2023年1月12日、川崎重工業(以下、川崎重工)は、仏国のトタルエナジーズ社と兵庫県淡路島沖において、自律型無人潜水機(AUV)を用いて海底パイプライン近接検査における防食電位計測に関する共同研究海上試験を行い、成功したことを発表した。

Kawasaki AUV「SPICE」
試験立会者(トタルエナジーズ、川崎重工、支援会社)

 川崎重工は、オイル・ガス分野での海底パイプラインのメンテナンス需要の増加に着目し、海底パイプライン検査用ロボットアームを用いたAUV 「SPICE(スパイス)」の開発を進めてきた。

 2020年に「海洋石油・天然ガスに係る日本財団-DeepStarによる連携技術開発助成プログラム」のもと行った実証試験では、SPICEの安定したパイプトラッキング能力(海底パイプラインを自動で走査、追従して航行する能力)と海底パイプライン近接検査のプラットフォーム(検査センサーを海底パイプラインに対し正確に位置取りする機能)として高いポテンシャルを確認したという。

 この結果を受け、トタルエナジーズ社より同社が保有する防食電位計測技術「LTCP 」とSPICEの統合システム構築について提案があり、2020年10月から共同研究プロジェクトに着手した。

 共同研究プロジェクトでは、2021年2月までシミュレーションや統合システム構築に向けた基本設計などの検討を行い、同年8月からトタルエナジーズ社のLTCPとSPICEの統合システム構築のための詳細設計、SPICE本体の改造などを経て、2022年8月30日から9月2日にかけて兵庫県淡路島沖で海上試験を実施し、模擬海底パイプラインの防食電位計測に成功した。

 海上試験では、トタルエナジーズ社の監修・立ち合いのもと、海底に模擬パイプや防食装置を設置してシステムの検証を実施し、SPICEのパイプトラッキング性能やロボットアーム自律制御性能により、防食電位計測技術が適切に機能することを確認した。
 この結果から、防食電位計測をはじめとする従来ROV(遠隔操作型無人潜水機)で実施しているパイプライン近接検査の自動化、高速化がSPICEで可能であることを示すことができた。

 川崎重工は2021年に英国のMODUS SUBSEA SERVICES LIMITED社から、今回の共同研究海上試験で使用した機体よりもさらに進化した商用SPICE初号機を受注しており、その市場投入に向けて製造・試験を進めているという。同社は今後、無人化・自動化のマーケットニーズを適える水中機器として需要拡大が見込まれるAUV市場向けに高性能・高品質な製品の開発を推進し、AUVの商用拡大を目指し積極的に取り組んでいくとしている。

SPICE 主要目
全長×幅×高さ約5.6m×約1.4m×約1.1m
重量約2,500kg(空中重量)
耐水深度3,000m
最大速力4 knots
推進機器・主推進プロペラ1基
・サイドスラスター2基
・バーティカルスラスター2基
航行装置・慣性航法装置
・ソーナー
安全装置・バラスト離脱装置
・イリジウムビーコン

各社コメント

トタルエナジーズR&D サブシーロボティクスプロジェクトリーダー Andy Gower氏

 LTCPは、ある一定の試験環境で陰極防食システムの有効性を確立する再現性を実証していましたが、検査対象の配管に近接してこの技術を展開する必要がありました。 検査対象から近接距離にセンサーを配置できる機能を持つSPICEにより、LTCPは再現性のある性能を実証することができました。 同時に追加のセンサーを配置できる可能性があるため、他の非破壊検査センサーや技術も利用でき、老朽化したパイプラインの幅広いデータを揃え、その健全性をより詳細に評価できるようになるはずです。 海底ロボット工学の将来のトレンドは、機動性の高いセンサープラットフォームであり、SPICEと統合したLTCPは、運用状況における陰極防食システムの性能を判断するための効果的なソリューションとなります。

川崎重工 船舶海洋ディビジョン AUV事業推進部 開発・設計課 岡矢課長

 当社は自社の水中ビークルと産業用ロボットの技術を融合させ、SPICEというアームを持つAUVの開発を進めてきました。アームを用いることにより、近接が必要とされるセンサーを正確にターゲットにポジショニングすることに当社は自信を持っています。今回トタルエナジーズ社からこの共同海上試験という素晴らしい機会を頂き、大変嬉しく思っております。今回の海上試験では、LTCPとのコンビネーションにおいて有用な検査データを取得でき、2020年に引き続きSPICEのパイプライン近接検査のプラットフォームとしての能力を実証できました。今後もさらなる可能性を求めて開発を続けていきます。