2024年1月12日、サンシャイン水族館は、同館が水中ドローン(ROV)を用いて採集したエビが新種の「トリノアシヤドリエビ」として公表されたことを発表した。なお、採集個体は標本化しており、館内での展示は予定していない。

2023年4月27日に採集したメスのトリノアシヤドリエビ

 同館は生物飼育や展示に生かすほか、深海についての情報を集め発信することを目的に、静岡県駿河湾を中心に、2019年より定期的に水中ドローンを用いた深海調査を行っている。2022年12月からは、静岡県の特別採捕許可を得て水中ドローンにアームを取り付け、深海生物採集に取り組んできた。

 2023年2月24日、4月27日、静岡県駿河湾の水深130~200mで採集したウミユリの一種であるトリノアシに付着していたエビについて、千葉県立中央博物館の駒井智幸氏と共同研究を進め、11月30日に新属・新種のものとして論文公表した。今回発見されたエビは、トリノアシに共生していたことから「トリノアシヤドリエビ」と命名した。

【掲載論文】https://doi.org/10.11646/zootaxa.5380.3.2
Komai,T. & Sakiyama,H (2023) A new genus and new species of palaemonid shrimp (Decapoda: Caridea), associated with the deep-sea crinoid Metacrinus rotundus (Echinodermata: Isocrinidae), from Suruga Bay, Japan. Zootaxa. 5380(3):227-246

採集したトリノアシヤドリエビの特徴

 採集したのは、幼体(頭胸甲長1.3mm)と卵を抱えたメス(頭胸甲長3.2mm)の2個体で、静岡県沼津市沖の駿河湾の海(水深130~200m)に生息していたトリノアシに共生していた。深海に生息するトリノアシに共生する十脚類(エビ、ヤドカリ、カニ類を含む)の記録は世界的にも貴重な発見となる。

 解明されていることが少ない海域において、水中ドローンで新たな種を発見しただけでなく、生きた状態でトリノアシに共生している姿を観察し、記録・採集できたことは学術的にも貴重な例だという。現在2個体は標本化し、千葉県立中央博物館に収蔵されている。

トリノアシヤドリエビが付着していたトリノアシ(水中ドローンの画像)
採集する様子(水中ドローンで撮影した動画)

千葉県立中央博物館 動物学研究科長 駒井智幸氏のコメント

 トリノアシには共生するエビ・カニ類がいそうだと以前から注目していましたが、網を使った採集方法では途中で逃げてしまうので、なかなか確認できませんでした。今後も水中ドローンを使った調査で新しい発見がされることを期待しています。

 それにしても、標本が小さく、解剖が大変でした。

サンシャイン水族館 飼育スタッフ 先山広輝氏のコメント

 2019年から水中ドローンで駿河湾の200m付近の深海の調査を開始し、2022年からは水中ドローンにアームを付け、生物の採集にも取り組んできました。

 トリノアシをメインに調査、採集をしてきましたが、数回の調査の間に新種のエビが見つかるとは思っていませんでした。2023年2月に採集した個体は小さな幼体で、トリノアシに付着したものを偶然採集できただけでしたが、同年4月の採集でトリノアシを念入りに水中ドローンで調査したところ、トリノアシに付着しているエビの姿を確認、記録することができ、そのまま採集までできました。

 その結果、トリノアシに共生生活している生態の解明にもつながりました。

 改めて、深海200m付近の海域は漁獲や混獲される生物以外の調査があまり進んでいない現状が 浮き彫りになったように思います。今後も水中ドローンを使っての調査を継続して深海の謎を解明していきたいです。

サンシャイン水族館の深海調査

 水深200m以深の海は、まだ知られていないことが多く、サンシャイン水族館では定期的な調査を通じて、深海生物の映像や生息環境などさまざまな情報を集めている。2019年からは、小型で遠隔操作が可能なFulldepth(フルデプス)社製の水中ドローンを用いた、水深200m付近の深海調査を静岡県駿河湾を中心に定期的に実施している。これまでの調査で得た情報やデータは深海生物の飼育に生かしており、過去にはゾウギンザメの日本初の孵化(2020年)やメンダコの国内最長飼育(2022年)に成功している。

Fulldepth社製の水中ドローン
メンダコ

サンシャイン水族館「ゾクゾク深海生物2024」

 深海生物に焦点を当てたイベント「ゾクゾク深海生物2024」。8回目の開催となる今年は「遠いけど近い!?近づきたい!深海の世界」をテーマにさまざまな展示を予定している。トリノアシヤドリエビを採集した水中ドローンが撮影した深海世界の映像などを見ることができる。

会期:2024年1月12日(金)~3月17日(日)
会場:サンシャインシティ ワールドインポートマートビル・屋上 サンシャイン水族館
URL:https://sunshinecity.jp/file/aquarium/zokuzoku_deep_sea_2024/