2019年6月26日、JUIDA主催緊急セミナーが東京大学本郷キャンパスにて開催された。JUIDA理事長 鈴木真二氏による主催者挨拶のあと、国土交通省 航空局安全部安全企画課 専門官 伊藤康浩氏が登壇。『飛行情報共有システムの概要と最近の取り組み』と題し、ドローン利活用の動向、飛行情報システムの概要、またレベル4に向けた2つのトピックスについて講演した。

ドローン利活用に向けたJUIDAの取組み

JUIDA理事長 鈴木真二氏

 冒頭、JUIDA理事長 鈴木真二氏による主催者挨拶では、JUIDAの主要事業および現状と今後も目標について話された。2014年7月に発足したJUIDAは、今年で5周年。発足当時わずか10名だった会員数は、2019年6月現在9,344名まで増加したという。

ガイドライン策定や周知啓蒙から人材育成、海外のドローン団体との連携や国際標準化など、JUIDAの幅広い事業内容について報告。

 無人航空機産業の振興と健全な発展を目指し、手がける事業内容は幅広い。2015年2月には「安全ガイドライン」を、2018年には「ドローン物流ガイドライン」を策定。ドローンを安全に試験できる環境整備にも精力的に取り組んでおり、つくば、京都けいはんな、大宮、箱根、那須塩原にドローン試験飛行場を開設。2016年から毎年開催のJapan Drone展をはじめとする、各種セミナー・シンポジウムや、人材育成にも尽力している。JUIDA操縦技能証明、安全運航管理者証明を発行するJUIDA認定スクールは、全国213校にのぼるという。

JUIDA操縦技能証明は累計8,375名、安全運航管理者技能の証明書発行数は累計7,459名と右肩上がりだ。シンガポールで海外初となる認定スクールも開校予定だという。

2019年からは「レベル4」(有人地帯での目視外飛行)を視野に

 2019年度は、いよいよ「レベル4」に向けた制度設計・技術開発が加速する節目の年になるという。同年6月21日、小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会にて、2022年を目処に有人地帯における補助者なしの目視外飛行を可能にするという目標が発表されたことに言及し、JUIDAも同協議会メンバーとして尽力することを宣言した。

2018年度までは無人地帯における目視外飛行の実現を目指してきたが、これからの目標は「2022年度めどに有人地帯における目視外飛行」に移行。さらなる制度設計、技術開発を進める予定だという。
「レベル4」に向けた取り組みとして、登録制度や機体認証、操縦ライセンス、事故情報の情報収集および事故調査、保険制度拡充、リモートIDなどが挙げられた。
目視外飛行をより現実的に行うための様々なルールづくりを目的とし、福島ロボットテストフィールドにて、JUTM ・JUMEと共同で実証実験を行ったことも報告した。

 このほか、陸上自衛隊と連携した広域防災に関する取組強化をはじめ社会貢献活動や、ドローン活用に関する技術やノウハウを発表できる場をオンライン上に開設予定であることも説明した。最後に、第53回パリ国際航空ショー(パリエアショー)視察の様子も紹介。MRJから改名した三菱スペースジェット、エアバスほか世界各社の物流ドローン、パッセンジャードローン等の展示風景をスクリーンに表示し、ドローン産業振興に向けて活動を続ける旨を改めて表明し挨拶を締めくくった。

国土交通省『飛行情報共有システムの概要と最近の取り組み』

国土交通省 航空局安全部安全企画課 専門官 伊藤康浩氏が登壇。

 当日のメインセッション、国土交通省 航空局安全部安全企画課 専門官 伊藤康浩氏による講演テーマは、『飛行情報共有システムの概要と最近の取り組み』。伊藤氏は最初に、無人航空機運用の動向を説明。次に、4月23日に正式リリースされた飛行情報共有システムの概要を解説。最後に、航空法改正のポイント、2022年をめどに有人地帯における補助者なしの目視外飛行を可能にする、いわゆる「レベル4」の目標が掲げられたことについても言及した。

無人航空機の運用状況

 伊藤氏が冒頭に説明したのは、改正航空法施行以来、許可申請件数が右肩上がりに増加している現状だ。2017年と比較すると約3倍、直近では単月4,000件を超えるという。DIDと30メートル以内、また空撮目的の申請が多いことから、インフラの点検や保守、測量、災害対応のための訓練を目的とした申請が増えているのでは、と相関を解説した。

 許可申請件数が増加する一方で、トラブルも少なからず増えている。1つは、事故報告だ。2017年度には63件だったが、翌年度には79件に増加した。実際の事例としては、有人機との近接や、大垣市で開催されたイベント「ドローン菓子撒き」でドローンが落下し第三者が負傷した事件などを挙げて、リスク対策の必要性に言及した。

 続いて、海外から訪日した方への周知・啓蒙の必要性も高いことを説明。従来は航空法メインだった内容には関連法例を加え、また英語版のみならず中国語や韓国語など多言語化を図る方針で、リーフレットを更新予定であると話した。

飛行情報共有システムの概要

 次に紹介されたのが、「飛行情報共有システム」だ。システム構築の背景には、衝突リスクの高まりがある。海外では実際に、有人機と無人航空機の衝突事故が増えており、日本国内でも、無人航空機(ラジコン機)とドクターヘリのニアミス事案が発生している。国土交通省では「航空機・無人航空機相互間の安全確保と調査に向けた検討会」を立ち上げて対策の検討を進めてきた。

