東京メトロは2月6日、非GPS環境下でのトンネル検査におけるドローンの運用を発表し、同26日にその様子を報道関係者に公開した。同社では2018年末からドローンの活用に関する検討を始めており、2019年4月からはドローン点検の実証実験を通じて実用化に向けた課題抽出を行ってきた。こうした技術開発を受け、2月から点検用ドローン2機2チームと5人の操縦者で、半蔵門線においてドローン点検作業を開始している。

ドローンを活用したトンネル検査について説明する、今泉直也東京メトロ工務部土木課長補佐。
点検用ドローンのデモフライトは、東京都江東区にある東京メトロ総合研修訓練センターの模擬トンネルで行われた。

スロットル制御の完全手動制御機がトンネル内には最適

 東京の都心部を中心に9路線の地下鉄路線を擁する東京メトロ。路線延長195.1kmの約85%がトンネルとなっていて、その維持管理には検査・計画・補修というサイクルを回し、必要に応じて補強といった大規模修繕を行っている。その中でも検査については、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」によって、2年周期の通常全般検査と、20年周期の特別全般検査を実施。通常検査は線路上から遠方目視による点検を行い、特別検査では高所作業車等を使用して目視と必要に応じて打診検査などが行われている。

地下鉄のトンネルでは2年周期の通常全般検査と20年周期の特別全般検査があり、これをドローンで代替する。

 同社ではこうした検査にドローンを活用することで、通常点検では遠方目視に比べて検査対象に接近して多角的に対象物を確認することができる、ということと、特別検査では高所作業の回数を減らし、効率的に検査を行うことができるとして、2018年12月からドローン活用の検討を行ってきた。翌2019年4月からは実際にドローンを導入して、その技術や方法について実証実験を行うと同時に、ドローン操縦者の育成を行ってきている。

 同社はドローン導入にあたり「トンネルという非GPS環境下での飛行」「鉄道運行設備への防護」「暗い箇所での変状確認方法」という点を課題としていた。当初、市販のドローンを使って検証を重ねたが、例えばDJIの機体では高度が5m以上になると制御装置が働いて上昇しない、かといってATTIモードにすると飛行が難しくなる、といった支障があった。そこで、完全手動操縦のレースドローンをベースに点検専用の機体を開発。その機体にはドローンサッカーの機体などに使われている球殻状のフレーム(プロペラガード)を備えることで、鉄道運行設備の防護という課題をクリアした。また、3つめの暗所への対応については、ライトを機体に取り付けると同時に、球殻の内側に照明が反射してカメラの露出に影響しないよう、球殻を艶消し黒に塗装するなどしている。

当初の試作機ではプロペラと同一面の周囲を囲うプロペラガードであったが、その後球殻状のガードに変更するといった改良が加えられている。
機体の照明が球殻の内側に当たってカメラの露出に影響しないように、球殻が艶消し黒で塗装されている。

 こうして開発された点検専用ドローンは、ローター対角寸法22cm、球殻の外寸40cm、重さ1.15kg(バッテリー除く)というサイズで、4セル(14.8V)2,000mAhのリチウムイオンバッテリーを搭載して、約5分飛行可能なものとなっている。このドローンはレースドローン同様、GPSやビジョンポジションニングといった位置制御機能を持たず、スロットル制御による完全手動操縦となっている。

東京メトロがトンネル点検に使用するドローン。220サイズのレースドローンをベースに、カメラと照明を搭載し、ドローンサッカーなどで使用される球殻状のガードが取り付けられている。
機体前面にはFPV用カメラを備え、上部にはステーを介して撮影用カメラ(写真ではカメラは取り外した状態)とLED照明が取り付けられている。

4名×2チームが1年で4〜5路線を点検していく

 同社では従来方法による点検に携わる職員に対して2019年に訓練を実施。体育館等を利用して、座学2日間、実技6日間の集中的な講習の後、シミュレーターによる訓練等を重ね、5名をドローン操縦者として認定している。現在、点検チームは2班あり、従来の点検方法では、点検者、点検補助者、トロッコ担当の3人体制であったチームに、ドローンの操縦者を加えた4名体制で作業に臨む。同社では今後、この4人体制を従来と同じ3人体制にしたいとしている。

 ドローンによる点検は、機体を構造物にほぼ押し当てる距離まで接近させ、動画と写真で撮影するというもの。現時点では映像からオルソや3Dモデル化をするといったことは行わず、点検者が映像を見て変状を判断するとしている。今後、ドローン点検は半蔵門線を皮切りに、2020年度には丸ノ内線をはじめ全路線に広げていくとしており、前述の2つのチームが1年に4〜5路線を検査する形で、2年周期の検査を行っていく予定だ。また、今回スタートしたドローン点検は、シールドトンネルの上部や、シールドマシンの発進に使用した立坑、さらにトンネル上部にある換気用の通風孔といった箇所に適用するとしている。

ドローンによる点検は、トンネルや立坑の上部、換気用の通気孔といった、高い箇所に対して実施する。
トンネル天井部に貼り付けられた変状の写真を撮影するドローン。
トンネル上部に設けられた通気孔に進入するドローン。

 また、同社では今後、高架橋や橋梁といった構造物にもドローン点検を広げていきたいとしており、こうしたトンネル検査以外での活用を見据え、本郷飛行機と共同で、自律飛行型ドローンの開発に着手する。この自律飛行型ドローンでは、さらに効率のいい点検を行うだけでなく、巡回警備などにも活用したいとしている。

報道公開時のデモフライトの様子。
ドローンが撮影したトンネル天井部の映像(東京メトロ提供)。
ドローンが撮影した通気孔内部の様子(東京メトロ提供)。