海洋の科学技術をテーマにした国際コンベンション「テクノオーシャン2023」(Techno-Ocean 2023)が10月5日から7日の3日間、神戸国際展示場で開催された。海洋分野のネットワーク形成を目的とした本イベントでは、国内外の専門家や関連企業が参加する国際シンポジウムに加え、業界の最先端技術やビジネスを紹介する展示会が無料で公開され、100近いブースが出展されていた。レポートの前編ではその中から、海をフィールドに活躍するドローンを中心にレポートする。

国際コンベンション「テクノオーシャン2023」の展示会には90社・団体が出展した。

海上で発着できるドローンが登場

 ドローンの中には主に海や水中での運用を目的に開発されているものがあり、開発技術が進化するのにあわせて種類が増え、用途も広がっている。空を飛ぶドローンとの類似点も多く、開発や運用では参考になるところもある。

 KDDIスマートドローンがKDDI総合研究所とプロドローンの3社で共同開発する「水空合体ドローン」は、空を飛ぶドローンの下にドッキングさせた水中ドローンを目的地へ空から運び、点検や撮影を行った後に再び回収するという世界初のユニークな機体だ。人手不足により橋脚や橋の裏側、水域インフラ、養殖場の点検、水質検査などで水中ドローンを活用しようという動きが高まっているが、現場までは船で機体を運ぶ必要がある。水空合体ドローンはそうした負担を減らし、短時間で効率良く作業が行えるようにする。兵庫県と実施した令和4年度ドローン社会実装促進実証事業では、定置網や養殖場の様子をリモートで撮影することに成功している。

「水空合体ドローン」は第10回ロボット大賞で総務大臣賞を受賞している。

 海上からドローンを発着させることができる固定翼タイプの無人飛行艇「XU-M」は、宝塚に本社がある新明和工業が海上自衛隊の救難飛行艇製造技術をもとに開発している。空から海上を広範囲に探査するといった目的で使用できるが、機体を船で運べば沖合でも活用が可能だ。実機はほぼ完成しており、昨年神戸市で開催されたドローンサミットではデモ飛行を成功させている。(関連記事:墜落時のリスクを削減!ドローン用パラシュートとエアバッグの実演を初披露

新明和工業の無人飛行艇「XU-M」

 同じく水上での発着が可能な飛行艇型の固定翼ドローン「HAMADORIシリーズ」を開発するスペースエンターテインメントラボラトリーは、電動で小型の「HAMADORI 3000」の開発機と、今年のパリ・エアショーで発表した次世代コンセプト機の20分の1スケールモデルを展示していた。スタートアップらしく開発スピードが早く、実用化に向けては外部と共同して様々な実証実験を行っている。例えば、衛星を使ったGNSSを搭載した大型船で行われている海底の地殻変動調査について、HAMADORIを使った無人観測の実証実験を行っている。機動性がアップし、災害時などの緊急での利用にも役立てられる。

スペースエンターテインメントラボラトリーは小型電動の「HAMADORI 3000」を展示。

 次世代コンセプト機は海洋での観測、輸送、警備、救難などに対応するマルチロール機として設計されており、カーゴやセンサー、ウィンチなど用途にあわせたペイロードポッドが搭載できるようになっている。

HAMADORIシリーズの次世代コンセプトモデル(20分の1スケール)

水上で無人航行するASVは定点観測で活躍

 水上を無人で航行するASV(Autonomous Surface Vehicle)もいろいろなタイプが登場している。マリン・ワーク・ジャパンが開発する小型無人ボートは、2つのフロートを使って安定した航行が可能で、目的地まで移動した後はホバリングするように位置を固定できるのが特長だ。船体の上には用途に応じてセンサーや測定器を搭載できるので応用範囲も広い。

 海上や水上の定点観測は固定ブイを設置したりするのが主流だが、ASVはソフトウェアでルートを登録することで同じ場所を繰り返し定点観測できるので、必要な時だけ使用できるうえに場所の移動も簡単にでき、メンテナンスもしやすい。

 東京久栄が東京大学生産技術研究所と共同開発する調査、点検用の水上スライダー「Hy-CaT」は、簡易測深を従来よりも効率良く経済的に行うことができる。空気を入れてフロート部を膨らませるようになっているのがポイントで、使用前後は空気を抜いてコンパクトにまとめて荷物として送ることができる。目的に応じてユニットをカスタマイズでき、狭い場所で使用するnarrowタイプもある。

東京久栄の「Hy-CaT」はフロート部に空気を入れて水上に浮かべる仕様になっている。

海底をお掃除するルンバが登場?!

 東京久栄では他にも様々なアイデアのROV(Remotely Operated Vehicle)や水中ドローンを設計、開発しているが、その中でもユニークなのが養殖場の海底を掃除して質を改善できるというROVだ。

東京久栄の底質改善装置搭載ROV

 といっても上部は既存のROVを使用しており、その下にあるケース状の部分を自社で開発している。中にあるのは水流で砂を巻き上げて吸い上げるモーターとバキュームで、養殖場の海底に沈殿した泥や残った餌などを効率良く吸引除去できる。実証実験によると従来の方法に比べてかなり手軽に清掃ができることがわかり、特許も取得している。現在は手動だが将来的には自動で掃除ができる “海底用ルンバ” を目指している。

ROVを応用した “海底用ルンバ” を開発中?!

 海底を掃除するロボットは他にもあり、広和が開発する水中底面ロボットは見た目が掃除機らしいデザインになっている。ダイバーによる清掃に比べて衛生的で水を汚しにくく、有線で地上からリモート操作できる。水深40mまで使用可能な耐圧構造で、沈殿物を巻き上げにくいため、水平360度と上下180度を映し出せるカメラを使用して作業中の様子を記録したり、同時に調査したりできる。これまでに浄水場や工場用配水池の清掃、調査での利用実績がある。

広和の水中底面掃除ロボット。水中清掃ロボットはこれからニーズが高まりそうだ。

 広和は純国産の水中TVカメラロボットを1985年から自社で開発製造している、業界の老舗メーカーでもある。30年近く蓄積してきた技術と経験による特殊機器の製作を一貫して行っており、会場には長年現場で使用されてきた実機が展示されていたが、機体の汚れやキズから海の中という過酷な環境下で活躍する水中ドローンを開発するのがいかに大変かというのが感じられた。

広和はかなり年季の入った水中TVカメラロボットを展示していた。

 続いて後編では、海底探査に使用される自律型無人潜水機のAUV(Autonomous Underwater Vehicle)や自律航行船とその関連技術を紹介する。