 2017年に発表された中間とりまとめでは、有人機と無人航空機、むろん無人航空機同士においても、衝突を回避するためには飛行情報の共有が重要であり、そのためには飛行情報を共有できる新システム構築が必要であることが確認された。こうした経緯のもと2019年4月23日に正式に運用を開始したのが、「飛行情報共有システム」なのだ。

 伊藤氏は、飛行情報共有システムには、3つのアクターが存在することを説明。1つは、ドローンを飛ばすユーザーである無人航空機の運航者だ。2つめは、航空機を運航する事業者。そして3つめが、各地方自治体だ。

 飛行日時や飛行経路およびエリアなどの飛行情報をドローンユーザーが予め登録することで、無人航空機を飛行させる前に近接エリアにおける飛行予定の有無を確認できるという。また、国内ドクターヘリのリアルタイムな飛行位置情報を把握する株式会社ウェザーニュース(※1)の協力を得ることで、同システム上でもドクターヘリ動態情報の確認が可能になった。地方自治体に期待するのは、航空法や関連法令のほかに自治体が独自に定めるドローン飛行に関する条例の同システムへの登録だ。訪日外国人の増加などを背景とし、全国の情報をワンストップで確認できる仕組みの必要性を改めて強調した。

当日は、飛行情報共有システムには、DIPS(ドローン情報基盤システム(※2))の一部機能であること説明したうえで、一般ユーザー向け画面を開いて仕様を解説した。

 ユーザー情報および機体情報は、DIPSで登録した内容を一部引用できるとのことだ。実際に筆者も試みたが、「飛行許可申請との連携」ボタンをクリックするだけで簡便だった。また事業者など、現地に赴くドローン操縦士とマネジメントが異なる場合も想定し、代行機能も備えている。

飛行計画を登録する画面も、実際に開いて説明。航空法および小型無人機等の飛行禁止法における飛行禁止エリアが表示されている。プラスボタンを押すと、飛行計画を作画できる。

 無人航空機の運航者間でのやりとりについては、飛行計画が重複した相手のメールアドレスを表示し、別途任意でメールを送る事ができる機能なども紹介した。ドローン操縦中に同システムの画面を確認できるかどうかは別の議論が必要だが、ドクターヘリが飛行エリアに近接した際には黄色いマークが表示される仕様も搭載しているそうだ。

いま抑えておくべき、2つのトピックス

 伊藤氏は続けて、最近のトピックスとして2つ説明した。1つめは、6月19日に公布された航空法改正の内容についてだ。現行法の規制は、飛行エリアと飛行方法にとどまる。しかしドローン利活用の急速な増加および接近事案や第三者が負傷した事案を鑑み、無人航空機を飛行させる際に遵守すべき事項を条文に明記し制度化に踏み切る方針だ。

 2つめに、伊藤氏は、6月21日に発表されたばかりである「空の産業革命に向けたロードマップ2019(※3)」を紹介した。これまでは、山間離島などの無人地帯における補助者なしでの目視外飛行を目標として、「レベル3」に向けた制度設計に取り組んできたが、2018年度内に日本郵便をはじめ各社でのドローンによる荷物配送が実現。2019年3月7日に開かれた第24回未来投資会議で、石井国土交通省大臣が「レベル4」を目指すための基本方針を2019年度内に策定すると言及したことに触れ、これからは「レベル4」に向けた取り組みが加速することを示唆した。

 最大のポイントは、前年のロードマップには2020年代前半と記載されていた「レベル4」実現目標が、2022年度を目処にと明記された点だ。伊藤氏は、有人地帯を安全に飛行させるためには、運航のハードルも機体に求められる安全性と信頼性の指標も変わってくる、引き続き議論していきたいと意気込んだ。最後に、機体や所有者・操縦者の登録制度、社会受容性をよりいっそう高める必要性や、2020年以降の5G(第5世代移動通信システム)導入にも触れたうえで、政府全体また官民一体となって議論し必要なあるべき制度を描いていきたい旨を表明して講演を終えた。

6月21日に発表された「空の産業革命に向けたロードマップ2019」(出典:経済産業省)

SORAPASSの新しい取り組み

 セミナー最後には、ブルーイノベーション株式会社 代表取締役 熊田貴之氏が登壇し、SORAPASSの新しい取り組みについて紹介した。SORAPASSは、2016年5月に正式リリースされた飛行支援システムで、会員数は約39,000。改正航空法や小型無人機等飛行禁止法に関する情報が収録されているほか、機体・操縦者情報の一元管理や、気象情報のチェックも可能。今回、新たな取り組みとして紹介された「DIPSコネクト」の注目サービスは、何といっても実績報告サポートだろう。SORAPASS会員限定で提供開始された。ドローンの飛行許可取得後、3ヶ月毎の飛行実績報告が国土交通省から求められているが、未報告のパイロットが多数存在しているという。利活用が急速に増え、制度設計やその周知もまだまだこれからといういま、ドローン業界全体の課題をとらえた企業の動きは今後も要注目だ。