自動車メーカーのホンダは、ジャパンモビリティショーで自動車のほか、小型ビジネスジェット機などの独自に開発した航空機を展示した。それらの延長線上にはエアモビリティがあり、ホンダは着々と開発を進めている。

長距離飛行を強みに開発が進むホンダのeVTOL

 ホンダブースのメインエリアには、小型ビジネスジェット機のHondaJetが並べられていた。その隣に展示されていたのが次世代の電動垂直離着陸機(eVTOL)のモックアップ(5分の1サイズ)だ。

 このモックアップは、2021年9月に初めて公開された。ホンダのeVTOLは、バイオ燃料を動力源とするガスタービンハイブリッドユニットを搭載していることが最大の特徴となる。現在は、アメリカでガスタービンハイブリッドユニットのテストを実施しており、2021年の発表から姿勢制御や安全性の観点において、実機には大きな改良が施されているという。

 開発メンバーは、HondaJetやガスタービンの開発陣で構成され、多くのエンジニア技術が活かされている。eVTOLは、ヘリコプターなどに対して、騒音の低減や排出ガスの削減、さらには自律的な飛行を可能にすることがメリットとされている。

 ホンダは、プロペラのブレード数を増やし、形状を変えることで騒音を低減しているほか、ガスタービンの燃料を環境にやさしいバイオ燃料にするなど、工夫を凝らしている。一方で、バッテリーを駆動源とするeVTOLで一番のネックとなるのが、飛行時間・距離を伸ばすためには多くのバッテリーを搭載しなければならないことだ。多くのバッテリーを搭載することは重量増や機体の大型化、充電やメンテナンスの不効率性につながる。そこで、ホンダが採用したのがガスタービンハイブリッドユニットとなる。このユニットは、バッテリーの充電に使用され、直接プロペラの駆動などに使用されているものではない。バッテリーの容量が少なくなった時に発電を行うことで、充電しながら飛行することが可能になる。これによって、航続距離約400kmを実現するという。

 開発中のeVTOLは、乗客4人、操縦士1人が搭乗できるエアモビリティだ。空飛ぶクルマやエアモビリティというと、人が操縦せずに自動航行で目的地に移動する印象が大きいが、現時点では完全な自動航行による移動は確立されていない。運用について担当者は、「ヘリコプターなどと同様に操縦士が運用することを想定しています。ただし、操縦士はコマンドを出すだけであり、介入する部分は従来のヘリコプターなどに比べると少ないと言えます。具体的には、ヘリコプターやeVTOLに関わらず、操縦士が右へ行く、左へ行くといった移動のコマンドを出すのは同じです。大きな違いは、eVTOLは姿勢制御を自律的に行うことです。ヘリコプター等は、機体を安定させるために常に手動で姿勢制御を行ってきましたが、eVTOLは移動や緊急時の判断などのコマンドだけで飛行できるのです」と説明した。

 ホンダが想定するeVTOLの運用高度は約6000ft~1万ft(約1800m~3000m)だ。仮にこの空域で常時飛行する航空機がなかったとしても、空飛ぶものは離陸地点(地上)から上昇していくことや、緊急時などを考えれば、ドローンやヘリコプター、小型ビジネスジェット機など、さまざまな航空機と同じ高度を飛行することとなる。ホンダは同じ空域を飛行した時の安全確保を課題としており、自律的に他の航空機を回避するシステムの開発に取り組んでいるという。ドローンでは、UTMを用いて一定の空域で複数機飛行する技術の開発が進められている。eVTOLとドローンは、自律飛行の部分で似ている点が多く、応用できる技術は採用していきたいという。

人を乗せる以上、絶対に必要な型式証明の取得

 エアモビリティの開発企業は、飛行実現を目指し、型式証明の取得を急いでいる。エアモビリティは世界各国を見ても社会実装までは進んでいない。機体開発に合わせて、安全に運用できる航空機であるかの証明を取得できれば、エアモビリティ市場において各国で機体を供給できるチャンスを手にすることができることから、競争が激化しているのが実情だ。

 HondaJetをはじめとする独自性の高さを魅力としているホンダが、世界シェア競争に注力しているとは思えないが、ホンダのeVTOLも型式証明の取得を予定している。前述したように世界シェア競争に注力しているとは思えないというのも、ホンダはHondaJetで型式証明を取得し、その難しさをよく知っているからだ。日本は太平洋戦争後、航空機の開発・製造が禁止されてしまったという経緯がある。そのような中で、ホンダは小型ビジネスジェット機を開発し、日本で前例の無い型式証明を取得してきた。エアモビリティも同様に、世界的に新たなモビリティであり、安全性に対する技術において、なにをもって安全であるかといったことから策定していかなければならない。型式証明の取得について担当者は、「FAA(アメリカ連邦航空局)の型式証明を取得するためには、とても時間がかかります。隣に展示している小型ビジネスジェット機もガスタービンを搭載しておりますが、型式証明の取得に9年かかりました。現在、eVTOLは開発段階であり、しっかり技術を完成させてから型式証明の取得工程に移ろうと考えています。そのため、ロードマップでは、2030年以降の販売を予定しています。航空機の開発や型式証明においては、日本はアメリカに牛耳られてきたというのが事実です。eVTOLは新たな技術ですので、日本が切り拓いていくチャンスがあります。そのため、開発拠点をアメリカとしており、HondaJetと同じようにまず最初はアメリカ市場に向けての販売を予定しています」と今後の予定を話した。

 2023年10月には、中国民用航空局(CAAC)がEHang(中国のメーカー)の空飛ぶクルマに型式証明を発行した。さらに、11月にはスペインで都市型航空交通(UAM)センターを開設し、EHangのeVTOLの運用を開始したことを発表している。諸外国で徐々に進みだしたエアモビリティの市場に対して、日本企業が今後どのように切り込んでいくのか注目だ。

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