6月21日から23日の期間、幕張メッセにて「第7回Japan Drone 2022」が開催されました。それと同時に空飛ぶクルマ・エアモビリティ(UAM)に特化した「第1回次世代エアモビリティEXPO 2022」も開催されました。参加企業187社・団体、入場者1万7021人と過去最大の規模となりました。

 UAM関連では機体開発ベンチャーのHIEN Aero Technologiesとハイブリッドエンジン開発のエアロディベロップジャパン(ADJ)が新規出展し注目を集めました。ADJの技術は重量当たり電気出力(エネルギー密度)がリチウム電池の5倍以上で、500kWまでのスケールアップが可能であると発表され、大きな関心が寄せられました。同社は大型ドローン用の30kWエンジンの予約販売開始も発表しましたが、500kWの出力があれば5人乗りのUAM(Urban Air Mobility)が実現でき、エンジンを2機搭載すれば10人乗りも実現できる可能性があります。

展示会の一般参加者の投票と外部有識者で構成する審査会において、この技術の革新性と可能性が評価され「Best of Japan Drone Award 2022」のAdvanced Air Mobility部門賞を獲得しています。

 2022年5月に航空業界のデータ調査を専門とするCirium(https://www.cirium.com/jp/)がエアタクシー用(4人乗り以上)のUAM機体の予約販売状況を発表しましたが、これによると2024~2025年にかけて耐空証明を取得予定の先行メーカー8社に対し、世界のエアライン、航空機リース会社など38社からの予約注文合計は4500機(金額で約1兆円)に達しているそうです。

 シンガポール工科大学のWang教授は、これら先行8社の年間生産量は2030年には1600機(3500億円)になり、2040年にはホンダなどの後発組を含めた40社で年間8万機(13兆円)が生産されるとの予測を行っています(2022年2月の大阪JETRO本部主催の講演会より)。

 市場形成後わずか15年程度でこのような規模に成長するという予測であり、自動車産業と同じ100年の歴史を経た後では、自動車産業を超える巨大な産業になるかも知れないと予想する論評もあるほどです。

 先行する8社の機体諸元は以下の表にまとめたとおりです。

メーカー(機体名)機体形状動力操縦士を含む搭乗人員(人)航続距離(km)耐空証明取得予定(年)
ブラジルEMBRAER(EVE)Lift and Flyバッテリー51002024
イギリスVertical Aerospace(VX4)Vector Thrustバッテリー52002024
アメリカJoby AviationVector Thrustバッテリー42402024
ドイツLiliumVector Thrustバッテリー5~71002025
アメリカArcherVector Thrustバッテリー51002024
アメリカBETA(Alia-250)Lift and Flyバッテリー64002024
スイスDufour Aerospace(Aero3)Tilt Wingハイブリッドエンジン810202025(予定)
アメリカOverair(Butterfly)Vector Thrustバッテリー61612025

 この表から読み取れることは、当面はバッテリー動力で設計できる限界が6人乗り前後であること。さらに、航続距離は100~400kmと比較的小型のものに限られていることが判ります。

デュフール・エアロスペースが仕様を発表したチルトウイング型のVTOL機「Aero3」。

 特に注目されるのはスイスのデュフール・エアロスペースの機体であり、主翼を垂直から水平に回転させるチルトウイング方式を採用していることです。垂直飛行から水平飛行に移行するときの機体の安定が最も難しいといわれる形式で、動力にはハイブリッドエンジンを使っています。同社は既にチルトウイング形式のドローンも販売しています。詳しくは同社のHPを参照してください。(https://www.dufour.aero/

 この表に掲げた機体はいわば第一世代の小型エアタクシーとでもいうべきであり、次世代大型エアタクシー用の基幹技術開発が欧米において既に始まっています。技術開発の焦点はデュフール・エアロスペースにみられるハイブリッドエンジン技術です。

 ハイブリッドエンジンの駆動源としては、レシプロエンジンやロータリーエンジンでは到底実現できない大きな回転速度(5万回転以上)が得られるガスタービンエンジンが候補となります。これによって大電力と大きなエネルギー密度が実現でき、設計の自由度が大きくなります。またガスタービンエンジンは100%バイオ燃料の使用が可能であり、バッテリーでは不可避となっている充電時間のロス、高価な急速充電設備、管理・保守性の悪さを一貫して解決できるため次期大型機用ではガスタービンエンジン駆動のハイブリッドエンジンが注目されているのです。

 米国のハネウェルはドイツのLiliumに日本のデンソーとタイアップしてモーターを提供すると発表したばかりですが、旅客機用の補助エンジン(機体最後部に設置するガスタービン駆動の発電機)に使うガスタービンを使った1000kW出力の次期UAM用ハイブリッドエンジンの試運転を開始しています。2021年にホンダが発表したUAMにもガスタービン駆動のハイブリッドエンジンが使われます。また、日本から300機の予約発注のある英国のVertical Aerospaceに基幹技術を提供しているロールスロイスは、ガスタービン駆動ハイブリッドエンジンの開発を開始しました。その出力は500kW~1200kWの範囲を狙っています。なお、このプロジェクトにはドイツ政府が資金提供を行うことが決定しており、ドイツ最大の航空機エンジンメーカーであるフリードリヒスハーフェンも参画します。このようにUAMの開発には巨額の民間資金と政府資金が欧米の産業界に流れ込んでいるのです。

 航空機の製造をあきらめて約40年が経過する日本ですが、今回のJapan Drone 2022で次期UAM機の国産化の可能性に対する光を感じたのは筆者だけではないのではないでしょうか。

千田 泰弘

一般社団法人 日本UAS産業振興協議会(JUIDA)副理事長
一般社団法人 JAC新鋭の匠 理事

1964年東京大学工学部電気工学科を卒業、同年国際電信電話株式会社(KDD)に入社。国際電話交換システム、データ交換システム等の研究開発に携わった後、ロンドン事務所長、テレハウスヨーロッパ社長、取締役を歴任、1996年株式会社オーネット代表取締役に就任。その後、2000年にNASDA(現JAXA)宇宙用部品技術委員会委員、2012年一般社団法人国家ビジョン研究会理事、2013年一般社団法人JAC新鋭の匠理事、2014年一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)副理事長に就任、現在に至る。