこで官民協議会では「無人航空機の目視外及び第三者上空等での飛行に関する検討会」の中に、「機体登録」「機体認証」「操縦ライセンス」「運航管理(UTM)」の各テーマを検討するワーキンググループ(WG)を設置し、官民から有識者や業界団体の代表などが集まり、その内容を検討してきた。そして2019年11月28日には「小型無人機の有人地帯での目視外飛行に向けた制度設計の基本方針の策定に係る中間とりまとめ」を公表。
 その中では、レベル4の実現に必要となる制度として、機体の仕様や運航形態等に応じた “リスクをもとに適切な安全対策を適用するリスクベースの考え方の活用”や、“今後現れる新たな技術も柔軟に活用することが可能となるような安全基準を策定していくパフォーマンスベースの考え方を取り入れていくことが重要である”ことを掲げている。特にレベル4においては第三者上空を飛行するために、“「使用する機体の信頼性」、「操縦する者の技量」及び「運航管理の方法」が、飛行のリスクに応じて適切であることを、これまで以上に厳格に担保する仕組みが必要である”としている。
 さらに今後レベル4の飛行で荷物配送をはじめとした多くのサービスが広く、そして継続的に実施されることを踏まえると、飛行ごとに厳格な機体などの審査を行うのではなく、航空機や自動車のようにあらかじめ国が機体や操縦者の安全性を証明することで、個別の飛行ごとの手続きを簡素化することが必要であるとしている。

 この中間とりまとめで掲げられた施策のひとつとして、先行して実施されることとなっているのが機体の登録制度だ。ドローンの墜落や所在がわからなくなるようなトラブルが発生した際に、あらかじめ機体情報と所有者情報を登録しておくことで、機体の所有者を特定することができるこの登録制度。そのための航空法改正案が2月28日に閣議決定され、第201回通常国会で審議されている。同法案が可決されれば、2020年度中にも制度が施行される見込みだ。
 登録制度ではドローンの種類、形式、製造者、製造番号、所有者の氏名・名称と住所、使用者の氏名・名称と住所を登録し、国から通知された登録記号を機体に表示しなければ飛行してはならないとしている。また、ドローンに安全上の問題がある場合には、国が登録を拒否したり、登録後に問題が生じた場合は是正命令を出すことになっている。この機体登録は、現在、航空法の許可・承認が必要な飛行以外のケースでも求められ、オンラインによる登録の仕組みが今後整備される見込みだ。
 また、この改正航空法とは別に、3月25日には「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領」が改定され、許可・承認の申請にあたっては、機体の所有者氏名や企業・団体名、連絡先を登録することが求められるようになっている。

機体認証や技能証明は、航空機や自動車の制度になぞらえる

 今回発表された「有人地帯の目視外飛行(レベル4)の実現等に向けた制度の全体イメージ」では、「機体認証」と「操縦ライセンス(技能証明)」という制度を新たに設け、さらに「運航ルール」を加えた3つを、3段階の飛行リスクに応じて求めるとしている。実はこれまでの航空法の許可・承認においても、「機体」「操縦者」「運航ルール」については、飛行(の申請)ごとに航空局で審査を行ってきた。許可・承認申請書では「無人航空機の機能・性能に関する基準適合確認」が機体の審査にあたり、「無人航空機を飛行させる者に関する飛行経歴・知識・能力確認」が操縦者の審査にあたる。

 新たに示された“制度のイメージ”では、これら機体と操縦者の審査を申請の都度行うのではなく、一定の水準に基づいた審査をあらかじめ行っておくことで、機体と操縦者については飛行ごとの審査を省くというものである。機体認証については航空機の耐空証明や自動車の型式証明にあたり、ドローンの安全性が十分にあることを、設計・製造過程や実機検査などを通じて判定し、運用限界を指定するものだ。また、ドローン一機ごとに検査をすることは効率が悪いため、量産される機種については航空機や自動車同様、設計や製造過程で検査を行い、型式として認証を行う仕組みが必要だとしている。また、この機体認証については、整備点検義務や整備改造命令、認証の有効期間、改善措置といった仕組みも求めている。

