長大は道路や橋梁の設計など、交通インフラを主に取り扱う建設コンサルタントだ。新規事業として空の交通インフラとなる空飛ぶクルマ事業も手掛けており、6月に開催された第1回次世代エアモビリティEXPO2022にて空飛ぶクルマの離着陸場のモデルを提案した。

 道路などの交通分野では、新規でインフラを設計するとレイアウトや場所によって生態系に影響を与えてしまうことから、事前の環境アセスメント調査が行われ、長大はこれを担っている。そのほか、交差点や信号の設置に対する渋滞への影響を精査するシステム構築、さらには道の駅のグランピング施設の整備・運営など、調査から運営まで幅広い事業を手掛けており、空飛ぶクルマにおいてもシステム構築から離着陸場の設計、運営などを担っていきたい考えだ。

 空飛ぶクルマの制度設計や機体の開発は、国と民間企業で議論を交わしながら進められている。機体開発は、2025年の日本万博博覧会(大阪・関西万博)での飛行に向けてスカイドライブが耐空証明の取得に取り組んでいる状況だ。そして、経済産業省が公表したロードマップでは2030年に社会実装が予定されている。しかし、世界では日本より5年早い2025年の実装を予定している国もあり、日本はそのような国から実装スケジュールで後れを取っている。

 長大は空飛ぶクルマを有効活用するための制度設計と普及促進を目指し、実現に欠かせない離着陸場などの周辺環境の設計を提案している。担当者は「海外企業から離着陸場やポートの構想イメージがいくつか発表されている。とても綺麗で近未来なパースが多いが、人の通路や充電設備、待合室などのレイアウトまで実際の利用を加味した完成予想図にはなっていない。そこで、今回は現実的な利用を踏まえた離着陸場のモデルレイアウトを制作した」と話し、法規制や運用機体が明確に決まっていない中、スカイドライブの機体をモデルにレイアウトを考案したという。

ビルの屋上に設けた離着陸場の検討模型。80m×80mの屋上面積を想定し制作された。

 制作した離着陸場の検討模型では、空飛ぶクルマの離着陸地点が並び、隣には格納庫が設けられている。格納庫は空飛ぶクルマの整備点検を行う場所としており、それに隣接する形で充電施設も想定された。長大はこのように見える化することで、課題の抽出を行い、今後制度設計をしていく上での検討材料を集めていく。

 また、国は新たに今年度から空飛ぶクルマの離着陸場を検討する「空の移動革命に向けた官民協議会 離着陸場ワーキンググループ(WG)」を設置するとしている。長大も官民協議会に参加しており、検討模型をもとに何が必要かを明確にしていきたいという。

 離着陸場の検討モデル制作について、担当者は「法規制や導入機体が定まっていない中でモデルを制作するのは難しい。また、新たなモビリティなのでどのような需要があるか、ということから検討していかなければならない。例えば、現在開発されている機体の中には、充電式とバッテリー交換式があるが、これによっても充電設備の構造が変わってくる。今回はビルの屋上に離着陸場を設けることを想定したが、バス停のような利用であれば離着陸場に加えて、待合室を設ける必要がでてくるかもしれない。一方、病院の屋上であれば待合室は不要となるなど、用途によっても離着陸場のレイアウトは変わってくる」とモデルを考案する難しさを語った。続けて、「離着陸場案の多くはビルの屋上を有効活用することが当初から注目されているが、既存のビルを離着陸場に改装するのは難しい。充電設備が必要となれば、消防法に該当するため、消火設備も設けなければならず、離着陸場はビルの新設段階から設計に組み込むのが理想だ。ビルの屋上以外では、道の駅のヘリポートや災害救助用として消防署や病院に離着陸場を設けることも考えられる」と普及への課題について触れた。

 長大は実際の運用を前提に、周辺設備と機体の開発、制度設計に有効な材料や課題をリサーチし、新たに設置されるWGで検討していく。