2022年9月1日〜2日に兵庫県神戸市で、第1回ドローンサミットが開催された。デモンストレーションは2日目に実施され、ドローン用緊急パラシュート装置とエアバッグ装置を開発・提供する日本化薬、水上で離着陸できる無人飛行艇を開発する新明和工業、神戸港を横断するドローンデリバリーの商業化を図るTOMPLAの3社が参加した。このうち日本化薬とTOMPLAは、兵庫県の令和4年度ドローン社会実装促進実証事業の採択企業だ。

 実施場所は、神戸市中央区の神戸港内にある人工島「ポートアイランド」で、神戸学院大学ポートアイランドキャンパス ポーアイしおさい公園が会場となった。当日のデモンストレーションは、関係者と報道陣に限定して披露されたが、参加人数は非常に多く注目の高さがうかがえた。本稿では、3社のデモの様子をレポートする。

ドローン“墜落”でパラシュートとエアバッグが作動

 日本化薬は、ドローンが飛行中に何らかの不具合が起きて墜落の危険が生じた緊急時に、物理的に機体を安全着陸させる装置として、パラシュートとエアバッグを開発している。

 パラシュートは、すでに「PS CA12-01」という製品を販売中だ。最大離陸総重量25kgのドローンに対応しており、形状は円柱型、サイズは直径約13cm×高さ約15cm、本体重量は1kgで、パラシュートを開傘したときの面積は11平方メートルだ。最低展開高度は、地上30m以上で飛行しているときに十分な減速を行うことができ、降下速度は6m/sまで減速する(理論値)という。

パラシュートシステムの説明資料
デモンストレーションではプロペラ停止後0.5秒でパラシュートが開傘した

 エアバッグは、現在プロトタイプを開発中で、当日がメディア初公開となった。収容時のサイズは長さ30cm×幅40cm×高さ5cmで、膨張すると長さ1m×幅1m×高さ40cmほどになる。動力源はバッテリーで、本体重量は750g、エアバッグの展開時間は5秒までを想定しているという。

エアバッグシステムの説明資料
膨張したエアバッグシステムが地上で機体を受け止める様子

 デモに使用された機体は、国産ドローンメーカーのプロドローン社製で、今回はパイロットがマニュアルで操縦した。

デモ会場で準備中の機体
使用機体の説明資料

 デモの手順は、まずパイロットがマニュアル操縦で機体を約30m上昇させる。その後、パイロットが故意的にプロペラを強制停止すると、それに連動してパラシュートが0.5秒で発射し、機体の落下速度が減速する。続いてエアバッグシステムを、専用のコントローラー(送信機)から作動させ、機体をエアバッグの上に着陸させるというものだ。一連の様子はこちらの動画をご覧いただきたい。

デモンストレーションのシステム系統説明資料

 製品版では、ドローン飛行中に発生した異常を自動検知する、パラシュートを発射する、エアバッグを作動する、この3つを連動させたシステムを開発する予定だという。

水上で離着陸できる無人飛行艇は自動飛行を披露

 新明和工業は、完成したばかりという無人飛行艇「XU-M」の水上離着陸と自動飛行をお披露目した。同社は長年、有人の救難飛行艇の開発で、技術やノウハウを培ってきた。また昨年、固定翼無人航空機の衛星通信を使ったレベル3のフライトを成功させたとのことで、無人飛行艇の開発では、これらの知見を融合したという。機体のサイズは、幅4m×長さ3m×高さ0.9m、重量は25kg未満で、巡航速度は時速約60kmだ。

機体の説明資料
機体(左)は岸壁から吊り下げて水面に降ろした

 デモフライトは約5分間行われた。飛行前、水面に降ろされた機体は、ボートが牽引して離水ポイントまで移動させた。フックを外し、ボートが機体から十分に離れて安全を確認できた状態で、パイロットがマニュアル操縦で機体を離水させた。

飛行前、離水ポイントへ無人飛行艇を移動させるところ

 機体が水面を滑走して離水すると、その後はパイロットの判断で、予め設定してある自動飛行ミッションをオン。すると機体は、高度20mを維持したまま、8の字を描いて自動飛行し、2周旋回したのちに着水した。なお、着水は自動ではなく、パイロットのマニュアル操縦で行われた。

自動飛行中の様子

港を横断してスタバのアイスコーヒーをドローンで配達

 TOMPLAは、飲食街であるハーバーランドから1.5万人が居住する人工島であるポートアイランドへ、神戸港を横断するドローンデリバリーの商業化を目指している。

 まずは2022年10月から約1ヶ月間、同エリアで実証実験を行う予定だ。神戸学院大学の6000名の学生を対象に、出前館のシステムを使って注文すると、TOMPLAと提携する兵庫県内の事業者が配送の実務を担い、商品をドローンで配送するという。

神戸港横断のドローンデリバリー構想の説明資料

 デモンストレーションでは、このために開通したドローン配送航路を使って、スターバックスのコーヒーが配送された。使用された機体は、石川エナジーリサーチが開発した機体をベースに、TOMPLAが物流用にカスタマイズしたという。

機体の説明資料
使用された機体

 当日は、対岸のハーバーランドから、ポートアイランドにある神戸学院大学まで、ドローンがアイスコーヒーを運び、涼やかな氷の音がするカップが手渡された。ドローンが飛来する様子と、配送ボックスから紙袋を取り出す様子はこちら。

配送ボックスの形は運ぶものによって変えられるという
運ばれたアイスコーヒーのカップには、大きめの氷が溶けないでしっかり残っていた

 同エリアでのドローンデリバリーは、2023年度中に商用化し、いずれは平日土日も1日約15便、20〜30分に1回の離着陸を目指すというが、事業計画についての言及はなかった。10月より実施予定の実証では、配送料や着陸ポイントの拡充なども含めて、ビジネスモデルの解像度が上がることを期待したい。またポートアイランドは、災害時には孤立するリスクが高く、平常時には医療産業クラスターとしての側面も併せ持つエリアだ。医療機関向け医薬品等のドローン配送が、規制緩和を待ちつつ事業化されるのかなども要注目だ。

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