新技術の社会実装を目指し、宇宙科学技術や航空技術の研究開発を行う宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、新技術を投入したドローンの開発を行っており、兵庫県神戸市で開催された第1回ドローンサミットに2種類のドローンを展示した。

 JAXAは新技術の設計と運用を研究し、この研究成果を民間企業が製品化することで新技術の社会実装を進めている。宇宙科学分野ではロケットの開発や打ち上げを担っていることで有名だが、航空技術の分野では次世代を担うドローンも例外ではなく、ドローンの技術開発に取り組んでいる。

日本市場で確立されていないVTOL機の設計と運用を研究

 ドローンは多岐にわたる業務で利活用が進んでいるが、そのほとんどがマルチコプター型だ。いくつか課題は残されているものの、マルチコプター型の構造設計は確立しつつある。JAXAは市場で確立されていない新技術の研究開発を目標としているため、日本では確立されていない固定翼機および垂直離着陸機(VTOL機)を開発している。

JAXAが開発した4発チルト翼小型無人VTOL機「QTW VTOL UAV」。

 その1機が2016年から静岡県庁と地方創生のプロジェクトとして開発してきた4発チルト翼小型無人VTOL機「Quad Tilt Wing VTOL UAV」だ。ペイロードを含む機体重量は最大25kgとし、2kgの機器や荷物を搭載することができる。バッテリーを動力源とする電動であり、飛行時間は約30分。

VTOL機は、翼と固定型もしくはチルト型のプロペラを設けた構造が一般的だが、翼ごとチルトする設計とした。

 固定翼機やVTOL機は、飛行時間が長いことが長所とされるが、同機の飛行時間は最近のマルチコプターに等しい。その課題を解決する仕組みが、飛行時間を飛行速度でカバーする構造だ。同機の最高速度は100km/hに達し、30分の飛行であれば約50kmを移動する計算となる。これを実現するにあたり、開発されたのが新技術となる翼部分の可変機構だ。

 通常のVTOL機は、固定翼と別に設けられた回転翼をチルトさせることで、垂直離着陸時の揚力と巡航時の推進力を発生させ、2つの役割を担うというもの。そのプロペラを動かすためにエンジンを搭載する機体が多い。JAXAではこのエンジンが余分な重量物となっていると考え、エンジンを必要としない完全にバッテリーで動く同機を開発し、1フライトあたりの飛行移動距離は通常のVTOL機にも劣らない性能を実現した。

 なお、翼自体をチルトさせるといった珍しい構造は、あらゆる速度で安定した飛行を可能にするという。この仕組みについて担当者は「通常のマルチコプターでは、向かい風が強い場合、巡航方向にドローンが進めなくなる。また、通常のVTOL機ではプロペラのチルト調整ができないため、ホバリングか巡航のON/OFFしかない。しかし、開発したVTOL機であれば、強い向かい風が吹いていても翼を水平にしたままホバリングが可能であり、風に対して少しチルトさせるということが可能。すなわち、速度や風速に対して翼のチルト量を調節することによって広い速度範囲で常に安定した飛行を実現している」と説明してくれた。

 同機は災害時の情報収集ソリューションとして導入段階に入っており、地方自治体への導入などを検討している。一方、まだ製品化には至っておらず、JAXAは技術開発のプラットフォームとしても運用している途中だという。現状、巡航時はウェイポイントによって自動航行を行い、自動で着陸する機能を備えているが、離陸は手動操縦となるため、完全自動化に向けて技術開発を進めている。なお、地上局やフライトコントローラーは独自開発を行い、7月には実証実験を実施し、離陸から着陸までの自動化に成功しているという。

 最後に担当者は「今後は同機を使って自動航行技術や効率的な飛行技術を確立し、同様の設計でドローン物流を行うための大型化も視野に入れている。そのほか、有人ヘリに搭載している動態管理システム「D-NET」の搭載による有人機と無人機のタスク分けなども考えている。JAXAでは、外国の技術と差別化できるような新技術の開発を念頭に研究を進めている」と話した。

JAXAのドローン開発の第一歩となった固定翼機「UARMS」

小型無人機を使った放射線のモニタリングシステムとして開発された従来機。

 JAXAのブースには、QTW VTOL UAVの従来機となる「UARMS」も展示されていた。UARMSは、日本原子力研究開発機構(JAEA)との共同研究となる小型無人機を使った放射線のモニタリングシステムとして開発された固定翼機だ。

機体の後部には巡航時の推進用プロペラを備えている。

 機体の胴体下部にJAEAが開発した放射線測定装置を搭載し、測定範囲を飛行させることでデータを収集する。放射線測定装置を搭載するためペイロードは3~10kgとし、機体重量も最大50kgと重い造りになっている。こちらはガソリンエンジンで飛行する構造を採用しており、その飛行時間は約6時間と長時間飛行が可能だ。QTW VTOL UAVとは異なり、滑走路を使った離着陸となる。

 現在はUARMSを使った放射線のモニタリングは実施されておらず、自動航行などの飛行制御の技術開発用機体として運用されているという。

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