豊田通商の100%子会社で、米Zipline(ジップライン)社製の固定翼機を使ったドローン物流サービス事業を手がけるsora-iina(そらいいな)は、2023年9月7日~8日に出島メッセ長崎で開催された「第2回ドローンサミット」に出展した。五島市から長崎市内へ、往復約200km・約1時間の長距離フライトデモンストレーションも実施し、見事に成功させた。

展示会場入口正面のひときわ目立つ位置に出展し、連日賑わいを見せた

ジップラインの「性能限界」に挑む

 そらいいなは、約150の島々からなる五島列島のなかでも最大の島、五島市の福江島に拠点を構えて、2022年5月31日より、ジップライン社製の小型固定翼機を使った「ドローンによる医療用医薬品の商業配送」を提供している。

 海外では、血液製剤、ワクチン、検体などの配送で実用化されており、すでに約74万回の配送実績を誇る。そらいいなは、医療用医薬品のほか、日用品や食品などにも配送品目を拡大中で、累積900回以上の飛行実績があるという。

そらいいな展示ブースにて撮影

 機体スペックはこうだ。飛行速度は100km/h、可搬重量は約1.75kg/機、航続距離は拠点を中心に半径80kmで約160km超、耐候性は風速14m/s、降雨量50mm/h。同機体は、専用のドローン発着システムを用いて飛行し、配送物は機体からパラシュート投下する。2022年1月から福江島でドローンシステムを稼働して以来、就航率は90%以上だという。

「第2回ドローンサミット」トークセッション登壇時の投影資料

 今回の注目は、ジップラインの「性能限界」を超えるデモフライトを実施した点だ。最大航続距離とされる160kmをゆうに超える、片道100km、往復200kmの長距離連続飛行に挑んだ。

 飛行経路は、五島市の福江島を出発して、海上を横断して長崎市内にある神ノ島まで飛行し、荷物を投下したのちに福江に戻るという、往復約2時間超のフライトだ。

(そらいいな公式サイトより引用

 ただし、決して“無茶をした”わけではない。展示会場ステージで行われたライブ中継には、配送統括責任者の土屋氏が登壇して、まず最初に「性能限界に挑むと判断した背景」について、緊張した面持ちで説明した。登壇の1分前まで、「本当に飛行を継続できるか」を、現場と確認していたという。

「海外では、地表面から一定の高度を維持して飛行するので、標高に合わせて上昇下降しながら飛行しているが、五島近辺では海上を飛行するため、これまでの飛行記録を分析していくと、従来の限界値よりもバッテリーの消耗が緩やかだということが分かってきた。実際に、福江島近辺で連続飛行試験を幾度も行い、ジップライン側ともシミュレーションするなど、安全性をしっかりと確認したうえで、今回の試験飛行に至った」(土屋氏)

そらいいな 配送統括責任者 土屋浩伸氏

 その直後には、モデレーターをつとめたJUTM事務局次長の中村氏が、「土屋さんは、本当は現場にいたいと思うのだけど」と気遣うと、立ち見で溢れた中継会場がにわかに和むという一幕もあった。

JUTM事務局次長 中村裕子氏

 デモ前日、土屋氏にインタビューしたところ、「想像以上に注目が集まって、とても緊張している。風だけが心配だ」と話していた。

 風向風速予報をこまめにチェックし、耐候性に問題が生じる恐れはないか、往復約200kmの飛行にバッテリーが持つかどうか、現場スタッフとも入念に話し合っていたという。

 デモフライトでは、五島名物「鬼鯖鮨」を配送。この商品は足が早く、配送スピードが求められる。品質を保ちながら、短時間で配送できることは、ドローン活用の大きなメリットだ。

 本番は、心配していた風も前日よりは弱まり、すがすがしい秋晴れ。天気に恵まれたなか、無事にパラシュート投下に成功し、ライブ中継会場では拍手が沸き起こった。

荷物を搭載し、ドローンが発射される様子
パラシュート投下の様子(中継会場)
パラシュート投下の様子(投下現場)

 本フライトでは、4機を連続して発射。各機は、同一経路を飛行して、数分間隔で着陸地点に到着したようだ。また、往路便と復路便がすれ違う際は、相互通信して高度をずらすことで、安全を確保した。

 土屋氏は、「もし1機に不具合が起きて、途中で引き返すことになっても、残りの2機で配送できるよう、鬼鯖鮨を載せた機体を3機飛ばした。もう1機は、バックアップとして荷物は載せずに飛ばした」と4機連続飛行の意図を説明した。実際の配送サービスでも、積荷の重量や宛先によって、複数機による連続飛行はよくあるケースだという。

飛行状況のリアルタイム表示

 パラシュート投下現場では、長崎県副知事の馬場裕子氏が、朝8時半に運ばれてきたという出来立ての鬼鯖鮨を、到着後すぐに試食した。「ちょっと生に近い感覚で本当に美味しい。足が早く、普段は物産展などでしか食べられないものを、新鮮なままいただけるのは非常にありがたい」(馬場氏)。

 今後は、「五島から長崎市内への検体の輸送なども含めて、ユースケースの開拓を進める」(土屋氏)という。

 中継が終了した後も、4機のドローンは帰還飛行を続け、11時半前後には4機体とも正常な状態で無事に着陸できたとのことだ。ミッションをやり遂げた一同に、安堵の表情が広がった。

地域物流、課題解決の担い手は

 また、デモ前日に「物流ドローン最前線!~物流過疎地を日本から無くす~」と題して行われたトークセッションにも、配送統括責任者の土屋浩伸氏が登壇した。NEXT DELIVERY(ネクストデリバリー)代表取締役の田路圭輔氏、日本郵便 郵便・物流オペレーション改革部で担当部長をつとめる上田貴之氏らと、地域物流の課題について議論を交わした。

トークセッションの様子

 日本郵便は、初のレベル4飛行を実現した物流事業者の視点、そらいいなとNEXT DELIVERYはドローン配送事業者の視点で意見を述べた。いずれも、ドローンによる輸配送事業を手がけるトップランナーらしく、臨場感溢れる議論が飛び交った。

 2024年問題を控えて、地域に「ものが届かなくなる」未来の到来を、3社は揃ってリアルに実感しているという。一方で、「でも、地域住民の方々に、困っているという認識はない。むしろ物流事業者が疲弊している」と指摘する。

 その1つのソリューションとして話題に上がったのは「共同配送」だ。日本郵便の上田氏は、「これから先の将来、1事業者が全国を担う必要があるのだろうか。日本郵便もヤマト運輸さんと、持続可能な物流サービスの推進に向けて協業を発表したが、共同配送による物流ネットワークを地域で築くことも必要になると思う」と話した。

 続いて、そらいいなの土屋氏が、「共同配送、共同在庫による効率化が必要になってくる。自治体さんに音頭を取っていただく場面もあり得るのでは」と話すと、NEXT DELIVERYの田路氏が、「最終的な物流の担い手は、地域住民になると思う。いくつかの自治体ではすでに、物流クライシスは交通弱者に匹敵するくらい、重大な課題であり、民間にお任せしたままでは立ち行かなくなると考え始めているようだ」と説明した。

 こうした議論を受けてトークセッション最後に、モデレーターをつとめた日本政策投資銀行産業調査部兼航空宇宙室調査役の岩本学氏は、「官民よりいっそうの連携が重要になる。地域物流をどうするか、グランドデザインが必要。物流システムそのものの再設計を誰が担うべきか」と、会場にも問いかけていた。

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