 一方、操縦者については新たに操縦ライセンス制度を創設。ドローンを“安全に飛行させるために必要な知識及び能力を有していることを確実に判定するため、学科や実地による試験を行う必要がある”としており、その能力には操縦だけでなく、気象状況などを分析した上での適切な飛行計画の作成能力をはじめ、運航管理全般の能力を含むべきだとしている。また、回転翼、固定翼といったドローンの類別や目視内、目視外といった飛行方法によって限定すると同時に、年齢制限や有効期間、身体要件、行政処分といった仕組みも求めているほか、訪日外国人等については外国での飛行状況を確認して飛行を許可するなどの環境整備も掲げている。

 また、こうした機体認証と技能証明については、民間講習団体のなかで国が指定した講習団体の養成コースを受講した場合には、国による試験の一部や全部を省略できる仕組みや体制も挙げている。こうした民間講習団体が試験などを行う場合には、指定にあたってのカリキュラムの共通化や教官・施設の要件などを定め、指定機関のレベルを揃えるべきだとしており、さらに、こうした民間講習団体に対する指導監督を厳格に実施できる体制も求めている。

カテゴリーⅡとⅢでは求められる機体認証と技能証明が異なる

 今回打ち出された“制度のイメージ”では、とりわけ操縦ライセンスの創設に耳目が集まっているが、もうひとつのポイントが、ドローンを飛行させることによるリスクを3つに分類し、それぞれのリスクに応じた要件を設けるということだ。今回公表された資料によると、リスクの低い飛行形態から、カテゴリーⅠ、カテゴリーⅡ、カテゴリーⅢとリスクレベルを3段階に分類している。
 その中でも今回掲げられた制度の最大の目的であるレベル4の飛行をカテゴリーⅢに定義し、第三者の上空を飛行することもあって、これまで以上の安全性の担保を要求。そこで機体の信頼性を確保するための「機体認証」と、操縦者の技能を確保するための「操縦ライセンス」を義務付けると同時に、運航ルールを遵守させるべく、飛行を個別審査するとしている。また、これまで許可・承認が必要な飛行のひとつであった“イベント上空の飛行”も、リスクが高いことからこのカテゴリーⅢに含むといったことを想定している。

 次にカテゴリーⅡは“比較的リスクの高い飛行”として、目視外飛行(無人地帯・補助者有り)や夜間飛行、第三者から30m以内の飛行といった、これまで航空法上の許可・承認が必要な飛行にあたる。このカテゴリーⅡの飛行については、「機体認証」「操縦ライセンス」と飛行計画の通報、第三者上空の飛行禁止等の遵守といった運行ルールが守られることを条件に、個別審査を不要にするとしている。一方、機体認証や操縦ライセンスを得ていないなど、これらの条件が整わない場合は、現行制度のとおり個別審査が求められる。この個別審査は機体認証やライセンスの取得が困難な訪日外国人などにも当てはまるとしている。

 そして、人の少ないエリアでの日中における目視内飛行といった、現在の航空法の許可・承認の対象外であるリスクの低い飛行については、現行制度の延長として所有者と機体の情報をオンラインで登録することと、所有者への飛行ルールの確実な周知を求めるとしている。なお、カテゴリーⅡとカテゴリーⅢでは、機体と操縦者について同じように機体認証と操縦ライセンスが求められることとなっているが、リスクレベルの違いに応じてその要求レベルも違った形となることが見込まれている。

今後2年間で検討すべき航空法以外の課題は山積

 今回打ち出された“制度のイメージ”では、このほか、被害者救済のしくみやプライバシーの保護、サイバーセキュリティに加えて、レベル4の飛行で想定される配送物流や広域警備といった目的で課題となる、土地所有権と上空利用の在り方についても解決すべき課題としている。ただし、例えば被害者救済においては、自動/自律運転時における事故の賠償で、その責任主体が誰にあるのかという判断が難しい。また、民法第207条に規定される土地所有権については、ドローンの場合、その飛行目的によって飛行高度が一様でなく、“利益の存する限度”という高度の基準を設けることが難しいなど、レベル4の飛行を実現するとしている2022年度までに結論を出すのは難しい課題もある。
 今回打ち出された「有人地帯の目視外飛行(レベル4)の実現等に向けた制度の全体イメージ」では、今後、民間の講習団体などの審査能力を活用しながら、「機体認証」「操縦ライセンス」の制度を整備することが示された。タイトルには“レベル4の実現に向けた”とあるが、レベル4未満の飛行すべてに関係する、2015年の航空法改正以来の大きな制度見直しともいえるだけに、今後の動向に目が離せない。